2016年03月10日 公開
2017年09月20日 更新
もちろん、実現が難しそうなテーマを与えて、急き立てるだけでは、イノベーションは起こせない。本田氏は、目指すべき方向性を的確に見出し、それを一言で示すのが上手だった。
「たとえば、H1300クーペというクルマの前面のデザインを描いていたときには、『クルマの顔は、鷹が獲物を狙っているような鋭い目つきのキリッとした顔がいいんだよ』というアドバイスを受けました。そこで動物園に行ったり、野鳥図鑑を見たりして、鷹の顔を何枚もスケッチしているうちに、目の形がひし形なのと、その丸い目玉に鋭さの秘密がある、と気づいた。さらに、尖ったくちばしのイメージを加えてモデルにしたら、今までにない精悍な表情の車ができました」
「鷹の顔」というキーワードがあったことで、開発チームの間でも同じイメージが共有でき、仕事がスムーズに進められた。
「大勢の人を動かすためには、簡潔で共有しやすいイメージを示すことが重要、と学んだ。私も、何か伝えたいことがあれば、できるだけ簡潔でわかりやすい言葉(一口言葉)にまとめることを、常に心がけています」
最近は「ほめる」ことの重要性が言われるが、本田氏はほとんどほめない人だったという。
「ただ、良いものができると、こんなに喜んでもらえるのか、と思うくらい、嬉しそうな顔をされるんですよね。『君はできねえって言ったけど、できたじゃねえかよ!』と悪態をついたりして。すると、それまでの苦労がすべて報われる。そんな本田さんの顔が見たくて頑張っていたような気がします」
<『THE21』2016年4月号より>
更新:11月22日 00:05