2014年05月07日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』2014年5月号[特集:「職場うつ」に備える]より》
初期段階で気づくことが「職場うつ」の特効薬
一生でうつ病にかかる割合は、15人に1人と言われる。うつ病で休職する社員は少なくなく、企業にとってうつの社員を出さないための予防対策が重要となってくる。そこで、部下のうつの兆候を見逃さないためのポイントと上司の心がまえを、「職場うつ」に詳しい2人の専門家にうかがった。
人は過度のストレスを感じたとき、心・身体・行動のいずれかに変調を来す。たとえば、飲酒や喫煙が増えるなど「行動」に現われる人もいれば、怒りっぽくなるなど「心」にくる人もいる。自分かストレスを感じたときにどうなるかを知っておき、早い段階で自分でコントロールできるようになるとベストだ。
また、図表〔3〕は、精神障害に関する国際的な診断マニュアル「DSM-5」から抜粋したうつのセルフチェック。こうしたチェック項目で自ら不調を認識し、対処できればいいのだが、うつ傾向の人がそれを認めるのはなかなか難しい。
そこで重要なのは、上司が。異常にいち早く気づくことだ。会社は、一日の中で睡眠を除いて一番長く過ごす場所。そこでのささいな変化が心の不調をキャッチする重要な手がかりとなる。
管理職向けのメンタルヘルス研修を行なう産業カウンセラーの横山美弥子氏は、次の「7つのチェックポイント」を参考に部下の不調に早めに気づいて欲しいとアドバイスをする。
7つのうち3つ以上が2週間続いたら、面談が必要という。
この面談で、社員の状況はある程度把握できる。ポツリポッリと話し出してくれれば、まだ重症化していない可能性がある。ここぞとばかりに話し出すとすれば、相当ストレスが溜まっている状態。
問題なのは、黙り込んで言葉を発さないとき。その場合は無理に引き出そうとせず、医師やカウンセラーなどの専門家を交える必要がある。「大丈夫です」という返答が返ってきた場合も、しばらく様子を見守る。
この際に上司に求められるのは、話しやすい環境を作り、じっくりと話を聞くこと。そのうえで社員の抱える問題点を整理する必要があると精神科医の大野裕氏は説く。
「仕事量や内容、職場の人間関係など業務に関わる問題は、上司が対応策を考える。しかし、家庭や恋愛などプライベートの問題、あるいは本人が抱える病的な精神状態に関しては、上司は必要以上の深追いはしません」
また、部下の話を聞いて、果たしてこの部下は「うつ病」なのか、それとも気分が沈んでいるだけの「うつ状態」なのかと、上司が判断を下す必要もない。
大野氏によると、「うつ状態」とは気分の落ち込みや意欲低下に陥ることで、軽いものなら誰でも起こり得る。それが2~3週間続き、医師による支援が必要になった場合を「うつ病」と呼ぶ。
うつ状態とうつ病の区別は明確ではない。ただ、本人が精神的につらい状況が続いていることが大きな問題であり、業務に支障を来す精神的な不調は「うつ」ととらえて対処すべきだという。
「うつは誰でもなる可能性のある病気です。私のもとにくる患者さんも『まさか自分がうつになるなんて』と吐露される方が多い。たとえば、悲観的だったり、責任感が強い性格はうつになりやすいと思われがちですが、誰でも心身の疲労が溜まってくれば、後ろ向きになったり、自分を責めたりしやすくなります。
うつは予測がつかない。『普段と何か違う』と感じたら、いつも以上に気をつけて社員を観察し、話し合いの場を持つことです。また、原因が上司その人の場合もあるので、会社の中で上司以外と話せる環境を作っておくことも必要でしょう」(大野氏)
「異変を感じるときは、1人で判断しようとせず、社内の人間や専門家と複数で面談することが大切です。私がよく管理職の方にアドバイスするのは、『うまく言えないけど、おかしいと感じる』のは当たっている場合が多いということ。明らかにおかしいと感じるレベルになってからでは手遅れになってしまいます」(横山氏)
うつ病による休職者を出さないためには、重症化する前に気づき食い止める「予防」が大切。大野氏が監修する「うつ・不安ネット」(http://www.cbtjp.net)を予防活動に活用する企業もある。上司としては、何かが違うという小さなサインを見逃さないためにも日頃からのコミュニケーションを心がけるべきだろう。
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更新:11月24日 00:05