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「職場うつ」予防のポイント

2014年05月07日 公開
2023年05月16日 更新

大野裕(精神科医),横山美弥子(産業カウンセラー)

社員のモチベーション向上も管理職の務め

 

 職場うつを発症するのは、30歳前後の若手社員が多いという。その原因は、「指示を一方的に受ける立場で、その重圧やフラストレーションで精神的に追い込まれやすい」と大野氏。さらに「世代間ギャップで上司とコミュニケーションがうまくいっていないことが多い」と横山氏は続ける。

 「若い世代は、コミュニケーション方法も仕事への価値観も、4、50代とは大きく異なります。それに気づかない上司は、そもそも意思疎通や信頼関係のベースができていない可能性が高い。それで部下の変調を読み取れず、ある日突然、会社に来なくなったと慌てるのです」

 たとえば、“ながらコミュニケーション”は若い世代になるほど通用しないと横山氏は言う。

 「『机を並べて仕事のやり取りをしながら』『電車や車での移動中にやり取りをしながら』部下と接しているので安心しきっている上司は多い。しかし、若い社員たちに話を聞くと、彼らはこれらをコミュニケーションと受け止めていません。彼らが求める上司とのコミュニケーションは“個別コミュニケーション”で、『忙しい上司がわざわざ自分だけのために時間を割いてくれること、個別にちょくちょく気にかけてくれること』に価値をおく傾向にあります」

 世代間ギャップはいつの時代も存在した。しかし、日本企業の多くは長期不況の影響で、採用縮小が続き、ベテラン世代と若手世代を埋める中堅の層が薄い。そのひずみが上司と若手世代の溝を深くし、職場うつの増加の一因にもなっているという。

 また、若手世代の仕事への価値観も様変わりしている。

 「40歳以上のビジネスマンの若手時代は、人並みに働けば豊かになれる時代でした。だから仕事第一優先で走り続けることができた。ところがいまは一生懸命働いても、必ずしも収入や将来の安定に直結しない。若手社員にとって仕事は最優先ではなく、プライベートや趣味と同列。だから、急な休日出勤や残業への抵抗感も、上司が想像する以上に大きいのです」(横山氏)

 このギャップを埋めるために横山氏が勧めるのは、部下との個別接触(面談)の頻度を上げること。そして、休日出勤や残業など負担を強いるときは、前もって予告することだ。「○月にプロジェクトの山がくるので、○月は休日出勤が2回程度、残業も□時間程度あるつもりでいて欲しい」といった予告で十分。

 「個別面談は時間の長さではなく、頻度が大事です。週1回30分の面談よりも、毎日5分の面談のほうが効果が高い。ある管理職の方は、部下全員とくまなく平等に面談の機会を作るために星取り表のように記録をつけていました。あるいは、若手社員を新人のメンターにして、日々の仕事の進捗や相談に応じる体制を作っている企業もあります」

 今の管理職に求められる役割は2つある、と横山氏は言う。

 部下に仕事を割り振り、進捗の確認・指示をする、従来どおりの「業務管理」。それに加えて、部下がやる気を維持し、力を発揮しやすいように心理面のサポートをする「メンタル管理」も新たな管理職の業務なのだという。この2つが両輪となり、社員のパフォーマンスが最大限発揮される。

 「うつになれば、本人のみならず、上司も同僚も大きなダメージを被ります。職場の生産性も損なわれる。上司は、“うつが出たらどうする”ではなく“うつを出さないためにどうする”という日頃の取り組みが必要な時代なのです」(横山氏)

 うつを生み出さない職場作りは、社員にとって働きがいのある環境を作ることにつながる。うつ対策は企業にとって業績向上にも直結する重要事項なのだ。

 

大野裕(おおの・ゆたか)精神科医

1950年、愛媛県生まれ。1978年、慶應義塾大学医学部卒業と同時に同大学の精神神経学教室に入室。コーネル大学医学部などの留学を経て、慶應義塾大学教授(保健管理センター)を務め、2011年、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長に就任。
著書に、『こころが晴れるノート](創元社)など多数。
認知行動法活用サイト「うつ・不安ネット」監修。

 

横山美弥子(よこやま・みやこ)産業カウンセラー、キャリアカウンセラー

大手旅行会社にて旅行業務全般ならびに秘書業務を担当。その後、コミュニケーション研修講師を経て、現在は管理職向けのメンタルヘルス研修や社員向けのストレスマネジメント研修を中心に活動。近年、職場うつの予防につながる「OJT研修」や「世代別価値観の理解研修」にも力を入れている。
著書に、『部下の「うつ」をすばやく見つける本』(中経出版)がある。

 

<掲載誌紹介>

2014年5月号

<読みどころ>春、新入社員が入り、新しい仕事、新しい年度も始まるシーズン。自分の仕事を見直すには絶好のチャンスです。とくに多忙なビジネスマンにとって重要なのが「時間」です。この最大の資源を効率的に活用したいと考えている人は多いことでしょう。
そこで今月号は、第一線で活躍する経営者から売れっ子コンサルタントまで、各界のビジネスプロフェッショナルの方々に登場いただき、自身の時間管理術やスピード仕事術についてノウハウをうかがいました。新入社員もベテラン社員も必読特集です。

 

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