2016年12月16日 公開
2023年05月16日 更新
(以下、星野佳路氏談)
2001年にリゾナーレ八ヶ岳がオープンしてから、地域の魅力として「ワイン」を打ち出し、「ワインリゾートの旅」を提供できるようになるまでに10年。長い道のりでした。
リゾナーレ八ヶ岳は、星野リゾートがリゾート再生として取り組んだ最初の案件でした。建築界の巨匠、イタリアのマリオ・ベリーニが手掛けたデザインホテルという触れ込みでしたが、八ヶ岳の麓にイタリアへの憧れを思わせる建物があっても、なぜその土地にその建物が必要だったのか、運営当初は必然性が感じられませんでした。再生するにあたり、地域の文化と魅力、そして建物を結びつけるストーリーとして不可欠だったのが、「ワインリゾート」という切り口でした。
とはいえ、当面は投資のための資金づくりに必死でした。いくらワインリゾートと銘打っても、部屋の不満が多ければ話になりませんから、まずは部屋を改装するなど集客できる体制を整えていきました。同時にワインプロジェクトの一環として醸造家の池野美映氏をサポートし、「ドメーヌ ミエ・イケノ」の開設、提携に至ったことで、ワインリゾートとしてのリゾナーレ八ヶ岳が誕生したのです。
その後、ワインリゾートのコンセプトに共感するスタッフが大勢入社してきてくれました。小寺さんもその一人です。ワインが好きで、地産ワインの魅力を伝えたいというスタッフの熱い思いと独自の活動が、ワインリゾートとしてのリゾナーレ八ヶ岳を支えています。
リゾート経営で重要なことは、優秀な人材に長く働いて成長してもらえる環境をつくることです。ホテルや旅館で働く場合、地方の僻地が職場になることが多く、優秀な人材の確保が難しいのです。会社に必要な仕事を強要するばかりでは、人はどんどん辞めていきます。
もちろん、会社としてやるべき業務もありますが、基本的には本人が好きなことに楽しみながら取り組んでほしい。それが長く勤めてくれることにもなり、会社にとってもプラスなると考えています。
リゾート経営にとって、それだけ人材の確保が優先すべき課題だということです。マーケティングやファイナンスよりも重要といっても過言ではありません。もしその企業にとって人材の確保が優先すべき課題であるなら、楽しみながら仕事をする方法を模索してみてはいかがでしょうか。
スタッフの好きなことやこだわりを尊重するのはいいけれど、そのためにお客様のニーズを読み違えることはないのか――。
そんな心配はまったくしていません。むしろ、読み違えたっていい。お客さまのニーズとの多少のズレは問題ではないし、微妙な差異の調整をスタッフに強いることで、仕事がつまらなくなることのほうが問題です。
また、リゾートを訪れるお客さまがニーズを持っているかというと、そうでないこともあります。旅先でどんな体験をしたいのか、明確な目的を持たずにいらっしゃる方も多いものです。
お客様のニーズが明確でないなら、私たちは何を提供するのか。自分たちのこだわりを提供するしかありません。お客様にとっては、それが外れることもあれば、予想以上の驚きや発見を生むこともあるのです。後者のような感動するサービスは、小寺さんのように、「好きでしょうがない」くらいのこだわりを突きつめて欲しいと思っています。
《『THE21』2016年1月号より》
更新:11月22日 00:05