2017年01月20日 公開
2023年05月16日 更新
(以下、星野佳路氏談)
富永さんは、2011年に星野リゾートがこの施設の再生を請け負い、「リゾナーレ小浜島」として営業を開始する前から施設管理マネジャーとして働いていたスタッフです。
「それまでは言われたことをやっていた」と本人も言うように、施設管理はあまりやりがいのある仕事と言えなかったのかもしれませんが、今では施設の魅力作りに直接関わることのできる創造的な仕事に変わっています。たんなる修繕の仕事ではないところが面白いし、「こういうものを作れば顧客が喜ぶのでは」と自分たちで考えて提案できるフラットな組織のあり方も気に入ってくれているのだと思います。
当社では顧客満足度調査を実施し、その結果を社内でオープンにしています。調査結果を参考に自己修正したり、新たな提案につなげたりできる仕組みを取り入れているのも特徴です。
ですから、富永さんは単に物作りが好きという理由で仕事を楽しんでいるわけではないと思います。自分の造作物が顧客に喜ばれ、その写真がホームページや広告にも掲載される。自己満足ではなく、顧客や周りのスタッフに支持されることが楽しいのではないでしょうか。
とはいえ、富永さんが星野リゾートに転籍してすぐに仕事を楽しめるようになったわけではないと思います。「フラットな組織ですから、会議で自由に提案してください」と言っても、旧来の縦型組織に慣れた中途入社組がフラットな組織に馴染むには時間がかかります。「言いたいことを言えと言うけれど、本当に言ったら怒られるのでは」と半信半疑なのです。
その点、まっさらな感覚で入社してくる新卒社員の意識は、完全にフラットです。星野リゾートの施設として再出発してから時間が経過し、毎年の新卒採用で若手が増えていくと、組織文化も変わっていきます。そういった変化も追い風になって、富永さんも2~3年目あたりから仕事を楽しみ始めたのではないでしょうか。
小浜島は、透き通るエメラルドブルーの海と、白い砂浜、夜の暗闇で見上げる天の川が素晴らしい南国のリゾートです。こうした「小浜島らしさ」を表現するため、リゾナーレ小浜島は「沖縄で最もロマンチックなリゾート」を打ち出しています。
背景には、リゾート施設が抱える課題があります。沖縄は繁忙期の夏に人が集中し、春から秋にかけても島めぐりを目当てに人が訪れます。ところが閑散期の冬は一気に人が減り、冬の赤字が夏の稼ぎを吹き飛ばしてしまいます。リゾート施設にとって、冬にどう集客するかが大きな課題なのです。
お隣の石垣島を見てみると、冬は20~30代のカップルが多く訪れていることがわかりました。この客層をターゲットに考えたとき、「ロマンチック」というキーワードが生まれました。もともと素晴らしい小浜島の自然を、ロマンチックな空間に変えることで、若いカップルやファミリー層に訪れてもらおうという戦略です。
この戦略に沿って実現したのが、自然の中の図書館であり、夜空を見上げる巨大ハンモックであり、珊瑚とランタンでビーチを彩るホワイトクリスマスの施策です。これらの施策は顧客に支持され、スタッフのモチベーションを刺激し、さらに魅力的なアイデアを生み出すという好循環が生まれています。
リゾナーレ小浜島は毎年業績を伸ばしてきましたが、2015年3月期に開業以来初の経常黒字を達成しました。「ロマンチック」をキーワードとする冬の集客策が成功したことが大きな要因です。施設としていい方向に動き出していると思います。
《『THE21』2016年8月号より》
更新:11月26日 00:05