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どんなに仕事が多くても「テンパらない」技術

2016年01月08日 公開
2023年05月16日 更新

西多昌規(精神科医/医学博士)

一流のビジネスマンは、テンパらない!

忙しすぎてアタフタ、会議やプレゼンで緊張──いわゆる「テンパった」状態になると、実力が発揮できず失敗に泣く羽目に!? しかし、正しい対処法を知っていれば心配ナシ。平常心を保つワザを、精神科医・西多昌規先生にうかがった。

 

テンパった状態=「キレる寸前」

 仕事が次々振りかかり、頭の中がいっぱい。慌ててしまって言葉もうまくまとまらない……。そんな人を見て、周囲は「テンパってるなあ」とささやき合います。

 いわゆる「余裕ゼロ」の状態を表わすこの言葉、語源は麻雀の「聴牌(テンパイ)」。聴牌とは、役ができて「上がり」になる寸前であると同時に、他のメンバーの上がりを誘う危険な状態でもあります。ここから、抜き差しならない一触即発の精神状態になることを「テンパる」と言い表わすようになったのです。

 この状態に陥ったことのないビジネスマンはおそらくいないでしょう。とりわけ、多忙な中間管理職にとってはお馴染みの感覚ではないでしょうか。

 しかしこの状態、すべてが悪いわけではありません。テンパっているということは脳が緊張状態にあるということであり、緊張は集中力を高める上で欠かせないものでもあるからです。

 適度な緊張感を活かして仕事を進められるなら、それは「良いテンパり」。このとき人は、自分の精神状態をコントロールできています。反対に、緊張が過度になってコントロール不能になった状態が「悪いテンパり」。こうなったときの心は吹きこぼれる寸前の鍋、決壊寸前のダム、噴火寸前の火山──つまり、あと少しで暴発する状態です。

 暴発とは、「キレる」ことを意味します。「もう駄目だ!」と叫んでその場から走り去ったり、「いちいち俺に聞くな!」と同僚を怒鳴りつけたり。そんな姿を一度でも周囲に見せてしまうと、評価は大きく下がります。これまでコツコツまじめに働いてきた人も、「あの人、キレると危ないよ」という噂が立つことで、重要な仕事が回ってこなくなる恐れもあります。脳内物質が思考フリーズを引き起こす

 このように、テンパることはビジネスマンにとっての「脅威」。これに対処するために、まずはテンパっているときに脳で何が起こっているのかを知っておきましょう。

 テンパったときはたいてい、頭が真っ白になって思考がフリーズしてしまいます。これは緊張時に分泌される「ノルアドレナリン」などの神経伝達物質が、脳に刺激を与えすぎて起こる現象です。ノルアドレナリンは脳内の短期記憶機能、つまりワーキングメモリの働きを鈍らせる傾向があります。すると情報処理がうまくいかず、「言われたことが頭に入らない」といった状態を引き起こすのです。

 加えて、前頭葉の疲労もテンパりを招きます。前頭葉は感情コントロールや論理的思考、高度な判断などを司る部位なので、ここの機能が低下すると必然的に余裕が失われるのです。

 前頭葉の疲労を招く要因は、睡眠不足やストレス、運動不足など。皮肉なことに、いずれも多忙なビジネスマンの生活につきものの要素です。

 ちなみに、テンパりは「伝染する」傾向も持っています。テンパった人が一人現われると周囲はその人物に気を使い、神経をすり減らします。そのせいで、周囲までテンパりやすくなるのです。また、人間の脳内にあるミラーニューロンと呼ばれる細胞は「モノマネ機能」を持っています。目の前の人の言動に刺激を受けると、この細胞が脳の中で同じ言動を再生するのです。これも伝染の原因になると考えられます。

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著者紹介

西多昌規(にしだ・まさき)

精神科医

1970年、石川県生まれ。96年、東京医科歯科大学卒業。国立精神神経医療研究センター、ハーバード大学研究員、自治医科大学講師などを経て、現在はスタンフォード大学客員講師。『「テンパらない」技術』(PHP文庫)ほか著書多数。

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