2017年01月15日 公開
2023年05月16日 更新
私の信条は「Life is short」です。
私は14歳のときに母を亡くしています。泳げないのにハワイでシュノーケリングをして、溺れたのです。きっと、「海がきれいだから潜ってみよう」と思ったのでしょう。私の母らしいな、と思います。
母の死に接して感じたのが、「Life is short」ということでした。それ以来、私の行動の根底には、この考え方があります。
「事業は永続性が大事だ」と言う人がよくいますが、私は「永続性」なんて信じていません。すべてのことには終わりがあるし、終わるから美しい。そして、終わることを意識しているからこそ、「活躍できるのは今だけなんだから、今日を懸命に頑張ろう」と思えるのだと考えています。
ですから、30代前半くらいまでの若い人には「自分の可能性に気づいて、それを使え」と言いたい。可能性というものは、使うモノなのです。
われわれの持ち物の中で最も貴重なモノ。それこそが「可能性」です。せっかく持っているのに、使わなければ価値がありません。
私が学校に通っていたときも「勉強をしろ」とはひと言も言わず、「お前、いつまで学校行ってんだ?」と言うような自由奔放な親に育てられたこともあるのでしょうが、私はずっと「自分は何にでもなれる」と思っていました。
学校自体は進学校で、3年生で文系と理系に分かれることになっていました。2年生のとき、「将来、何になりたいか?」という進路アンケートが配られて、理系へ進むのか、文系に進むのか、目指す大学はどこで、学部は何かを選ぶように言われました。
同級生たちはみんなアンケートに答えていましたが、私は「可能性という持ち物を使えば何にでもなれるんだから、『将来、何になりたい』なんて限定しちゃダメだ」と考えて、何も記入しませんでした。
そして、自分の可能性を使うべく、学校を辞めて海外へ放浪の旅に出ました。1人旅ですから、頼れる人もいない代わりに、何をしてもいいという自由さもありました。逆に言えば、何をするかは自分で決めなければいけない。旅を通して、自由には責任がセットになっていることを学びました。
自由とは何かといえば、自分の将来や未来を自分で決めるということです。そこには、当然、責任やリスクが伴います。失敗をすることもありますが、失敗は経験の中で最も素晴らしいものですから、どんどん失敗すればいいと思っています。失敗の回数と大きさが、ものすごく人を育てるのです。
帰国後、全力で取り組んだ音楽活動をやめることになったのも、失敗の1つです。大きな挫折感を味わいましたし、「どんなに望んでもできないことがある」ということを初めて知って驚きました。
しかし、それも「自分はクリエイティブに興味があるんだ」ということに気づくことができた、良い経験です。音楽への情熱がなくなっても、「自分が作ったモノを世に送り出したい」という気持ちは変わりませんでした。その気持ちが、バルミューダでのモノ作りにつながったわけです。
私がバルミューダを設立したのは30歳のとき。それまで、海外を放浪したり、音楽活動をしたりしていたのは、見方によっては遠回りだったのかもしれません。しかし、その経験があったからこそ今があると、私は考えています。
「何かを不可能だと言うことはできない」というのが、バルミューダのモットーです。
可能であることを証明することはできますが、不可能であることを証明するのは不可能です。なぜなら、みんなが「不可能だ」と信じていても、本当はまだ試していない方法があるかもしれないから。確かに、何百、何千という方法を試したかもしれないけれども、どんなことでも「すべての方法を試した」と言いきることはできません。まだ思いついていない方法があるかもしれず、その方法を使えば可能になるかもしれない。だから、不可能を証明するのは不可能なのです。
みんなが「無理だ」と言うことであっても、「本当か?」と疑うこと。このことが、モノ作りにおいても、生き方においても、大切だと信じています。
《取材・構成:桑原晃弥 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2017年1月号より》
更新:11月25日 00:05