超難関資格であるFP(ファイナンシャルプランナー)1級を取得した、人気お笑い芸人の八木真澄さん。48歳でレギュラー番組がゼロになったことをきっかけに、「芸人としての新しい居場所を見つけたい」と勉強を始めたという。その中でも、なぜ合格率10%のFP1級を目指したのか、そして具体的にどのような勉強法を実践していたのか、八木さんに話を聞いた。(取材・構成:横山瑠美)
※本稿は、『THE21』2025年10月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
――FP1級合格おめでとうございます! そもそも、資格取得を目指そうと思ったのはなぜだったのでしょうか?
【八木】48歳で、レギュラー番組の仕事がなくなったからです。
――え、全部ですか?
【八木】はい、ゼロになりました。もちろん、これからも新しいネタを作って勝負しますし、芸人としての努力は続けます。ただ、それだけではレギュラーの仕事を増やすのは今後難しくなると思いました。
――どうしてでしょう?
【八木】例えば、学校のテストで50点を60点に上げるのはわりと簡単です。でも、90点を100点にするのはものすごく難しい。10点アップさせることに変わりはありませんが、そのために必要とされる努力の質と量はまったく違ってきますよね。
――確かに......。
【八木】芸人も同じなんです。僕は19歳で芸人になって今年51歳になりました。32年芸人をやっていますが、上にはすごいベテランの方がいらっしゃいますし、下からはどんどんイキのいい若手が台頭してくる。そういう人たちが全員、上に行こうと毎日努力しているわけです。競争が半端ないんですよ。
もちろん、そんな中でも成長し続ける人、ベテランになってからブレイクする人もいますが、普通は年を取るにつれてオファーをいただく難易度は上がります。今後努力を重ねても、自分のタレント力やコメント力だけに頼っていては仕事を増やすことはできない、と思いました。
ただ、他の芸人にない資格があれば専門家の目線でしゃべることができますし、わかりやすい旗が立って今よりオファーが来る可能性は高くなります。講演会の仕事もいただけるかもしれない。資格を取ることで、新しい自分の「居場所」を見つけられるかもしれない、と考えたんです。
――未来への危機感から資格取得を思い立ったのですね。様々な資格がありますが、なぜ合格率10%のFP1級を?
【八木】理由は二つあります。一つ目が、単純に興味があったということです。生きている以上、誰でもお金と無関係ではいられません。たくさん稼ぎたいという欲があろうがなかろうが、お金って大事なんです。お金はあればあるほどいいとは限りませんが、ないと人間関係が崩れることがある。気持ちが不安定になってイライラすることもあるでしょうし、第一、生きていけませんよね。
特に芸人は、収入の振れ幅が大きいから。億というお金を稼ぐ人もいれば、バイトをしながら食いつなぐ人もいます。今は順調な人でもいつ仕事がなくなるかわからないですし。だから、お金の知識を持って自分のお金の適正値を知り、管理していくことが必要です。
二つ目の理由は、芸人という職業との親和性です。FPは家計や教育資金、住宅購入、保険、税金、相続などの幅広い知識を持ち、アドバイスできるお金の専門家です。お金の知識は誰にとっても身近で必要なもの。そんなお金の話を一般の方に伝えるのに、面白くしゃべれる芸人の特性はぴったりだと思いました(偉そうに言いましたが、3分の2はすべってます)。講演などで大多数相手に話すことになっても、舞台で鍛えた度胸が活きますしね。
――もともと勉強は得意なほうだったんですか?
【八木】いえ、勉強は本当に苦手で。学生時代は授業のスピードについていくことができなかったですね。
それでもFP1級に挑戦したのは、スピードよりしっかりした理解が大事だと考えたから。表面的な知識だけでなく、なぜそうなるのかというロジックまで深く理解しなければ解けない問題ばかりなんです。
なので、遠回りに見えても時間をかけて、一度理解したら忘れない、そんな強度のある勉強をすれば自分でもいけるんじゃないかと思いました。働いていると、学生のように1日中勉強することはできないですからね。これは芸人だけでなく、忙しい会社員の方にも通じる考え方かもしれません。
――FPの勉強は2022年5月から始めたとか。実際、どんなふうに勉強を進めたのでしょうか?
