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「起業なんてやめておけ」と助言したがる人の本音とは? 迷っている人が本当に大切にすべきもの

中村裕昭(ゲートプラス株式会社代表取締役)

周囲が浴びせてくる「批判」や「助言」といかに向き合うか

「起業なんてできるわけない」「危ないからやめなさい」——そんな言葉を聞くたびに、迷いが生まれる。でも、新規事業構築を得意とする起業家の中村裕昭氏は、「彼らはあなたが進む分野のことを何も知らない」と指摘する。周囲の声に振り回されず、自分で判断するために本当に大切なこととは。かつては「商売下手だった」と振り返る中村氏が語る。

※本稿は、中村裕昭著『臆病者のための起業法』(総合法令出版)より一部抜粋・編集したものです。

 

他人の言葉より自分の意志

人は、知らない世界に対して不安や恐怖を覚えます。だから、他人が何かを始めようとすると、多くの場合批判します。恐怖の対象に向かっていくことは間違いだと考えるわけです。

もちろん、心配な気持ちもあるでしょう。近くにいる人は、自分のだらしがないところも知っています。関係性が近ければ近いほど、どうしてもいいところではなく悪いところに目が行きます。だから「起業なんてできるわけないだろう」と言われてしまうわけです。

でも、あなたが真剣に「やりたい」と考えているなら、そうした言葉を真に受ける必要はありません。批判する人、心配する人は、あなたがいまから進む分野のことは何も知りません。自分と比べて、熱量と情報量が圧倒的に少ない人を納得させるために、わざわざ説明するのは時間のムダです。彼らは知らないことを理解しようとはせず、「危ないからやめなさい」としか言わないでしょう。

僕が中古着物ビジネスを始めたとき、ある知人の経営者は「金にならないからやめたほうがいい」と言いました。着物を買い取っても、高い値段がつく着物はほんの一部。それ以外は二束三文にしかなりません。仮に1枚100円で売れたとして、月に50万円稼ごうとしたら、5,000枚集めなければいけない。それをこれから何年も続けられるわけがないということです。

確かに、毎月5,000枚の着物を集め続けるのは現実的ではありません。でも、僕はそこまで大量ではないにしても、着物を集めることができていましたし、それをお金にすることもできていました。お客さんがお金を払ってくれるということは、知恵を絞っていくことで、さらにたくさんのお金に換えられる可能性があるということです。

放置自転車の回収ビジネスを始めたときもそうです。今でこそ「すごいビジネスやってるね」と言われるようになりましたが、立ち上げ当初は誰にも理解されませんでした。

でも、僕がこのビジネスに携わった2011年当時、日本の年間出生数は約105万人。新品の自転車は年間1,100万台以上生産されていました。使われていない自転車があるのは明らかです。
放置自転車問題に困っている人がいることも調べていました。それに、新品がたくさん売れると中古市場も活性化します。すべて事実として把握していたんです。

 

他人のアドバイスが危ない理由

他人の意見は、参考程度と考えましょう。ただ、特に商売を始めたばかりの頃は、その「参考程度」も危険です。

初期段階では自分の考えが固まっていません。いい意味では柔軟性がある状態ですが、悪く言えば自分のルールが確立しておらず、情報の取捨選択がうまくできない状態です。
そんなときに、他人から「こうしたほうがいい」「それはダメだ」と言われると、その意見が自分の頭の中に入ってきて、無意識の内に足を引っぱられてしまう場合があります。

たいていの場合、聞いてもいないのに必要以上にアドバイスしてくる人たちは、単なる教えたがりです。大した実績を出していないのに、どこかで聞きかじった話をして知識をひけらかしたいだけなのです。

きちんと結果を出している人は、誰でも自分で考えなければいけない時期があることを知っています。だからヒントは与えてくれますが、むやみやたらにアドバイスはしません。

本当に正しいかどうかわからないことを、さまざまな人からいろいろと言われる。そうすると、どこに進んでいいのかわからなくなってしまいます。
迷いは不安と恐怖を生み出し、不安を打ち消すために、その人はさらに情報を集めようとします。そうして思考がブレていくのです。

一方で、人の意見を聞かないことで自分の主観から抜け出せなくなる、という危険性もあります。
バランスを取るのは難しいですが、人の意見につぶされるくらいであれば、自分で考えたことを形にして失敗したほうが、まだマシだと思います。

 

言葉のシャワーに惑わされない

僕はここまで、「まずは行動しよう」と言ってきましたが、自分で「今は動かない」と判断したのであれば、それもアリです。

僕は起業で失敗しない手法と考え方をお話ししているわけですが、誰もが起業しなければいけないとは思いません。そもそも論になりますが、現在のままでも幸せを感じられるなら、無理に動く必要はありません。

物事には多面性があります。それをどう受け取ってどう対応するか。それを決めるのはあなた自身です。

例えば、近年は「生成AIに仕事を奪われる」というような文言を、あちこちで目にします。AIの普及により、大規模なリストラが今後起きるのではないかというニュースも流れてきます。
これも事実だけを抜き取れば、人の代わりをAIが務めるのだから、当たり前の話であって、大騒ぎをすることでもないと思います。
それよりも、人にしかできない仕事がまだたくさんあるのですから、今後はそこにシフトすればよいのではないかと僕は思います。

僕が共同代表をしている設備メンテナンス事業は、まさしく人にしかできない仕事です。製造業を根底から支える事業をおこなっています。
仕事内容はどちらかというとガテン系ですが、情報はすべてクラウド管理で、AIを活用したバックオフィス業務を構築しています。
AIに仕事を奪われるどころか、AIが普及したことで、このようなブルーカラーの仕事の大切さが見直されていますし、AIの活用でどんどん業務効率化を進めることができるのです。

人は自分で意思決定をしているつもりでも、必ずどこかで他者からなんらかの影響を受けています。ニュースであったり、ネットの情報であったり、誰かの何気ないひと言であったり、本であったり。

僕たちは日々、無数の言葉のシャワーを浴び続け、無意識に影響を受けています。だからこそ、誰とつき合うか、どんな情報に触れるか、といったことは思っている以上に大切だと思います。

著者紹介

中村裕昭(なかむら・ひろあき)

ゲートプラス株式会社 代表取締役

新規事業・ニッチビジネス構築を得意とする起業家。福島県いわき市の工業高校卒業後、和食料理人を経て26 歳でアクセサリーショップを開業。しかし売上不振により1 年で廃業。再起を図る過程で、独自の戦略とビジネス構築術を編み出す。その手法を武器に、着物事業では人口33 万人規模の商圏で地域一番店を構築。自転車のリユース事業では、わずか2 年で全国に100 事業所を展開させた実績を持つ。現在は、設備メンテナンス事業、組織改革・チーム構築事業、リユース事業の他、複数のプロジェクトを推進。講演・研修活動にも力を注ぎ、ビジネスやお金の悩みを抱える人々の問題解決を支援。
ゲートプラスHP:https://bizsupport.jp/
LINE:@256tjpeo
X:@naka_hiroaki

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