2016年09月14日 公開
2016年09月14日 更新
タイトルのように「世界」を変えたのかはともかく、初音ミクが日本の音楽シーンに大きな影響を与えたことは事実でしょう。確かにkz(livetune)やryo(supercell)、米津玄師といったボカロP出身のミュージシャンたちが商業音楽でも活躍し、『千本桜』などのボカロ曲がカラオケランキング上位の定番になっている。本書ではこの現象を、元ロッキング・オン社の編集者である著者が、音楽史上に位置づけてくれています。
本書では何度も「ある日突然、『電子の歌姫』が誕生して、未曽有の現象を引き起こしたわけではない」と繰り返されます。そして、そのことは初音ミクのキャラクターデザインを見てもわかる、と指摘します。左腕の模様はヤマハのシンセサイザー『DX100』(1985年発売。『DX7』〈1983年発売〉の廉価版)だし、髪の色はそのインジケータのボタンの色だし、スカートにはMIDI端子が描かれている。つまり、80年代にシンセサイザーなどが普及したことによってDTM(デスクトップミュージック)が盛んになったことの記憶が、初音ミクの姿には刻み込まれているのです。
著者は、さらにヒッピー文化が栄えた1967年まで遡り、また初音ミクが商業音楽化されていく頃まで時代を下って、初音ミクを生んだキーマンやボカロPなど関係者たちへのインタビューを豊富に交えながら、初音ミクについて論じます。私は音楽に疎いので、非常に勉強になりました。そして、「なんだかよくわからない」と思っていた現象が、自分が生きているのと同時代に、同じ世界で起きている現象であるという、当然と言えば当然のことに、少し実感がわきました。今まで持っていなかった視点を与えてくれるのが本の大きな役割だと、改めて感じた次第です。
執筆:S.K(「人文・社会」担当)
更新:11月23日 00:05