2017年02月17日 公開
2023年05月16日 更新
(以下、星野佳路氏談)
星さんとは先日、温泉大浴場の魅力化について意見交換しました。温泉大浴場は、温泉旅館ブランドである「界」にとって魅力の柱となる要素です。その温泉大浴場を、今一度進化させるための社内プロジェクトを現在進めており、界の中でも顧客満足度が圧倒的に高い「界 松本」を視察してきたのです。
実を言うと、「界 松本」は再生を委託された施設であり、自分たちが設計したのではないこともあって、施設自体が優れているとはどうしても思えませんでした。それでも圧倒的に高い顧客満足度を得ている理由を、知りたいと思ったのです。
彼女と話して感じたのは、「顧客に大浴場を楽しんでほしい」という熱意のすごさです。大浴場のことを考え抜いているからこそ、大浴場が抱える課題も完璧に把握しているようでした。
彼女が指摘したのは、「温泉旅館に来た人が、温泉に入る時間が短すぎる」という点です。言われてみれば確かにそうで、私も温泉には少し浸かるだけで、すぐに出てきてしまいます。温泉に浸かる時間が短ければ、温泉の印象は強く残らず、満足につながらないのも当然です。
温泉に長く浸かってもらうことが、「温泉旅館に行ってきた感」を高めるには重要だというのが彼女の考えでした。そのための仕掛けが、入浴中の水分補給というわけです。
湯上がり処に水が設置されている施設は珍しくありませんが、彼女の提案がユニークなのは、浴室内にもペットボトルの水を用意しておくことでした。入浴中の人が飲むのに冷たすぎないよう、水の温度調節も抜かりありません。水分を補給しながら長く湯に浸かってもらうことで、ゲストに大浴場を楽しんでもらおうというわけです。そうした熱意や細やかな配慮がゲストに伝わり、大浴場を含めた界 松本の施設全体の満足度を高めていると思いました。
星さんと話しながらもう一つ気づいたことは、地域によって気候も泉質も違うため、界として温泉の楽しみ方を一概には提案できないということです。たとえば、阿蘇にある温泉と津軽にある温泉では、入浴時のコンディションも体感する寒さも違います。だからこそ、星さんのような現地スタッフが、その土地の気候や泉質に合った温泉の楽しみ方を提案できることが最も重要なのかもしれません。
星さんのように、好きなことを追求して自分の専門性を持つことは、本人とっての強みになります。ただ、長い目で見れば、「自分の専門はこれ」と決めつけずに、その分野で得た知識やノウハウを、別の分野にも生かしていくことが大切だと思います。とくにスキー場で働くスタッフには、スキーやスノーボードが好きだからスキー場で働いている、という人が多いのですが、ある程度の年数に達したら一度スキー場を離れ、培った経験を生かして次のステップを目指してほしいと思っています。
大事なことは、その人にとって何が能力であり、将来の競争力になるかということです。専門性を極める中で培った顧客志向の姿勢や、数字を読む力、試してみる行動力などは、経営やマネジメントの分野にも生かせるはずです。私たちはそうした能力を評価します。
活躍の場を広げることをスタッフに期待するのは、そうすることで収入面での充実も期待できるからです。優秀なスタッフに会社で長く働いてもらうには、楽しく仕事するだけでなく、給与が上がり、生活が豊かになっていくことも大切です。そのためにも、現場で培った専門性を幅広い分野に生かし、活躍の場を広げていってくれることを期待しています。
《『THE21』2016年12月号より》
更新:11月26日 00:05