2017年02月17日 公開
2023年10月04日 更新
著者・白井智之の書く小説は、これまでの3作品ともなんらかのSF的設定がある特殊なミステリだ。
デビュー作『人間の顔は食べづらい』では、ウイルスによって人以外の動物がほぼ死滅したため、自分のクローンを作って食べることが許された世界。
続く『東京結合人間』では、男女が「結合人間」となって特殊な生殖を行う世界。
そして本作では、全身に「脳瘤」と呼ばれる顔が発症する奇病「人瘤病」が蔓延した世界。
著者の小説がすごいと思う理由は大きく二つある。
一つは、食用クローンに結合人間に人面瘡と、これだけ奇妙な設定を作りながらも、その背景設定を緻密に行なっていること。
どんなに特殊で奇抜な設定も、読む側が簡単に矛盾を指摘できるような緩いものでは、物語としては成り立たない。
特殊で奇抜なSF設定というと、たとえば奇書と名高い『家畜人ヤプー』(沼正三)などを思い浮かべるが、あれもものすごく緻密な設定がなされているために、あり得ない内容でありながら、ある種の説得力すら持って読み手を圧倒し続け読み継がれている。
本書における「人瘤病」についても、その症状や患者の病気への対処法などについてさまざまな設定が考えられており、読み進めるうちにすっかりこの世界に慣れてしまうのだ。
もう一つは、こうしたとんでもない世界観と本格ミステリが見事に融合していることだ。トンデモ小説と思うなかれ、内容は実に論理的なミステリ小説である。特殊設定にまつわるさまざまな描写が伏線になっているため、先が気になってついページをめくる手を早めてしまいそうなところをグッと押さえて丁寧に読む必要がある。
グロテスクな描写を嫌う人からすると、嫌悪感を覚えるであろう描写も多く、読む人を選ぶ小説ではあると思う。ただ、ある程度そうしたものが大丈夫という人にはぜひともお勧めしたい作品。これまでの3作いずれも読み始めたら一気読み必至、甲乙つけがたい面白さの傑作だと感じている。
執筆:Nao(「小説」担当)
更新:11月22日 00:05