2016年11月25日 公開
2016年11月29日 更新
4年前に発刊された本ですが、この本以降、「アイドルダンス」について論じた本は世に出ていないのではないでしょうか。長く「アイドル戦国時代」が続いており、無数のアイドルたちがダンスをしているにもかかわらず!
体育大学でダンスを学び、実際にアイドルの振付けをしている著者が、本書で指摘しているアイドルダンスの特徴は2点。「歌詞と振付けのリンク」と「振りコピ」です。
「歌詞と振付けのリンク」はキャンディーズの時代からのもので、アイドルのことをよく知らない私でも「確かにそんな気がする」という程度には認識してはいるのですが、ダンスを学んだ著者は「歌詞と振付けがリンクしているダンスといえば、フラのハンド・モーション(手の動き)が代表的ですが」(P.29)と話を展開させます。さすが。フラでは「この振付けはこういう意味」という対応関係が決まっているのに対して、アイドルダンスでは決まっていないのが特徴だとのこと。
また、歌詞には表われていないところまで振付けで表現することがあるのも、特筆すべきところのようです。たとえば、Perfumeの『チョコレイト・ディスコ』の歌詞の中には女の子がチョコを手作りする様子が描かれていませんが、振付けでは表現している。
2点目の「振コピ」とは、観客が真似をしやすいということ。他のジャンルのダンスでは観客にもダンス経験者が多いのに対して、アイドルダンスの観客はほとんどがダンス未経験者。それでも「ライブ会場でノッている自分を表現するため」(P.35)に、ダンスの真似をしたい観客が一定数いる。そこで、真似しやすい振付けを意識しているのだそうです。とはいえ、簡単なダンスではステージで映えないので、難易度の設定を工夫しているとのこと。Perfumeの場合は、難易度の高いダンスがウリなわけですが、「みんなが踊れる仕様の曲を用意した上で、Perfume本人が何度もレクチャーして、『それじゃ、みんないくよ!』とやるので踊れる」(P.59-60)。
このように、ダンスを幅広く学び、実際にアイドルダンスの振付けをしている著者ならではの視点から、私のような素人にとっては興味深い指摘がいくつもなされています。正直なところ、論考としてそれほど深く掘り下げられているわけではないように感じはしましたが、ほとんど論じられることのないテーマにフォーカスした本であることに存在価値があるでしょう。また、さまざまな論客がこのジャンルの評論に参加するようになれば、深い議論も生まれてくるのだと思います。
執筆:S.K(「人文・社会」担当)
更新:11月23日 00:05