2016年12月02日 公開
2016年12月02日 更新
日本には約3000の温泉があるという。
そんな温泉に魅せられ、会社を辞め、自腹でそのすべてを回ろうと思い立った著者の温泉めぐり紀行が本書。
堂々500ページの大著で、新書判とはいえなかなかの迫力。その凶器になりそうな分厚さに軽い狂気を感じるが、読んでみると肩の力が適度に抜けた、穏やかで読みやすい紀行文に仕上がっている。
温泉の細かい情報は下段の注釈欄にまとめられているので、ページ数の割にさっと読むことができるのもいい(注釈すべてを読んでいると日が暮れる)。
著者も指摘するように、3000の温泉といっても一つの温泉地で複数の風呂に入った場合、それぞれ1カウントするので、実際には日本のほぼすべての温泉を網羅した、とは言えない。
著者が「前に行ったことがある」ということで、箱根や伊豆といった有名温泉地は外されていたりもする。
それでも「日本にはこんなに温泉があるのか」とうならされること必至だ。
著者は主に日帰り入浴施設や地元の小浴場を巡っているので、地元の人と交流する機会も多い。それぞれの温泉がどのように地元の人と関わっているかが垣間見れるのも本書の魅力。これは、旅行客だけで閉じられている温泉旅館では味わえない感覚だろう。
特に東北や九州といった温泉どころでは、日常の中に当たり前のように温泉がある。
「温泉大国・日本」を肌で感じられる一冊だ。
ちなみに本書で初めて知った温泉用語が「オーバーフロー」。
湯船から湯があふれ出る様(=そのくらい湯量が豊富な様)を表わすそうだが、風呂だけにオーバーフローとはなかなか秀逸なネーミング。積極的に使っていきたい。
執筆:Y村(「紀行」担当)
更新:11月26日 00:05