【八木】FP1級は、3級と2級を取っていないとチャレンジできないんです。だから、まずは3級の勉強から始めました。
3級はYouTubeの「ほんださん/東大式FPチャンネル」を見ながら勉強して、22年9月に合格しました。テキストは使っていません。そのあと、23年1月に2級に合格したのですが、このときもテキストは使わずYouTubeを見て、あとは過去問をひたすら解きました。
――2級も3級も一発合格。すごいです......!
【八木】いえいえ。ただし、1級の難易度は別次元でした。テキストの厚さが漫画雑誌ぐらいあって字がむっちゃ小さい。見た瞬間「これはアカン!」と思いました(笑)。
でも、しんどいと勉強って続かなくないですか? だから、とにかく楽しく、ストレスなく勉強を続けるために、色んな勉強法を編み出しました。その勉強法を僕は「世界一ゆるい勉強法」と呼んでいて、全部で450個ぐらいあります。
――勉強法が450個!
【八木】全部は説明できないので、主なものだけ紹介しますね。
例えば、問題集を解くとしたら、問題を読んだあとに百均の落書き帳に図を描いて考えます。「債権者Aと債務者Bが......」とあったら、Aを棒人間で描いて頭に星マークを付け、債務者Bのほうは泣いている顔にする。それだけで、問題の内容が頭に入りやすくなるんですよ。
問題を解くときは、口に出しながら考えるようにもしていました。「そっか、相続の話ね。この場合○○やから......」と口に出して自分自身に説明すると、自分がどこまで理解していて、どこを理解していないかがはっきりしますから。
他には、テキストの拡大コピーもしていましたね。
――え、拡大コピーですか?
【八木】ええ、コンビニに行って一番大きい紙に難しい個所をでっかく拡大コピーするんです。小さい字で難しいテキストを読んでいてもなかなか頭に入ってこないんですが、字を大きくするだけで情報が少し入ってくるようになるんです。
――目からウロコです。他にも独自の勉強法が?
【八木】はい。4択の選択問題は手持ちのコインを正解と思う選択肢に張って、正解だったら自分が取る、正解するほどコインの数が増えていくというゲーム感覚を取り入れながら解いていました。
100点満点のテストを解いている時も、「何点とれるかな!?」とワクワクしながら取り組むという、ゲーム感覚のマインドでいました。そうすると、点数が取れるとアドレナリンが出るからか、楽しくなってくるんです。
――楽しくするのがポイントなんですね。
【八木】ええ。「90点クリアできた!」「80点しか取れへんかった~」と一喜一憂すると印象に残るせいか、知識の定着もいいような気がします。
ルーティンとして勉強には淡々と取りかかるけれども、勉強そのものには楽しい要素もあったほうが僕の場合は継続しやすかったですね。
――奥様も八木さんと同じ時期に行政書士の試験勉強をしていたとうかがいました。ご夫婦で資格勉強をしていかがでしたか?
【八木】FP1級の試験は、税理士から税務、行政書士から民法など、様々な士業の分野から出題されます。嫁さんが行政書士の勉強をしていて、すでに宅建の資格も持っていたので、わからないことを色々教えてもらったり、相談したりできて良かったですね。
【八木真澄(やぎ・ますみ)】
お笑い芸人。1974年生まれ、京都府出身。吉本興業所属。93年、高橋茂雄とお笑いコンビ「サバンナ」を結成。趣味はトレーニング、空手、柔道など。特技はギャグ。2022年からFP(ファイナンシャルプランナー)の資格勉強を始め、24年、最高難度のFP1級を取得した。近年は、資格を活かした講演やテレビ出演も増加している。著書に『FP1級取得!サバンナ八木流 お金のガチを教えます』(KADOKAWA・ ほんださん(本多遼太朗)と共著)などがある。
更新:10月18日 00:05