2016年04月16日 公開
2023年01月05日 更新
メーカー系ベンチャーの中でももっとも注目を集めているテラモーターズ。グローバル市場で躍進を続ける同社を率いる徳重徹氏は、人生の岐路でいつも、日本の名経営者たちの言葉に励まされ、気づかされてきたと話す。自身が特に感銘を受けたエピソードや言葉についてうかがうとともに、日本の礎を築いた名経営者たちは何がすごかったのか、思うところをお話しいただいた。<取材・構成=塚田有香、写真撮影=長谷川博一>
2010年の創業から五年足らずでベトナムやフィリピン、インド、バングラデシュなどアジア各国に次々と進出。電動バイクや電動三輪車を主力商品とし、グローバル市場で躍進を続けるのがテラモーターズだ。社長の徳重徹氏はMBA留学やシリコンバレーで働いた経験を持つ国際派だが、「自分の根底にある経営哲学は、日本の名経営者たちから学んだもの」と話す。
「私が尊敬する経営者の一人に、土光敏夫氏がいます。石川島播磨灘重工業の会長や東芝の社長を歴任し、経団連の会長まで務めた人物です。
私は大学浪人中にその名を知り、土光さんの著作や関連書籍を読み始めました。そして25年以上経った今、自分も会社を経営する立場になって改めてこれらの本を読み返すと、土光さんのすごさを実感します。
たとえば『経営の行動指針』(土光敏夫著/本郷孝信編、産業能率大学出版部)は、東芝の社長時代の発言を収録したものですが、この本の初版が出たのは1970年。私が生まれた年です。にも関わらず、2016年現在もそのまま通用するメッセージが並んでいることに驚かされます。
『これから期待される社員像は〝変化に挑戦しうる人〟である』などはまさに象徴的です。46年前の時点で、すでに土光さんは『現在は〝変化の時代〟だ』と断言しているのです。
他にも『すべてはバイタリティである』『会議では論争せよ。会議は一時間単位でやれ。会議は立ったままやれ』『問題は能力の欠如ではなく執念の欠如である』といったメッセージが並びますが、どれを読んでも、昭和40年代に大企業の社長が発したものとは思えない。まるで現在のベンチャー企業経営者が語っているかのようです」
中でも徳重氏にとってインパクトが大きかったのは、「60点で速決せよ」という言葉だ。
「私も普段から社員たちに『60%OKならGO!』と言っているので、土光さんが自分と同じことを考えておられたことに改めて感動を覚えました。
この言葉について土光さんは、『決断はタイムリーになせ。決めるべきときに決めぬのは度しがたい失敗だ』『変化の時代の経営では〝時間〟の要素が大きくものを言う。スピードこそが生命である』という解説をしています。まさに今の時代にこそ通じるスピード感覚です。
ちなみに、シャープの再建支援で注目を集めた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘会長や、中国発の急成長企業としてその名を知られる通信器機メーカーHUAWEI(ファーウェイ)の任正非社長も、表現は違えど『60%で決断しろ』という趣旨の言葉を述べています」
これらの事実からわかるのは、「時代が変わっても、物事の本質は変わらない」ということだ。
「土光さんの数々の言葉から読み取れるのは、『今は良くてもいつかは悪くなる』という危機感と、『リスクを取ってでも、現状を変えるための決断をしなくてはいけない』という使命感です。リーダーとして意思決定をする立場にある人なら、この二つを必ず持たなくてはいけない。それはいつの時代も同じです。
アサヒビールの社長や会長を務めた樋口廣太郎さんも、とてつもない決断力で知られる経営者です。経営不振に陥っていた同社をスーパードライの成功によって再興させた後、大胆な設備投資を行ないました。その金額は、社長就任中の6年半で累計6,000億円。それ以前は年間七十億程度だったので、桁外れの数字です。樋口さんは、『業績が回復した今だからこそ決断しなければ、この会社に未来はない』という危機感を持っていた。多大なリスクを上回る強い使命感があったのです。
ところが、今の日本の経営者は、その決断ができない。下から上がってきた人が順繰りにトップを務めるだけのサラリーマン社長が多いため、『失敗したら自分の地位や収入が失われる』という保身を第一に考えるからです。
土光さんや樋口さんは、そんな自分ごとに関心はなかった。それは『自分のため』ではなく、『国や社会のために何をすべきか』というビジョンを持っていたからでしょう。これは名経営者と言われるリーダーに共通する点だと思います」
更新:12月02日 00:05