2016年09月11日 公開
326 ところで、日本代表やシャルケのような人気チームでプレーするとなると、プレッシャーも相当では?
内田 実は意外と感じないのです。というのも、僕はなるべく「人のために」という意識が強くなりすぎないようにしています。ファンの方の応援はもちろん嬉しいのですが、「ファンのために絶対勝たねば」と考えると、かえってプレッシャーに負けてしまう。頑張るのはあくまで自分であり、その結果を負うのも自分。期待を背負い込みすぎないほうがいいというのが、僕の行き着いた結論です。
326 この本を描いているときは常に、自分の中に小さな小学生の内田選手がいて、「彼がこの世界に迷い込んだら、どうするだろう」と考えながら進めていました。そんな僕の勝手なイメージなのですが、内田選手は「ケンカを仲裁する」リーダータイプの人のような気がするんです。『ウッチーマン』にもそんなシーンが出てきます。実際はどうだったんですか。
内田 うーん、学級委員や生徒会はやっていましたが、「やらされていた」という感じですね。僕は誰からも嫌われないタイプだったので、先生にとっては便利だったのでしょう。
326 監督にも向いているんじゃないですか?
内田 いや、僕はコーチがいいです。監督は成績が下がるとクビが飛びますから(笑)。
それに、サッカーでは監督が戦術を考えるより、コーチが考えるチームのほうがうまくいくことが多いんです。具体的な作戦はコーチに任せ、監督は選手に「行ってこい」と言うだけ。それで選手が動くカリスマ性があれば、監督はサッカーを知らない人ですらいいと思います。
326 確かに、今活躍している監督には、いわゆる「モチベーター」が多いですよね。
内田 ただ、コーチといっても、人に教えるのは実は得意ではないですね。いいパスの出し方とかを聞かれても、きちんと言葉で伝えられない。どこにパスを出すかなんてその時、その人次第。「あの時、あの人が見えていた?」と聞いて、「見えていない」と答えられたら、もうそれ以上どうやって教えていいかわからない。
326 やはり、それは感覚的に見えてくるものですか。
内田 瞬時に数パターン、普通は3~4パターンくらい見えますね。遠く離れたフォワードに回すか、目の前の人に回すか、ボランチを使うか、あるいはターンして戻すか……。「間接視野」とでもいうもので、ボールを受ける前にパッと、敵や味方がどこに、どのくらいいるかを観る。そして、それを元に判断する感じでしょうか。
326 なるほど、でもそれが瞬時に見えるのは、ごく一部の一流選手だけだと思いますよ。味方の選手の個性なども頭に入っているのですか?
内田 そうですね、その選手が右利きか左利きか、香川のように足もとにパスが欲しいタイプか、長友さんみたいに走るのが大好きな人か、あるいは岡崎さんみたいにどんなに疲れていてもボールを追いかけてくれる人かで、パスの出し方も変わってきます。
先ほど、ディフェンダーは目立たない、という話をしましたが、逆にサッカーって後ろにいればいるほど「使う側」に、前に上がれば上がるほど「使われる側」になるんです。そういう面白さはありますね。そして「使う側」である以上、選手一人一人の個性も把握しておかなくてはならないわけです。
326 内田選手の「目立たないところでも一生懸命、諦めず努力する姿勢」はぜひ、多くの人に知ってもらいたいですね。おかしな話ですが、僕もこの本を描いている途中、「諦めない」というウッチーマン=内田選手の姿勢にずいぶん励まされました。そして、この本を読んだ人がサッカーに興味を持ってくれ、内田選手のようになりたいと思ってくれたら嬉しいです。
内田 この本を読んだら、むしろ326さんみたいなイラストレーターになりたいと思うんじゃないですか。
326 いやいや。でも、実際にはどの分野でもいいので「ヒーロー」を目指してほしいのです。ヒーローになりたいと思えば努力も継続できますし、間違った方向にいくこともありません。そしてそのモデルとして、ウッチーマンというヒーローを描くことで、自分もこんなヒーローになってもらいたいと感じてもらえればと思います。
内田 サッカー選手は結婚年齢が早くて、僕の同年代でも子供がいる選手がけっこういます。そういう人にはぜひ、親子で読んでもらいたいですね。
326 そして、やっぱりできればサッカーを始めてほしいです(笑)。今日は本当にありがとうございました。
内田 ありがとうございました。
(写真撮影:永井 浩)
更新:11月26日 00:05