2015年12月13日 公開
2023年05月17日 更新
世界経済の中で、着々とその存在感を増しつつある中国企業。中国人エリートたちはすでに、日本人が太刀打ちできないほど高いビジネス能力とグローバルな視点を身につけている。上海に住み、中国で二つの会社を経営する江口征男氏は、「彼らに立ち向かうため、日本人は中国人特有の『グレーゾーン』の考え方を学ぶべき」と語る。多くの中国人と戦ってきた江口氏が説く、「グレーゾーン思考」とは?
中国、日本にかかわらずビジネスの世界で、弱者(スタートアップ企業、無名の人等)が事業拡大するために使う作戦の1つが「強者(大企業、有名人等)の力を借りる」という作戦です。
資金、人脈、顧客基盤、販売チャネル等が豊富で、(特に中国の場合には政府機関とつながりの深い)強者の力を借りることができれば、何か1つでもキラリと光る宝の原石さえあれば、弱者でも一気に事業を拡大したり、成功を掴むことができるので、弱者が強者の力を借りたいと考えるのは当然でしょう。
しかし弱者は、そう簡単に強者の力を借りることはできません。こちらからだけでなく、他にも色々な方面からデートや結婚を申し込まれているモテモテの強者にとって、よほどの理由がない限り弱者のこちらと組む合理性を感じないからです。
もし幸運にも強者の手を借りることができたとしても、相手は本気ではなく浮気なので、すぐに結果がでなければ弱者は捨てられてしまうでしょう。
そんな交渉力の劣る者(弱小プレイヤー)が、交渉力の勝る者(強力なプレイヤー)の力をうまく借りる方法はないのでしょうか。
中国人エリートがよく使う方法があります。それはシンプルですが「待つ」という方法です。自分が手を借りたいタイミングではなく、相手が手を貸したいタイミングを待って手を借りるということです。
たとえば、「今年中に中国に進出する」「今年中に(M&Aできそうな)ローカル企業を買収して積極的に中国事業を拡大する」という方針ではなく、「たまたまよいチャンスが巡ってきたタイミングを逃さず進出する」「買収したいと考えている企業が、たまたまお得な価格で買えるタイミングがきたら逃さず買収する」というように、こちらにとって都合のよい波が来た時に、海に出てサーフィンをするということです(そのタイミングを見計らって波に乗るためには、常に準備をしてビーチにいる必要はあります)。
中国の先進的な企業では、人材を探す場合のタイミングは、組織のポジションに欠員が生じた時ではありません。人が辞めたときに、その代わりとなるbetterな人材を早く探すのではなく、日頃からbestの人材を常に探し、bestの人材が見つかったら数カ月以上かけて口説き落とした上で、相手が転職しやすいタイミングで採用するのです。
この「自分の都合ではなく、相手の都合に合わせるという作戦」は、自分自身のことだけを考えると、決して効率が高い作戦ではありません。それゆえに日本人、日系企業は、なかなかこの「待つ」という作戦を取れないのだと思いますが、逆にその小さな非効率を許容することができないがために、大きな魚を取り逃がしているのです。
その意味で、一般的に上場している企業よりも、非上場企業(特にオーナー企業)のほうが「待てる力」があると思います。上場企業の経営者は株主に対する責任があるので、大きな意思決定や戦略は事前に計画しておく必要があります。そして計画したことを計画通りに実行したかどうかで評価されます。たとえば、「今年中国に進出する」と宣言したら、よほどのことがなければ今年中に進出しなければなりません。
また逆に会社の成長にとって重要かつバーゲン価格のM&A案件が突然飛び込んできても、事前に戦略を立て予算を取っておかなければ、すぐに意思決定できないのです。反対に非上場のオーナー企業は「待てる力」があるので、相手の都合に合わせて自社にとって一番有利な条件で意思決定ができます。
このシンプルな「チャンスを待つ」という作戦を実際に成功させるためには、「まず自分が弱者であるという認識を持つ」ことから始まり、「待つための体力を蓄える」「(人とカネを使って)チャンスを嗅ぎ取るためのアンテナをしっかり立てておく」「チャンスが来たら迷わず意思決定をする」などの条件も当然クリアしなければなりません。
しかしながら、「タイミング」を相手に譲ることで、本来の自分の実力では手に入れることのできない強力なパートナーを手に入れることができるのであれば、「待つ」という選択肢も戦略上有効なオプションの1つに加えるべきなのです。
これもまた、「グレーゾーン」をよしとする中国人エリート特有の発想と言えるでしょう。
更新:12月04日 00:05