2014年07月08日 公開
2023年05月16日 更新
私はもともと無印良品の企業風土に批判的だった人間ではありません。同じセソングループだった西友ストアー(現・西友)で育ってきた人間です。それが思い切った改革を考えつき、実行できたのは、考え抜いたからに他なりません。
そして今、自分が考え抜けた理由は、やはり環境にあると思っています。誰もが復活は無理だと言うほどの逆境に、経営者という立場でさらされた。そんな環境が自分を鍛えてくれたのです。
冒頭で述べたように、人間は環境によって育っていくものです。実際、優秀な経営者の中には、ストレートにトップまで上り詰めた方よりも、左遷や大病による休職、あるいは海外勤務の苦労など、紆余曲折を経た方が多いように感じます。彼らは、逆境の中で鍛えられたがゆえに、トップとして力を発揮できるのではないでしょうか。少なくとも、私の場合はそうだったと言えます。
はじめから経営者としての地頭が良かったのではなく、西友から良品計画へと左遷され――当時のトップからは「お前が浮いていたから採った」と言われました――最もブランドが厳しい時期に社長になったことで、相当に鍛えられたという自覚があります。
この経験から言えるのは、ビジネスマンとして、それもマネージャーとしての地頭を鍛えるには、「逆境は宝物」と考え、自ら飛び込んでいく気概が必要だということ。プレイヤーとしてではなく、マネージャーという立場で考え抜くことで、問題の本質を見抜くことが可能になり、改革の根を見つけることができるはずです。
そして、その地頭の鍛錬は続けていくべきものであることも憶えておいてください。無印良品を例に挙げれば、前述の改革から約14年が経っています。新たな時代に合わせて改革をしていくときが来ているのです。
たとえば、今、我々は“オブザベーション”と呼ばれる手法を取り入れています。これは、一般家庭にお邪魔して、そこから潜在的なニーズの種を引き出そうという試みです。バスルームを見せていただくと、さまざまなメーカーのシャンプーやリンスが並んでいる。それを無印良品の容器で統一して、きれいに並べて見せることで、バスルームの雰囲気が一変します。我々はそこにビジネスチャンスを見出だし、消費者は「こんなスタイルもあるのか」と無印良品の提供するライフスタイルに気づく。そんなふうにして、ブランドをどう打ち出していくかをつねに探っているのです。
松井忠三
(まつい・ただみつ)
〔株〕良品計画代表取締役会長
1949年。静岡県生まれ。1973年、東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、〔株〕西友ストアー(現・〔同〕西友)に入社。1992年、〔株〕良品計画へ。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、2001年1月に社長に就任。赤字状態の組織を風土から改革し、業績のV字回復・右肩上がりの成長に向け尽力。2007年には過去最高売上高(当時)となる1,620億円を達成した。2008年より現職に就き、組織のしくみ作りを継続している。著書に「無印良品は、仕組みが9割」(角川書店)がある。
<掲載誌紹介>
<今月号の読みどころ>
「知っているか、知らないか」ではなく、「考えられるか、考えられないか」。答えが用意されていないビジネスの世界で求められるのは、自ら問いを立てて、アイデアを考えたり、判断することです。そして、そのベースになるのが“地頭の良さ”です。
今月号では、どうすれば地頭が鍛えられるのかについて、実績あるプロフェッショナルに教えていただきました。
更新:11月27日 00:05