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「夫と暮らしたくない」が妻の本音!? 定年後の夫婦関係が円満になるマネジメント術

2025年09月18日 公開
2026年09月14日 更新

藏本雄一(一般社団法人HARMONIES代表理事)

これまで家庭のことは気にかけながらも、仕事を優先してきたミドル世代は多いだろう。しかし定年後の人生が視野に入った今、家族、特に配偶者との関係を見つめ直したいと思っている人もいるはずだ。そこで、夫婦関係の事情に詳しい藏本雄一氏に、50代からの家庭マネジメント術についてうかがった。(取材・構成:塚田有香)

※本稿は、『THE21』2024年10月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

 

「夫と暮らしたくない」が妻の本音かも!?

夫婦間のすれ違いを見過ごせば、理想の老後も台無しに

家庭における問題は、家族の年齢や時期によって変化します。例えば子どもが小さい頃は、子育てにかかるお金や教育方針で頭を悩ませた人も、50代になると子どもが手を離れ、夫婦の関係について改めて考え始めるといった変化があるはずです。

もしかしたら男性は「定年後は妻と一緒に旅行を楽しもう」などといった計画を思い描いている人も多いかもしれません。しかし女性はどう考えているのか。その本音をご存知でしょうか?

私は女性向けの婚活コーチングをしているので、女性の本音を聞く機会が多い立場ですが、その実情を知れば知るほど、50代は夫婦の問題が噴出する時期なのだと痛感します。

それを象徴するエピソードとして、ある50代女性から聞いた話をご紹介しましょう。彼女はエステサロンの経営者で、顧客である同世代の主婦から家庭の不満や愚痴を聞くことが多々あるそうです。どんな内容が多いのかと尋ねると、生々しい会話の一端を教えてくれました。

「単身赴任の夫がもうすぐ定年を迎えるが、戻ってきても今さら一緒に暮らす自信がない」
「夫が田舎に帰りたいと言い出したが、私は絶対に嫌」
「高齢になった夫の両親の面倒を誰がみるの? 夫は私を当てにしているのかもしれないが、勘弁してほしい」

いかがでしょうか。自分の知らないところで妻がこんな話をしているとしたら、男性はショックを受けるかもしれません。さらに追い討ちをかけるようですが、私がカフェで仕事をしていたら、背後の女性たちからこんな会話が聞こえてきました。

「本当は夫と離婚したいけど、子どもがまだ小さいし、経済面が不安だから我慢している」

そんな話題で盛り上がっているのを耳にして、これが女性の本音なのかと私もびっくりしてしまいました。子どもが自立したり、経済的な不安が解消されたりと、何らかの節目を機に夫との関係を見直したいと考える女性は、男性が考えている以上に多いのかもしれません。実際、2022年には離婚件数の中でも、結婚生活20年以上の夫婦が占める割合が、過去最高の23.5%になりました。

問題は夫がそれに気づいていないことです。夫が呑気に定年後の旅行プランを立てている一方で、妻は"卒婚"を視野に入れている可能性もあるのです。もちろん逆のパターンとして、夫が妻に不満を抱くケースもあります。男性だけの飲み会で、ここぞとばかりに妻の悪口を言う人は一定数いるものです。

夫婦間で考え方にズレがあるなら、亀裂が大きくならないうちに問題を解消する必要があります。まだ、間に合います。

 

家庭でも職場でも「心理的安全性」が鍵を握る

幸せな夫婦の全体像

仕事と家庭は切っても切れない関係にあり、家庭の状態は仕事のパフォーマンスに直結します。職場の生産性を高める条件の1つに「心理的安全性」がありますが、同様に家庭が安心できる空間になれば、仕事にも良い影響が期待できるのです。

家庭の心理的安全性が高ければ、仕事のプレッシャーから解放され、また明日から高い目標や難しい課題に挑戦しようとするモチベーションが生まれます。自分を信じて励ましてくれる人が身近にいれば、より高い能力を発揮することも可能です。家庭が円満なら、仕事のパフォーマンスを最大化できるのです。

