2013年09月27日 公開
2023年05月16日 更新
仕事を進めるには、会社に決裁をもらわなければならない場面も多い。決裁をもらうためには、決裁権者にプレゼンをし、「イエス」か「ノー」かの判断をしてもらうことになる。だから、プレゼンはとても重要だ。
しかし、プレゼンだけ素晴らしければいいのだろうか。事前の"根回し"の重要性とポイントを、人事戦略コンサルタントの高城幸司氏にうかがった。(取材・構成:前田はるみ)
※本稿は『THE21』2013年10月号特集「仕事のカンの磨き方」より一部抜粋・編集したものです。
根回しの勘所をお話しする前に、根回しは何のためにするものなのか、そもそも根回しは必要なのか、という点を考えてみたいと思います。
まず、根回しは何のためにするのかというと、合意形成をスムーズにするためです。自分が社内でやりたい仕事を理解してもらい、自分が目指す判断や決裁を得るためです。
よく「根回しのようなこざかしい真似は必要ない」と言う人がいますが、根回しは自分が目指すゴールにたどり着くための戦術ですから、根回しによって目的に早く到達できるなら使えばいい。逆に、近道にならないなら、使わなければいいのです。
次に、根回しは必要か、という点について。たとえば、社長がすべて1人で決める会社で、社長が首を縦に振ればそれでいい場合は、根回しは必要ありません。社長に話をすればいいのですから。
しかし、複数の意思決定者がいる場合は、根回しが必要でしょう。また、複数の意思決定者の視点が違う場合は、調整のための根回しが必要です。
とくに根回しが重要になるのは、合意形成までの時間がかぎられている場合です。たとえば、来週からは決裁権者の1人が長期出張に出かけてしまうため、明日の会議で決裁をもらうことが必要だというときです。
しかも、会議で自分に与えられた時間は5分しかありません。最も避けたいのは、5分では意思決定に至らず、「この件はまた次回に持ち越し」となってしまうことです。この日を逃したら、2度とチャンスは巡ってこないと心したほうがいいでしょう。
考えてみればわかるとおり、ほとんどの案件は、その場で説明して、相手に理解してもらい、意思決定にまで至るのは難しいものです。
あなたが「来年の事業計画について決裁をいただきたいのですが、よろしいでしょうか」と上司に資料を渡したとしても、「あとで読んでおくよ」と言われるに違いありません。会議で与えられる時間が少ない場合、その場での意思決定が必要なら、事前に根回ししておくのは、当然、必要です。
では、上手く根回しをするためのポイントは何か。
根回しでは、相手から必ず「イエス」という言質を取らなければならないと思っている人もいるかもしれませんが、必ずしもそれがゴールではありません。
もちろん、「イエス」をもらえればいいのですが、たとえもらったとしても、会議の場の流れや雰囲気で「ノー」に変える人はよくいます。
根回しですべきことは、自分がやろうとしていることについて、総論で同意してもらうことです。最終的に「イエス」か「ノー」かの判断には至らなくても、自分がやろうとしていることの意図や方向性について理解を深めてもらい、判断のポイントを同意してもらうことが重要なのです。
たとえば、次のように伝えます。「明日の会議では、新しい雑誌の創刊について議論したいと思います。ターゲットは40代の働く女性です。議論のポイントは収益性だと思っているので、その点をご判断いただいて、決定していただければと思います」。
複数の意思決定者がいれば、利害関係が発生するため、全員が100%の合意に達することはありません。あちらを立てればこちらが立たずで、必ず利益が相反する場面が出てきます。そのようなときにこそ、総論で合意を得ておくことが重要になってくるのです。
「総論では賛成」であれば、たとえば、「価格をあと10円安くできる方法はないのか」とか、「月刊だと発売頻度が少ないから隔週刊にしてはどうか」など、条件設定を議論していくことで各論を詰めていくことができるからです。
そのためにも、根回しの段階では、「総論に対してイエスかノーか」の立ち位置を決めてもらうことが必要だと言えます。
そうはいっても、先ほども述べたように、根回しをしたことが、会議の場で覆されることはよくあります。
根回しの段階では、「なるほど、君の意見に賛成するよ」と言ったとしても、会議で周りの人の意見を聞くうちに、判断が変わることがあるからです。そもそも最終的には会議の場で判断することになっているのですから、仕方がありません。
最悪のパターンは、繰り返しになりますが、イエスでもノーでもない玉虫色の決着に落ち着いてしまうことです。
「言っていることは正しいと思うが、もっと時間をかけて議論したほうがいい」とか、「時期尚早だから、まだ決めなくていい」とか、世の中には決着をつけたがらない人がとにかく多いものです。しかし、決着をつけなければ、前に進むことはできません。
そう考えると、根回しをするほんとうの理由は、イエスであれ、ノーであれ、会議の場で白黒の決着をつけることにあると言えます。
そのためには、「明日の会議でイエスかノーかを決めてください」のように、期限を伝えておく必要があります。相手が期限までに意思決定できるよう、意図と方向性を説明し、意思決定のための判断のポイントを提示する。これが上手い根回しをするにあたっての勘所だと言えるでしょう。
根回しをすべき決裁権者が役員など上級の役職者の場合、一般社員にとっては声をかけづらいものです。どうすれば話しかけるチャンスをつかむことができるでしょうか。
海外でよく使われるのが、エレベータートークです。エレベーターに乗っているあいだや、廊下を移動するちょっとした時問を利用して、3分間ほどの短い時間でプレゼンをする方法です。たとえば、次のように要点をまとめて伝えます。
「専務、明日の会議では、商品のリニューアルについて話し合う予定です。リニューアルのポイントは、サイズとデザインです。専務にご判断いただきたいと思います」
すると、「お前はどうしたいんだ」と聞かれるでしょう。「ぜひやりたいです」と答えれば、「よし、わかった」という流れになるはずです。
相手が忙しい人であるほど、決断は速いものです。その半面、いつ会えるか予測が難しいので、スケジュールに余裕を持って根回しのタイミングを探るべきでしょう。
また、一度目の根回しの答えが「ノー」でも、手直しして再挑戦すれば、「イエス」に変わる可能性もあります。手直しの時間を考えると、できるだけ早めに根回しするのが得策と言えます。
根回しのための3分間を、いつどこでもらえそうか、秘書に相談したり、スケジューラーで予定を確認するなどして、上手に予定を組み立てましょう。
(たかぎ・こうじ)
〔株〕セレブレイン代表取締役社長
1964年、東京都生まれ。同志社大学文学部卒。1987年、〔株〕リクルートに入社。通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。独立起業専門誌『アントレ』を創刊、事業部長、編集長を歴任。2005年に人事戦略コンサルティングを手がける〔株〕セレブレインを設立、代表取締役に就任。著書に『仕事の9割は世間話』(日経プレミアシリーズ)など多数。
更新:11月27日 00:05