2016年04月02日 公開
2023年05月16日 更新
対課題、対人、対自分のそれぞれのスキルには、相反するものが含まれている。
「たとえば、対課題のスキルには、右脳的な発想力と左脳的な論理性の両方があります。対人には、自分が主張をするスキルも、相手の主張を受け入れるスキルもある。対自分で言えば、瞬発力と持続力は相反するものです。まずは、対課題、対人、対自分のそれぞれについて、自分が長けているのはどういうスキルかを自覚することが第一歩。そのうえで、強みを伸ばし、弱みを克服することが必要となります」
ただし、そこには1つのジレンマがあるという。
「相反するスキルのうち、一方を強化していくと、反対側のスキルが退化しがちなのです。論理性を鍛えたら発想力が下がった、というケースはよく見られますね」
もちろん、相反するスキルの両方を伸ばすことが理想だが、全体としてのバランスを取ることが、ポジションを上げて多様な業務を統括する立場に立つには重要になる。
「強みを伸ばし、しかも弱みも克服することは、簡単ではありません。しかし、それができた人は、市場価値も飛躍的に上がります。たとえば、ITに精通している人が1万人、人の気持ちをよく理解してコミュニケーションを取る達人が1万人いるとしたら、その中で、両方を兼ね備えた人はおそらく10人くらいでしょう。まったく違う方向性を持ったスキルを兼ね備えた人材は非常に希少なのです。40代での飛躍を目指すなら、ぜひ挑戦してほしいですね」
40代で伸びるためのもう1つのポイントは、周囲に対する影響力を高めることだ。
「上司や部下、他部署、取引先など、周囲に強い影響を与えられる人材になる必要があります。
影響力には5つの源泉があります。1つ目は『専門性』。優れた技術や知識を持つ人は、当然、尊敬や憧れの的になりますね。
2つ目は『魅了性』。キャラクターが魅力的であることです。
3つ目は『返報性』。『この人のためなら』という気持ちを相手に起こさせる人であること。
4つ目は『一貫性』。どんな状況でも一貫した基準を持って、ブレないことです。
そして5つ目は『厳格性』。部下が間違ったときに、きちんと向き合って厳しく正せることです」
ここでも、まずは自分を振り返り、どの部分が優れているかを自覚することが必要だ。
「私の場合、課長の頃は専門性と魅了性で人を動かしていました。専門性を持つ人は比較的多いと思いますので、まずは、それに何かを加えるといいでしょう。
もし専門性だけに頼っているとすれば、リーダーとしては危険です。当社が従業員満足度とリーダーの影響力の源泉との相関関係を調べたところ、専門性だけが高いリーダーの部下は満足度が低いことがわかりました。部下の仕事に細かく口を出し、ときに自分でやってしまう、といったことが起きがちだからでしょう」
複数の影響力の源泉を備えるためには、どうすればいいのだろうか。
「魅了性は性格や人間性に依拠するので、身につけるのが一見難しそうですが、そうでもありません。私が心がけていたのは、『グチを言わない』『会社や他人の悪口を言わない』こと。それを鉄則にするだけで、魅了性はかなり高まります。
返報性を高めるためには、熱心に部下を育てること。自分のためではなく、純粋に部下のためにその成長を願う姿勢が大切です」
一貫性と厳格性は、部下が増えてくると、とくに重要になる。
「一貫性は、ピンチのときにこそ試されます。普段は『お客様第一』と言っておきながら、月末になると『とにかく商品を押し込め』と言うようでは、周囲は言うことを聞かなくなります。
厳格性については、自分として理想とする職場のあり方、確固たる基準を明確に持っておくこと。部下がそこから外れれば、厳しく指導するのです。
とはいえ、あまりに高い理想を掲げると、部下はかえってやる気をなくします。ですから、少し頑張れば届く程度の目標を設定して、そこへ向かって一歩一歩成長していけるように指導することがポイントです」
ポータブルスキルにしても、影響力の源泉にしても、身につけるためには、他の人を真似ることが有効だ。
「以上で挙げた能力をすべて備えている人は、まずいません。しかし、どれか1つに長けた人なら周囲に見つかるはずです。『Aさんは人の話を聞くスキルに優れている』『Bさんは一貫性がある』などと、それぞれの人から学べるポイントを見つけましょう。そして、その部分を真似るのです。そうして、自分に磨きをかけていってください」
《取材・構成:林 加愛 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2016年3月号より》
更新:11月22日 00:05