2026年03月30日 公開

「キャリアシフト」と聞くと社外への転職を思い浮かべがちだが、今の会社で働き続けながらキャリアシフトを実現する方法はないのだろうか。人事のプロである西尾太氏に、「社内転職」をミドル世代のキャリアの充実や成長につなげる秘訣を聞いた。(取材・構成:塚田有香)
※本稿は、『THE21』2024年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

会社員がこれまでに培ったスキルや経験を活かして新しい領域にチャレンジしたいと考えたとき、選択肢となるのは社外への転職だけではありません。自らの意思で異なる環境に異動する「社内転職」も、やりがいや成長を実現する「キャリアシフト」の手段と言えるでしょう。
最初にお伝えしておくと、ミドル世代にとって、社内転職は"狭き門"です。そもそも早期退職や希望退職の対象を「45歳以上」とする企業が多いことからもわかるように、中高年はリストラで狙い撃ちされる世代です。
年功序列の日本型組織では、40代後半から50代の給与が最も高いため、会社としては中高年を減らして若手の給与を上げたいのが本音。会社に残り続けることさえ簡単ではなくなっている今、ミドル世代が希望通りの異動を叶えるのは厳しいのが現状です。
ただし、社内転職が無理だと言っているのではありません。私は人事として様々な会社を見てきましたが、「別の部署なら会社にもっと高い価値を提供できる」「自分の経験を活かして今までとは違う活躍がしたい」といったポジティブな動機で異動を申し出る社員を、会社が悪く思うことはありません。
会社が一番嫌うのは、「定年まで逃げ切ろう」「今さら頑張っても仕方ない」などと考え、「今がラクだからこのままでいい」と現状維持でやり過ごそうとする社員です。
「リスクを取ってでも新しい場所で挑戦したい」と自ら手を挙げるだけの気力と行動力があるミドルは、それだけで会社から評価されます。もちろん異動を希望しても、それが通るとは限りませんが、少なくとも社内転職を申し出ること自体は、むしろ会社や人事に好印象を与えるケースが多いはずです。

ミドルが社内転職を目指すなら、実現の可能性があるのは「地域異動」です。例えば東京の営業本部にいた人が、地方の営業拠点に異動するといったパターンが考えられます。
東京という巨大マーケットで培った営業ノウハウを活かし、地方マーケットで売上やシェアの拡大を実現するのは、やりがいのあるチャレンジになるでしょう。ポジションとしても、東京本部では課長級だった人が、地方の営業拠点では支店長を任されることもあります。
地方への異動はキャリアダウンに思えるかもしれませんが、「たとえ規模は小さくても、組織のトップとして権限と責任のある立場でマネジメント経験を積みたい」と考える人にとっては、決して悪い選択肢ではありません。
ミドル世代の多くはすでに住宅を購入済みで、家族も現在の生活圏から離れるのを嫌がるため、別の地域への転勤は敬遠されがち。だからこそ「自分の力が活かせるなら地方でチャレンジしてみたい」と希望するミドルがいれば、人事としては大変ありがたく、それだけで会社から貴重な人材と認識されます。
「家族を帯同できず単身赴任になる場合、会社が住宅費や帰省する際の旅費を負担しなければいけない」といったマイナス面はあるものの、「地域異動」はミドル世代が希望を叶えやすい社内転職と言えるでしょう。
また「部門外同職種異動」も、ミドル世代によく見られるキャリアシフトの一つです。営業部門で製品群Aを扱う部や課にいたが、より将来性がある新たな製品群Bを扱う部署に異動したい、といったケースが該当します。これまでに養った営業ノウハウはそのまま活かしつつ、新たな製品や顧客を担当することで、プラスアルファの専門性や経験値を養うことができます。
これに対し、ミドル世代が営業部門から総務部門に移るといった「異職種異動」を叶えるのはかなり難しいのですが、職種間で共通のスキルやノウハウが活かせる場合はチャンスがあります。
代表的な例が、営業から人事への異職種異動です。人事はいわば社内営業部門であり、あらゆる部署と調整や交渉を行なうのが仕事なので、「優秀な営業は優秀な人事になれる」とよく言われます。営業として成果を出してきたミドルが、「社内の人的資源を最大限に活用して会社を成長させるために、自分の営業スキルを活かしたい」と希望すれば、会社が検討してくれる可能性はあるでしょう。
一方で、「これからも今の部署で頑張りたい」と考える人もいるでしょう。現在の部署で自分が評価されているのであれば、今の場所に留まり続ける選択肢もあるかもしれません。
ただし、人事評価は本人の業績や成果が正しく反映されていない場合があるので注意が必要です。年功序列の慣習が残る企業では、人事評価が適正に機能していないことが多く、標準評価をAとすると、勤続年数の長いミドルのほとんどがA評価という会社も少なくありません。「BやCではないから、自分は会社から評価されているのだ」と安心していたら、ある日突然早期退職を促されるケースは珍しくないのです。
「給与が上がっているから自分は評価されている」と考えるのも危険です。年功序列の給与制度は、過去の功績によって現在の給与が決まる「後払い型」です。つまり、高い給与をもらっているミドルは、過去の成果を評価されているに過ぎません。
これが「働かないのに給与だけ高い中高年」を生み出しやすい要因となっているため、多くの企業が今出している成果で給与を決める「時価払い型」へ改革を進めています。過去ではなく、今を評価する制度に変わったとしても、「自分は高い給与がもらえる」と自信を持って言える人はどれだけいるでしょうか。
よってミドル世代が今後のキャリアを考えるなら、まずは自分のスキルや経験を棚卸しして、「自分は何ができるのか」「自分の強みは何か」を客観的に把握することが不可欠です。
そのうえで、本当に自分が今の部署で強みを活かせているのか、それとも他にもっと強みを発揮できる場所があるのかを考えるといいでしょう。大事なのは「社内転職をするか、しないか」ではなく、「どうすれば自分の強みを活かして価値を生み出せるか」という視点を持つことです。
【西尾太(にしお・ふとし)】
人事コンサルタント。1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリエイターエージェンシー業務を行なうクリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。これまで1万人超の採用・昇格面接・管理職研修・階層別研修・人事担当者教育を行なう。
更新:04月05日 00:05