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「つまらないデータ」を「特別なアイデア」に変える3つの技とは

2015年11月17日 公開
2023年05月16日 更新

三谷宏治(金沢工業大学虎ノ門大学院教授)

 

空間で観る技を鍛えるミニトレーニング
~ヒット商品をなんでもJAH展開

 一般に行われる相関分析などは、百を調べて一か二を知る手法です。確実ですがジャンプはありません。一方、「一を聞いて十を知る」は可能です。なぜでしょう?

 そのひとつの(例外的、もしくは面白い)サンプルの中には、すべての「本質」が内包されているからです。
 その本質を、「JAH(軸値巾)法」で見抜き、展開していきます。

「軸」は属性と言い換えても構いません。「値」は対象物がその属性の中でどういった状態に当たるのかであり、「巾」はその属性の中で取り得る値のすべてを示します。

 真っ赤なリンゴの「軸」(属性)のひとつは、色です。そうするとこの真っ赤なリンゴの「値」は真紅。その値の取り得る「巾」は黄色から薄緑までさまざま、という具合です。

 JAH法は、ひとつの面白そうなアイデアを、さらに深掘りするための連想法ツールです。JAH法という技を磨くには、その素となる「いいアイデア」が必要ですが、それを既存の大ヒット商品に求めましょう。

 その商品名をアイデアととらえて、JAH法で分析しまくるのです。

 では、任天堂の「DS脳トレ」を例にやってみましょう。

「DS脳トレ」の正式名称は「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」です。全42文字17節の恐るべき長さです。でもその一つひとつに深い意味が隠れているに違いありません。単語にバラして、各々の軸と値を考え、そして巾を出していきます。

 まずは「脳」。脳は、何に属するでしょうか?

 脳は人体の器官の一部ですよね。だから属性=軸(1)「器官」となります。そして「脳トレ」の脳は「大脳」を指しているので、それが、値(1)となります。

 ではその巾とは? 絞ったり、ずらしたり、拡げたりしてみましょう。

 軸が「器官」で値が「大脳」なら、

 

絞る:海馬だけ、前頭葉だけ、小脳だけ

ずらす:目(視力)、耳(聴力)、指(器用さ)、腕(腕力)、顔(美しさ)

拡げる:大脳だけでなく首から上全部、上半身、下半身、全身!

 

「鍛える」もJAH法で展開してみましょう。

「鍛える」とはそもそも、対象を向上させようとする努力です。だから、軸(2)「変化させる」、値(2)「向上」、です。

 であれば、「変化といっても向上させなくてもいいじゃないか!」が巾を考えるということです。巾として「回復」「維持」もあれば、「退化」や「消滅」すらあるかもしれません。要らないものは、なくせばいいのです。

 さて、「脳」と「鍛える」の値や軸を、組み合わせたらどうなるでしょうか。「視力の回復ゲーム」「顔のシワ取りゲーム」「指を器用にするゲーム」……。いろいろできそうです。

 実際、「DS脳トレ」の2年後、「眼」に絞った「DS眼力トレ」が出て、累計252万本を売る大ヒットとなりました。視力そのものではなく、それ以外の「動体視力」「瞬間視」「周辺視野」など5つの力を鍛える、としたところが秀逸でした。

 その2カ月後に出た「DS顔トレ」は、顔認識カートリッジと専用スタンドがついて定価4800円の優れ物です。正式商品名は、「フェイスニングで表情豊かに印象アップ 大人のDS顔トレーニング」の30文字。「DS脳トレ」や「眼力トレ」と異なるのは、鍛える「目的」が明記されていることです。顔の表情筋を鍛えることで、より表情豊かになりましょう、それで他人への印象がずいぶんよくなりますよ、と謳っています。

 説得力ある、と思いましたが、「美人になる」と言いきらなかったせいか、販売は累計11万本に留まりました。

 

 ひとつ光るアイデアを見つけたら、JAH法をぜひ試してみてください。そこからさらに未来が拡がります。

 

 つまらないと感じるデータも、ちゃんと「比べる」ことで、面白いデータに変わります。「ハカる」ことをしっかりやれば、自ら面白いデータをつくれます。そしてそんな面白いデータやアイデアのタネも、「空間で観る(JAH法)」ことによって、より面白いアイデアへと変身します。
 ぜひこの3つの技で、「面白いヤツ」への飛躍を!

 

著者紹介

三谷宏治(みたに・こうじ)

K.I.T.〔金沢工業大学〕虎ノ門大学院教授

1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、外資系コンサルティング会社に就職。以来19年半、ボストンコンサルティング グループ、アクセンチュアで戦略コンサルタントとして働く。2003年から06年までアクセンチュア 戦略グループ統括。途中、INSEAD(仏フォンテーヌブロー校)で経営学修士(MBA)修了。
仕事と並行して28歳頃から社会人教育に携わり始め、32歳からグロービスで「経営戦略」などの講師を務める。06年から教育の世界に転じ、地元小学校でのPTA会長などを経て、07年からK.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授を務める。同時に、「決める力」「発想力」と「生きる力」をテーマにした授業や講演で全国を飛び回る。年間7,000人以上の社会人・子ども・保護者・教員に接している。現在K.I.T. 虎ノ門大学院教授の他に、早稲田大学ビジネススクール客員教授、グロービス経営大学院 客員教授、放課後NPOアフタースクール 理事、NPO法人3keys理事、永平寺ふるさと大使を務める。

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