2013年04月02日 公開
2022年12月15日 更新
《『THE21』2013年4月号[総力特集]40歳から伸びる人の「大人の勉強法」より》
<取材・構成:村上陽一/写真撮影:まるやゆういち>
走り続けながら鍛える能力をシフトする
40代は難しい世代だ。企業にもよるが、大所高所に立って組織全体の指揮を執るにはまだ早く、最前線でがむしゃらに仕事をしているだけではキャリアが先細る。大きな岐路に立つ世代。だからこそ、「40代はもっとも能力を伸ばすべき時期である」と、キヤノン電子〔株〕社長の酒巻久氏はいう。
「自分自身の40代を振り返ると、ちょうどスティーブ・ジョブズと仕事をしていたころです。技術者として、世界を舞台にしのぎを削っていた時期でした。きっと、いまの40代にも、20代、30代のころとそれほど変わらずに、最前線を走り続けている人が多いのではないでしょうか。体力にもまだ自信があるし、若い世代に負けない経験という武器がある。
しかし、その先を考えるなら、ただ走り続けることに熱中しているだけではダメです。技術者なら技術の面で、営業マンなら営業力の面で、どんなに努力しようとも、若い世代と勝負できなくなるときが、いまにやってきます。できる人ほど『自分は大丈夫』と考えてしまいがちですが、考えを改めたほうがいい。そもそも、求められるスキルが変わってくるのですから。たとえば、20代は他人の指示で仕事をすることがほとんどでしょう。30代になると自分の意思で仕事ができるようになる。そして、40代では人を動かす立場となります。そこで自分の経験則だけを頼りにしていては、限界がみえてきます。少し厳しい言葉になりますが、どんなに優秀な人でも、チームマネジメントができなくては使いものにならなくなってしまうのです。若いころは優秀だった人が、40代になってから伸び悩む。そんな事例を私はたくさんみてきました。
では、40代では何を身につければいいのか。それは、自分の考えを部下に押しつけるだけでなく、部下の意見をきちんと吸い上げて、チームとして力を発揮させることができる能力です」
自分の経験だけを判断の尺度にしない
キヤノン電子の課長職には40代が多い。酒巻氏は、彼らに部下からの提案を却下する権限を与えていないという。
「課長職の人は、それぞれが豊富な経験をもっています。それゆえに、若い部下からの提案を自分の判断で却下してしまいがちです。もちろん、部下からの提案のなかには稚拙なものもあるでしょう。ダメ出しをするほうがラクでしょう。でも、それではチームのなかから新しいものが何も生まれてこない。だから、弊社では課長職に部下の提案を却下する権限を与えていないのです。その代わり、課長の責任を問うこともしません。
部下の提案のなかには、課長がダメだと思っても、やってみたらうまくいくものが多くあります。私自身のこれまでの経験でも、たとえば、複写機の技術的課題について、私が『ダメだろう』と思った部下のアイデアがうまくいって、キヤノンの複写機が市場に広まったということがありました。もちろん、やっぱりダメだった、というものもありますよ。しかし、まずはやらせてみる。そして、その結果をみて、自分の判断が正しかったか、間違っていたかを反省する。これを繰り返すことが重要です。ただただ提案を却下し、自分の定規で測れることだけをやり続けてしまったら、それほど不幸なことはありません。その人が部長になったとしたら、きっと判断を誤ります。自分の能力のなかだけで仕事をしてきた人が重要なポストについたら、組織が硬直します。反対に、部下の意見に耳を傾ける力を身につけていれば、自身の技術力や営業力が衰えても、じゅうぶんに戦えます。むしろ、上にいけばいくほど、力を発揮できるはずです。
ある意味では、部下は先生なのです。彼らの話に耳を傾けること。それこそが、40代がすべき“勉強”だと思います。100人いれば100の意見があることを、身をもって理解すること。そして、彼らのアイデアを具現化するためには、自分がどのようにサポートすればいいのかを考える。自分のもっているスキルや人脈を改めて見直す。さらに、できれば自分のサポートが適切であったかどうかを部下に聞く。
40代は、その先にある、よりレベルの高いマネジメントを行なうための訓練の時期といえます。部長になってから判断を誤れば会社に大きな損害を与えますが、課長よりも下の人が失敗しても、会社に与える損害はたいしたことはありませんよ」
読書は実践の確認と幅広い情報穫得のため
酒巻氏はビジネス書も執筆しており、また、読書家としても知られる。“大人の勉強”として、座学では何が学べるのだろうか。
「ビジネスの勉強はあくまで実践ありき、というのが私の持論です。異業種の人たちが集まって議論をしたりするセミナーも、実践に含まれます。一方で、座学も決してないがしろにしてはいけません。割合としては、実践が7、座学が3ぐらいでしょうか。座学は、実践で学んだことの確認として位置づけるべきでしょう。日常での仕事の進め方や判断で、自分としては正しいことができたと思っていても、それはあくまで自己評価です。ほんとうに間違っていなかったか? よりよい方法はないのか? そういうことを座学で確認するわけです。
みなさんにお勧めの本としては、『人を動かす』(創元社)など、デール・カーネギーの著作がいいと思います。また、40代は専門分野だけで戦うわけではありませんから、幅広いジャンルの本と接することが必要だと思います。私自身は、たとえば、いまテレビドラマも放送している『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延著/メディアワークス文庫)も読んでいます。『いま、こういうものが売れているんだな』という勉強にもなりますね。
ビジネスの現場でも、読書でも、セミナーでも、かぎられた自分の守備範囲だけではなく、その外からのアイデアや情報も入れること。それは必ず糧となります」
(さかまき・ひさし)
キヤノン電子〔株〕代表取締役社長
1940年、栃木県生まれ。1967年、キヤノン〔株〕に入社。VTRの基礎研究や複写機の開発、ワープロ開発、総合企画などを経て、1996年、常務取締役生産本部長。1999年、キヤノン電子〔株〕社長に就任し、環境経営の徹底で高収益企業へと成長させる。
<今月号の読みどころ>
20~30代にかけては、仕事に直結した知識や技術を身につけることが、スキルアップやキャリアアップにつながります。しかし、40代に入ると、何をどのように学べばよいのかがわからず、自己啓発のギアチェンジをうまくできない人も多いようです。そこで今月号では、ミドルビジネスマンがさらに上をめざして成長する勉強法を考えてみました。本特集を読んで「大人のビジネスマン」としての魅力を身につけてください。
更新:11月25日 00:05