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日本人の元気を失わせる「過剰清潔社会」の問題とは?

2017年02月07日 公開

藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)

過剰な菌排除がうつ病の原因にも!?

日和見菌とはその名のとおり、健康時には身体に良い働きをし、体調不良のときには悪玉菌に追随し身体に悪さをする菌のこと。私たちが雑菌と呼んでいる菌の多くはこの日和見菌だという。

「口から入った日和見菌は、一度腸内で死滅します。ですが、自分と同じ遺伝子を持つ子孫を腸内で増やします。腸内細菌の種類や数が増えたほうが腸内細菌全体が活性化されるため、積極的に取り込んだほうがいいのです。

腸内細菌の活動が低下すると免疫力が低下し、外敵に弱く病気にかかりやすくなります。ビタミンを合成することができず、免疫力が低下し病気にかかりやすくなるとともに、ビタミン不足で肌が荒れ、荒れた肌に花粉やアレルゲンが刺激となり、アレルギーやアトピーを発症することにもなるのです」

腸内環境はさらに、人の幸福感ややる気にも影響を与えるのだという。

「幸福感ややる気を出すホルモンであるセロトニンやドーパミンといった脳内物質も腸内で合成されます。この二つの神経伝達物質が脳で不足すると、人はだんだん落ち込んでいき、やがてうつ病になってしまいます。

正確に言えば、脳には血液脳関門というゲートがあり、腸で合成されたセロトニンは通過できません。ただ、腸ではセロトニンの前駆体であるヒドロキシトリプトファンが合成され、それが脳に運ばれることで、セロトニンに合成されるのです。

脳が死んでも、『脳死』として身体は生き続けます。けれども腸が死んだら、人体は完全に停止します。腸はそれだけ大切な器官なのです」

 

「清潔すぎる環境」がアレルギーの原因に

この腸内環境は本来、生後約一年で決まってしまうという。親は赤ちゃんをなるべく無菌状態で育てたがるが、それはむしろマイナスになるという。

「体内に持つ腸内細菌の種類は一人ひとり異なり、これは生後約1年で決まります。この時期により多くの細菌を取り込めば取り込むほどいい。赤ちゃんが身近な人やものをなんでもなめようとするのは、体内に日和見菌を取り込むという重要な意味もあるのです。

ただ、この時期にあまり菌に触れないようにすると、腸内細菌の種類が少なくなり、それがアレルギーやアトピー、ぜんそくなど現代人が多く発症する症状につながると見られています。

これは世界的な調査でわかったことですが、アレルギーにかかる子供はまず、先進国に多い。そして長男や長女など第一子に多い。これはつまり、先進国は菌が少ない環境にある。そして第一子は親も神経質になりがちで、過剰に菌を排除するからと考えられています。

逆に、酪農家や兄弟の多い家で育った子供には、あまりこうした症状がみられません。日本のスギ花粉症第一例は1963年ですが、これは日本人に回虫やギョウ虫などの寄生虫がいなくなったのとほぼ同時です。アレルギーや花粉症が清潔から引き起こされた現代病だとおわかりいただけるでしょう」

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著者紹介

藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)

東京医科歯科大学名誉教授

1939 年、中国東北部(旧満州)生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学教授を経て、現在は同大学名誉教授。専門は寄生虫学と熱帯医学、感染免疫学。1983 年に寄生虫体内のアレルゲン発見で小泉賞を、2000 年にはヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞を受賞。著書多数。

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