2013年11月13日 公開
2023年05月16日 更新
海外にも優れたビジネス小説が多数あります。
(6)『ライアーズーポーカー』はウォール街の投資銀行の内幕を描いた、実話に基づくストーリー。駆け引きと騙し合いの中、巨大な力に立ち向かう主人公の苦闘に、成功と富を得る知恵がふんだんに盛り込まれています。
同じ作者の(7)『マネー・ボール』は、ブラッド・ピット主演で映画化もしたので、ご存じの方が多いでしょう。弱小野球チームの快進撃を支える「コストを抑えて多くを得る」という普遍的なビジネスの知恵が学べます。そのノウハウを実践したスカウトマン、ビリー・ビーンの人生もドラマチック。彼の前歴や成功後の展開にも、多くを考えさせられます。
劇的な人生という点でさらに上を行くのは(8)『世紀の相場師ジェシー・リバモア』。主人公は実在の天才相場師で、1929年の世界大恐慌を予測し、下落相場で巨万の富を得た人物。彼のビジネスに見る投資の知恵は、現代を生きる我々にも非常に役立つものです。同時に、彼のプライベートにおける混迷と破滅的な人生は、成功と幸福について考えるきっかけを与えてくれます。
このように見てくると、ビジネス小説は、読む人に生き方を教えてくれる指針にもなることがわかります。その意味で優れたビジネス小説は、日本にも多くあります。(9)『海賊とよばれた男』は、その中でも突出した作品と言えるでしょう。敗戦直後の困窮の中、不屈の精神をもって逆境を乗り越え、やがて世界と渡り合う存在となった男、出光興産・創業者・出光佐三をモデルとしたこの物語は、戦後日本を生きた経営者のたくましく潔い姿を余すところなく描き出しています。上に立つ者の気概、私利私欲を超えた大義について考えを深められる大作です。
生き方を見習う対象になるのは、こうした“偉人”だけではありません。(10)『戦略参謀』の主役は、営業から経営企画室に飛ばされた29歳。しかし、その場所で、彼は旧弊極まる組織の大改革へと乗り出していくことになるのです。
ここから学べるのは、社員が“経営人材”になるための知恵。仕事ができても一生使われる側で終わるか、トップの視点を持てるか。ビジネスマンにとって非常に身近な問題です。
このように、読者が自分自身の生き方や働き方を振り返らざるを得なくなるような気持ちを喚起する作品が、近年増えています。これまでにも見られた問題提起、知恵や教訓、生き方の指針の提示といった役割に加え、最新のビジネス小説には“問いかけ”の視点があると思います。
「あなたならどうする?」という登場人物のメッセージを受け取り、ビジネスマンとしての自分と向かい合う。これもまた、ビジネス小説がもたらす貴重な体験と言えるでしょう。
(どい・えいじ)
〔有〕エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役
1974年生まれ慶應義塾大学総合政策学部卒業後、編集者、ライターなどを経て、Amazon.co.jpの立ち上げに参画。数々のベストセラーを仕掛け、『アマゾンのカリスマバイヤー」と呼ばれる。2001年、同社のCompany Awafdを受賞。2004年、〔有〕エリエス・ブック・コンサルティングを設立。著者のプロデュースを仕掛け、ブランド構築、出版戦略、マーケティングまでをトータルで行なう業界屈指のプロフェッショナル。著書に『『伝説の社員」になれ!』(草思社)、『20代で人生の年収は9割決まる』(大和書房)。『土井英司の「超」ビジネス書講義」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
更新:11月22日 00:05