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鈴木敏文、稲盛和夫……今の日本を代表する名経営者たちの仕事術

2016年04月20日 公開
2023年01月12日 更新

勝見明(ジャーナリスト)

 

稲盛和夫(京セラ創業者)

稲盛和夫

写真撮影:まるやゆういち

 

 質問をすると、目を閉じ、少しうつむき加減でじっと考え込む。しばらくして目を開けると、順を追って丁寧に答え始める。

 それが京セラ創業者・稲盛和夫氏を取材するときの恒例の光景だ。実はそこに、稲盛流の仕事術の一端を垣かい間ま 見ることができる。

 稲盛氏によると、仕事をするときの意識の持ち方には、「有意注意」と「無意注意」があるという。有意注意とは「これを目指してこうやってみよう」と目的を持って意識や神経を対象に集中させること。一方、ただ漫然と対象を眺めたりするのが無意注意だ。

「有意注意とは、たとえて言えば、錐で穴を開ける行為に似ています。錐は力を先端の1点に凝集させることで効率良く目的を達成する道具です。錐のようにすべての意識や神経を1つの目的に集中すれば、誰もが必ずことを成し得るはずです」と稲盛氏は話す。

 昔の話だが、こんなエピソードがある。京セラの創業期のことだ。米IBM社から集積回路用基板を大量に受注したが、仕様が難しく、試作を重ねても規格どおりの製品ができなかった。

 ある日、夜中に工場を見て回ると、若い社員が電気炉の前で立ち尽くし、肩をふるわせて泣いていた。セラミックの焼成工程が何度やってもうまくいかず、何をやっていいのかわからなくなっていた。「どうかうまく焼成できますようにと神に祈ったか」。稲盛氏は、神に祈るしかないほど、最後の最後まで努力と創意工夫を重ねたのかと問うた。

 稲盛氏は製造現場でよく部下たちに、「機械の泣いている声が聞こえるか」と問う指導を行なっていた。「声」が聞こえるほど機械と一体化し、仕事に打ち込まなければ、最高品質の製品はできない。そこまで、心を込め、意を注いで初めて、神様に祈ることができる。「神に祈ったか。神に祈ったか」。意気消沈していた若い社員はそう反芻しながら、再度挑戦を始め、ついに難題を克服していった。

「フィロソフィ」と呼ばれる稲盛氏の経営哲学や行動指針の中に、「見えてくるまで考え抜く」という言葉がある。「有意注意」で意識や神経を対象に集中して考え続けていくと、あるとき、錐で穴が開くように、真実が見えてくる。最初は論理的思考の左脳がフル回転するが、やがて論理では破れない壁に突き当たったとき、直観的発想の右脳も立ち上がり、理屈では到達できない真実に至る。

 これを実践したのが、経営破綻した日本航空(JAL)の再建のために稲盛氏が会長に着任してから社長に指名された、パイロット出身の植木義晴氏だ。再建過程で、幹部たちは稲盛氏の指導のもと、損得以前に「人間として何が正しいかで判断する」というフィロソフィに基づく経営を志向した。ただ、植木氏は「人間として何が正しいか」で判断すればするほど答えがわからなくなり、悩んだことがあった。そこで稲盛氏に相談すると、こんな答えが返ってきた。「いいんだ、悩め。悩んで悩んで、考え抜け。必ずどこかでわかってくる」。また、あるときはこうも言った。「理屈で言えば、イエスが正しい。だが、俺が出す答えはノーだ」。

 稲盛氏は「楽観的に考え、悲観的に行動せよ」とも言う。「行動するときには慎重に進めなければならないが、考えるときに楽観的に発想しないと、せばまったことしか思いつかなくなる」と。「有意注意」で「見えてくるまで考え抜く」。理屈ではイエスでも、真実はノーであると思ったら、それを楽観的に受け止める。そして、行動は悲観的なまでに慎重に慎重を重ねれば、成功への道は開ける。JAL再建もその繰り返しに他ならなかった。

 

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柳井 正(ファーストリテイリング会長兼社長) >

著者紹介

勝見 明(かつみ あきら)

1952年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部中退。経済・経営分野を中心に執筆活動を続ける。各種の企業事例の「成功の本質」を見抜く洞察力に定評がある
近著に『石ころをダイヤに変える「キュレーション」の力』(潮出版社)がある。

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