2016年03月21日 公開
こうして大口顧客を相手に次々と契約を勝ち取り、鈴木氏は年間1兆円を売り上げるトップセールスマンになる。この成功体験によって、仕事がどんどん面白くなっていったという。
「この法人営業部は、今でいう『社内ベンチャー』でした。それが桁違いの業績を上げたので、会社が予算をつけてくれて、経費も使い放題になりました(笑)。
僕は30代まで、閑職をたらい回しにされていました。鼻っ柱が強くて組織に馴染めない性分だったから、上からはにらまれてばかり。人事考課の評価も低かった。でも、結果を出したことで、組織にいながら『鈴木喬商店』のリーダーとして好きなことができるようになったのです。30代はつまらなかったけど、40代は自分のやりたいことができて、とても面白く過ごせました。
そもそも僕は、昔から『俺が世界一だ』という根拠なき確信を持っていた。それがいつも自分の強みになっていたように思います。法人営業部を立ち上げたあと、なかなか契約が取れなかった頃に、他業種や同業他社のトップセールスマンに話を聞きに行ったんです。でも、実際に会ってみると大したことはない。それで『やっぱり俺よりすごいやつはいないな』と自信を持った(笑)。
実際は単なる思い込みなんです。でも、ビジネスで結果を出すには、この思い込みが大事。営業がうまくいかなくても、『俺のすごさを理解できない相手が悪い』と思えば、ストレスを感じないでしょう?」
この「根拠なき確信」は、現場のプレイヤーから管理職へ、さらに経営層へと役職を上げていくために不可欠なものだと鈴木氏は話す。
「組織で上に行けるのは、『運が強い人』です。下っ端の頃は能力がすべて。子分の立場だから、能力がある人間が上から重宝されます。ところが立場が上がるにつれ、能力よりも運の強さが大事になる。よく『課長のときは優秀だったのに、部長になったらまるで成果が出せない』という人がいますが、それは結局、運が強いかどうかなのです。
『運』というと他人任せに聞こえるかもしれませんが、そうではありません。運を引き寄せるかどうかは、その人の考え方次第。それが『根拠なき確信』なのです。
優秀な人ほど、昇進するとうつっぽくなることが多いでしょう。とくに学校の成績が良かった優等生タイプは、失敗するとプライドが傷ついて、トラウマになってしまうのです。僕みたいに鈍感な人間は、痛い目にあってもすぐに忘れる(笑)。だから、うまくいかないことがあっても、『いやあ、今日も絶好調だな!』と言えるのです。経営者に必要なのは、この鈍感さですよ。悪いことがあっても、すぐに忘れて動き出せる人は、運を引き寄せられるのです。
その意味でも、40代で営業を経験しておいてよかったと思います。保険の営業は、相手に断わられるところから始まります。見ず知らずの人間が訪ねてきて、目に見える商品もないのに、最初からイエスというお客様などいません。だから僕は、相手にノーと言われた瞬間に、『よし、ここからがスタートだ!』とスイッチが入る。そして、ノーを覆すためのアイデアがいくらでも湧いてくるのです。
経営者になった今も、どんなに悪い状況でも落ち込むことはありません。周囲が『もうダメだ』と騒ぐときほど、必ず挽回できるという確信が持てるのです」
さらに鈴木氏は、「組織の中で上へ行きたいなら、人に頭を下げなさい」とアドバイスする。
「年齢や立場が上になるほど、偉そうにふんぞり返る人が多いのですが、それでは周囲の人に嫌われるだけ。僕が経営トップになって何をやっているかといえば、味方作りなんです。
お客様に可愛がられるのは、何かあったときに理屈抜きで『申し訳ありませんでした!』と頭を下げられる人間です。組織で上に立ちたいなら、『なんだか憎めないな』と思われるキャラクターを作ることが必要。社長なんて、はっきり言えば人気商売ですよ。人に好かれないとやっていけない。上に行きたいなら、能力だけを磨いてもダメなのです。
皆さんの中には、『今の会社では上へ行けそうにないから転職しようか』と考えている人もいるかもしれません。でも、今の会社で成果を出せない人は、どこへ行っても同じでしょう。40代にもなったら腹をくくることです。たとえ出世できなくても、『ここで好きなことをやってやる』と開き直ればいい。肩書きがなくても、自分がやりたいことを上にプレゼンすることはできるはずです。僕だって、頼まれもしないのに勝手に50枚の論文を作って提案をしたから、日本生命で法人営業部を立ち上げられたのです。
役職や年齢にかかわらず、給料をもらっている以上、会社員は誰もがプロフェッショナルであるべき。上に提案くらいしないと。その自覚を持つことが、自分の生きる道を見つけることにつながるはずです」
《取材・構成:塚田有香 写真撮影:永井 浩》
《『THE21』2016年3月号より》
更新:11月23日 00:05