2017年01月19日 公開
2023年01月12日 更新
良品計画のトップ時代に、業績不振からのV字回復を達成した松井忠三氏。同社を退社後も、流通・サービス業に関わる公的活動やコンサルティング業など、精力的に活躍を続ける。そんな松井氏が、二十五年間愛用し続けているビジネスツールが能率手帳である。手帳とはいえ単なるスケジュール帳ではなく、アイデアなどを書き留めるメモ、ノートとして活用してきた。どんなことを書いてきたのか、お話をうかがった。《取材・構成=林加愛、写真撮影=長谷川博一》
かつて良品計画において徹底した組織改革を断行、業績不振からのⅤ字回復を実現した松井忠三氏。2015年に同社会長を退いたのちも、複数社の社外取締役やコンサルティング業、講演活動などで多忙な毎日を送っている。松井氏は良品計画に転籍した年である1991年から25年間にわたって、日本能率協会のロングセラー、「能率手帳」を毎年使っている。能率手帳はスケジュール帳だが、松井氏にとってはそれ以上に大きな意味を持つツールだ。メモ帳として、ノートとして、仕事に役立つ情報から自らの生活習慣まで、あらゆる事柄をここに書き込んでいるのだ。
「西友ストアー(現・西友)から良品計画に移った年に初めて使ってからは、このノート一筋で、別のメーカーのものに替えたことはありません。なぜか、と問われると難しいですね。結果として25年続いてきたということは、きっと相性がよかったのでしょう。ともあれ、情報を書き込む手帳やノートというものは、このように『同じものを使い続ける』ことが重要だと私は考えています。
なぜなら、経営者は、常に長いスパンで物事を見渡す必要があるからです。年次ごとの状況を比較したり、そこから見える翌年以降のビジョンを考えたりするとき、1年できっかり切り替わる、同じ仕様の手帳が大いに役立つのです。
経営者をしていると、前年と今年、あるいは今年と来年、と言う風に、2年分の手帳を開いて考える機会が多くあります。ですから私は、昨年のものと今年のもの、来年のものの3冊を常に手元に持っています」
毎年秋に翌年の手帳が発売されたら、即入手する。購入後に最初に行う作業は、先々まで入った予定を記入することだ。
「現在、社外取締役や経営顧問を務めている会社が十社以上あります。そこでは、取締役会や決算発表などの日程が早々に決まるので、書き洩らしのないよう注意が必要です。スケジュールは秘書が管理していますが、自分でも常時確認できるようにしておきたいですね。2018年の予定もすでに入り始めていますが、それらは一時的に、2017年版の同月の空欄に記入しています」
書き込む事項は予定だけではない。むしろ、それ以外の情報のほうが数多く、事細かに記入されている。
「たとえば、日付の下には毎日天気を書いています。これは、良品計画時代に始めました。天候は、毎日の商品売上に大きく影響する事項だったからです。今年と前年の同日の売上げを比較するとき、『去年の今日は台風が来ていた』などの情報は不可欠。現在は単なる習慣として書いていますが、当時は最重要と言えるデータでした。
前年との比較、という視点で言うと他にもあります。1年の最終週のページには、12月31日の『大納会』における日経平均株価と良品計画の株価を必ず毎年記入していました。ここには、前年と今年のものを両方書くようにしています。一年間の総括として、日経平均のパフォーマンスより良品計画のパフォーマンスが良かったかどうかを確認するためです」
メモページには、歴史上の偉人や経営者の名言が書き連ねられている。雑誌に載っていた記述、ときには、松井氏自身の考えを表した言葉もある。
「経営に携わる者として心しておきたい、と思った言葉は、忘れないうちに必ずメモします。自分で良い言葉を思いついたと思ったときは、自分の名前と一緒に書いておきます。そして、折に触れ見返し、自らの経営理念をそのつど問い直すのです。一年が終われば、書き溜めた名言をパソコンで打ち直し、保存します。パソコンには、もう十年、二十年ぶんの名言がストックされていることになります。その中で何年たっても輝き続ける言葉が、私の経営哲学となっています」
更新:11月22日 00:05