2013年05月31日 公開
2023年09月28日 更新
《『THE21』2013年6月号より》
会話を盛り上げ、好印象を持ってもらうための効果的手段の1つに、会話の中でさりげなく相手を褒めることがある。口下手な人にはハードルが高いと思うかもしれないが、使いこなせるようになれば会話が怖くなくなるはず。誰にでも実践可能な、褒め言葉を雑談に取り入れる方法を教えてもらおう。
<取材・構成:林 加愛>
褒め言葉は、会話を弾ませる最高の潤滑油です。褒めることによって相手との距離が縮まり、気持ちの良いコミュニケーションを取ることができるのです。
「褒める」とは、「すごいですね」といった言葉を贈ることだけではありません。「あなたを認めています」と伝えるコミュニケーション全般が「褒めること」である、と私は定義しています。
ですから、名刺に書かれた肩書きを見ながら「どのようなお仕事なのですか?」と、興味津々な表情で聞くのも褒めることになりますし、「へぇ、イメージコンサルタント!」と目を輝かせて相手を見るのも褒めの一種なのです。このように考えると、褒め方のバリエーションは非常に豊富であることがおわかりいただけるでしょう。
また、褒め方には「幅」だけでなく、さまざまな「深さ」があります。図表は「ニューロロジカルレベル」と呼ばれるもので、人のセルフイメージや人生に変化をもたらす仕組み。一番下の「環境」は人の容姿や家柄、地位などの表面的な事柄を示しますが、上にいくほど、本人の人間性に深く関わる要素となります。このうちのどこを褒めるかによって、相手の喜びの深さも変わります。
初対面の段階では深い部分まで知ることは不可能ですから、まずは「素敵なお名前ですね」などから始めるのが妥当。加えて、飲み物を渡してもらったら「ありがとうございます! ちょうど喉が渇いてました」と行動を褒めることもできますし、名刺に取得資格が記してあれば「この資格って、難しいんですよね」と、能力を称賛することもできます。このように、相手の心に響くポイントを心がけながら言葉を選びましょう。
さて、ここからさらに会話を広げるコツは、褒め方のバリエーションを多く持つことです。
たとえば、「I メッセージ」という方法。「I (自分)」を主語にして褒めると、素直に受け止めてもらえ、効果が上がります。「すごい資格をお持ちですね」と評価を伝えるだけでは「いえいえ」と謙遜されてしまいがちですが、「この資格をお持ちだなんて、尊敬します」と言えば、それはこちらの感じ方なので否定しようがありません。「ありがとうございます」とストレートに喜んでもらえて、会話も盛り上がりやすくなります。
「シーソー褒め」という伝え方もあります。自分を低く表現することで相手の良さを際立たせる方法です。たとえばプレゼンを終えた相手に、「私なら、緊張で足がすくんでしまいそうです」と言えば、相手の落ち着きを褒めたことになりますね。
この方法は、相手が目上である場合も便利です。上司や年長者に向かって「お話が上手ですね」と言うとかえって失礼な印象になりがちですが、「私はまだまだ、とても部長のようには話せません」と言えば、自然な形で尊敬が伝わります。
あわせて、「質問形の褒め方」を上手に取り入れましょう。「○○さんの美肌の秘訣は何ですか?」など、教えを請う形で褒めるのです。人は質問されると答えようとしますから、必ず会話は続きます。相手も喜んで答えてくれるので、会話にも一気に弾みがつくでしょう。
このように、さまざまな方法を駆使して相手を褒めると、「嘘くさい印象を与えるのでは?」と考える人もいるかもしれません。
たしかに、思ってもいないことを言うならば嘘くさく見えるでしょう。褒め言葉は、必ず自分にとって真実でなくてはなりません。では万一、相手の褒めるところが見つからないときはどうすればよいでしょうか。その場合は、「事実を言う」という方法があります。
「いつもは月に5件しか契約を取れない部下が今月は10件取ってきたが、会社としてはそれでもまだ少ない」というときは、「先月は5件だったけど今月は10件だな!」と事実だけを言えば、相手の成果を褒めた印象になります。仕事以外の話題でも、「映画が好きなんだって?」「週末は釣りに行ったんだってね」など、相手の趣味や行動について触れるだけで、相手は「関心を持ってもらっている」という喜びを得られます。
なお、このように相手をきちんと見続けていると、それまで気づかなかった長所も見えやすくなります。苦手な相手でさえ、観察を重ねれば褒めるポイントが見つけ出せるものです。相手への悪感情はいったん脇に置いて、公平に相手の言動を注視しましょう。イヤミだと思っていたファッションにその人なりのこだわりがあることに気づいたり、文句の多さは「妥協のなさ」だと発見できたりすると、それまでの悪感情も好転する可能性大です。すると、自然に褒め言葉が出てきて、ギクシャクしていた関係も好転するでしょう。
最後に、褒められる側に立ったときの対応についても注意しましょう。つい「いえいえ、とんでもない」と謙遜したくなるところですが、それでは会話は止まってしまいます。
私の知人の男性は、「カッコいいですね」と言われると「正直な方ですね!」と冗談めかして答えるそうです。笑いを起こして相手の気持ちをほぐす、とても良い方法だと思います。
さすがにそれは無理、という人でも、「ありがとうございます」のひと言は忘れないようにしましょう。加えて「○○さんこそ素敵です」あるいは、「○○さんのような素敵な方に褒めていただいて嬉しいです」といった褒め言葉を返すことができれば万全です。嬉しさと好印象の良い循環が起こり、心地よいコミュニケーションを取ることができるでしょう。
褒め言葉を取り入れるポイント 3
〔1〕 一度でダメでもあきらめない
褒めた相手が「そんなことありません」と否定してきたとき、そこで褒めるのをやめると、「やっぱりお世辞か」と思われてしまう。「いや、ほんとうに素晴らしいと思います」と言葉を重ねること。相手も内心では喜んでいるので、「本気なんだ」と嬉しくなるだろう。
〔2〕 目上を褒めるなら「憧れ」を強調
目上の相手に「上手ですね」などの褒め言葉を贈ると、評価を下しているような印象になり、かえって失礼にあたる。賛意を示したいときは「○○部長を目標にしています」「○○部長のように××な上司になりたいです」など、尊敬や憧れを強調するのが良い方法。
〔3〕 名刺交換の前から相手を観察
褒め言葉のスタートは「名刺交換から」と考えがちだが、その前段階に関して褒めることも可能。「入ってこられたときからタダモノじゃない感じがしました」「遠くからお姿を拝見していて、素敵な人だなと思いました!」などのインパクトの強い言葉で、強い印象を残せる。
(たにぐち・よしこ)
BeeHive代表
1967年生まれ。同志社大学卒業後、広告制作会社でコピーライターとして活動。30代でコーチングに出合いコミュニケーションへの苦手意識を克服。その感動を伝えるべく、2004年よりプロコーチ・セミナー講師として活動を開始、その後褒め方に関する書籍の出版をきっかけに、「ほめ方の伝道師」として数々のメディアに登場、講演や執筆でも活躍中。
著書に、『口ベタでもうまくいく!ほめ方の極意』(講談社)など。
[今月号の読みどころ]
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更新:11月24日 00:05