
専門用語だらけの会議はなぜ伝わらないのか?コピーライター・荒木俊哉氏とテクニカルライター・滝沢志郎氏が、わかりやすく伝えるための本質的な方法を語り合った。(構成:三井カナ)
※本稿は、『THE21』2026年7月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
【荒木】はじめまして。コピーライターの荒木俊哉です。小説『咲良は上手に説明したい!(以下『咲良』)』が大ヒット中の滝沢志郎さん、お会いできて光栄です。滝沢さんのもう一つの顔である「テクニカルライター」の仕事に励むヒロインの物語、とても面白く読ませていただきました。
【滝沢】こちらこそ光栄です。私も荒木さんの『こうやって頭のなかを言語化する。(以下『言語化』)』を拝読して勉強になりました。今日はお聞きしたいことがたくさんあります。
【荒木】まずは僕から質問させてください(笑)。というのも『咲良』を読むまで、僕はテクニカルライターという職業を知らなかったんです。改めて、どんな仕事なのか教えていただけますか。
【滝沢】ありがとうございます。テクニカルライターは、専門家の言葉を一般の人に伝わるように書く職人です。取扱説明書やマニュアルをつくる仕事が多いですが、ほかにもあらゆる文章を「わかりやすく、正確な」表現にしていくプロです。
【荒木】コピーライティングと共通点が多いと感じます。
【滝沢】まったく同感です。『言語化』で語られるお話は、『咲良』にも通じるところが多々。無駄をそぎ落として必要最小限の言葉を残す、という過程も似ています。そして何より、「言語化するにはまず『聞く』」という考え方。マニュアルづくりも、丹念な聞き取りで商品を知ることが必須です。
【荒木】とすると、一番の共通点は「届ける相手」がいることでは。どちらの仕事も、自分の意見ではなく、誰かの伝えたいことを、別の誰かに届けていますよね。
【滝沢】たしかに。自ら生み出すというより、橋渡し役ですね。翻訳家とも似ているかも。私たちは、「わかるように」翻訳しますが、荒木さんは?
【荒木】僕らの場合は「魅力が伝わるように」翻訳します。その際は、作った人の想いまで深く聞き取るようにしています。それによって商品がさらに輝き、欲しいという気持ちを喚起できますから。
【滝沢】そうか...。「生み出す仕事ではない」と言ったばかりですが、聞いたことを受け取る独自の感性がなければできない、クリエイティブなお仕事ですね。
【荒木】滝沢さんも、ストーリーを「生み出す」方です。テクニカルライターと小説家を兼ねている方は、ほかにもいらっしゃいますか?
【滝沢】おそらくいないと思います。もともと小説家志望で、テクニカルライターは求人誌で見て「面白そう」と思って始めました。すると、予想以上の面白さ。仕事に就く前と後とで、世界の見え方が変わりました。
【荒木】どんなふうに?
【滝沢】「わからない」と言える勇気が備わりました。それまでは「理解が悪いと思われたくない」などと思っていましたが、この仕事は「わからない」を表明しないとわかりやすく直すことができません。
【荒木】見栄を張っている場合ではない、と。
【滝沢】物事全般に対して、見栄から解放されました。歴史小説を書くのでよく学術書や雑誌を読むのですが、前は難解な論文を読むたび理解力の不足を気にしがちでした。でも、学者の先生方が誌面上で「あなたの論文のここは文意が取れない」と論争されているのを見て、「専門家でもわからないんだ!」と肩の力が抜けました。
【荒木】賢そうに見られたい見栄、一般社会にもよくありますね。あえて物事をわかりにくく言う人もいます。単純なことを複雑に表現したり、専門用語を多用したり。
【滝沢】いますね。会議での回りくどい発言、暗号なみのビジネス文書、最後まで読む気がしない掲示など、巷にはわかりにくい表現があふれ返っています。多くの方が、伝える前に「これ、伝わる?」と一回立ち止まる習慣を持つと、世の中はもっとスッキリするのではないでしょうか。
【荒木】「わかりやすさ」の価値、理解されるべきですね。
更新:06月05日 00:05