ではどうすれば家族間、特に夫婦間で信頼関係を築けるのか。私が提案するのは、「家庭をマネジメントする」という視点を持つこと。50代は管理職経験者が多いので、家族をチームと捉えれば家庭も運営しやすくなります。

家庭マネジメントにおいて最初に取り組むべきなのは、「自分や家族にとって幸せな人生とは何か」を理解することです。

冒頭で紹介した夫婦のようなすれ違いが生じるのは、幸せの価値観が人それぞれ異なるからです。夫は「老後は田舎で暮らすのが幸せ」と考えていても、妻は「都会で暮らし続けるのが幸せな人生だ」と思っているかもしれません。

そもそも、関係がうまくいっていない夫婦のほとんどはコミュニケーション不足なので、互いが思い描く幸せな人生について話し合い、共通点を探りながら幸せのイメージを擦り合わせることから始めましょう。

これはチームマネジメントで言えば、「ビジョンや目的」の設定に当たります。私が見てきた多数の夫婦関係をもとに「幸せな夫婦の全体像」を図にすると、このようになります(上図)。

一番上に「ビジョンや目的」があり、その下に「中長期のプロジェクト」があります。これは転職や起業、親の介護、住宅や老後資金に関することなど、将来に向けて計画すべきことが該当します。さらにその下に「日々のタスク・コミュニケーション」があり、現在の仕事や家事の分担、お金の収支など、普段の生活に関することが当てはまります。そして夫婦の関係性がこのピラミッドを支える土台になると考えてください。

 

夫婦それぞれが思い描く「幸せのビジョン」を共有

ポジティブ言葉とネガティブ言葉の比率

夫婦のコミュニケーションが必要とはいえ、いきなり「親の介護はどうする?」「老後に備えて家計を見直さないと」といった中長期のプロジェクトや日々のタスクを持ち出しても、話し合いはうまくいきません。こうした実務的なテーマは、決して楽しい話題ではないからです。

だからこそ前段として幸せな人生について語り合い、目指すビジョンを共有すれば、実務的な話題についても「親の介護や老後資金は難しい問題だけど、家族が幸せになるにはきちんと考えておくべきだよね」と前向きな発想になれます。

中には「幸せな人生と言われても......」という人もいるでしょう。その場合は話し合いの前に、「自分にとって幸せな人生とは何か」を考える時間を持ってください。自分自身の内面と向き合うことで、意外な価値観を見出すこともあるからです。

私は既婚男性を対象に、人生で大事なものを発見することを目的としたコーチングを行なったことがあります。トータルで数百人に実施した結果、驚くことに80%以上が「仕事より妻の幸せが大事」と結論を出しました。普段は仕事にかまけ、家族への愛情表現をしないような人でも、深層心理ではこのような価値観を持っているのです。

毎日仕事に追われているビジネスパーソンの多くは、自分が本当は何に幸せを感じるのかに気づいていません。家庭マネジメントの基本は「自分の幸せを知り、家族の幸せを知る」からスタートすると心得てください。

具体的なコミュニケーションの方法については、定期的な「夫婦ミーティング」を推奨しています。頻度は週に1回か2週間に1回程度、1回につき15分くらいが目安です。仕事のミーティングではないので、お茶でも飲みながらリラックスした雰囲気で行ないましょう。

進め方としては、いきなり本題に入らず、まずはお互いの近況を話し合います。雑談で場が温まったら、続いて最近の出来事の中で良かったことや今の気持ちを話し合いましょう。「こんな嬉しいことがあったんだ」と、素直な感情を伝え合ってください。特に女性の場合、自分の話を聞いてくれるだけでストレスが減り、相手への信頼度が高まります。その上でビジョンの共有やタスクの決めごとなどの本題に移ると、話し合いがスムーズに進みます。

近況報告でお互いの成功体験や日々の幸福感を共有するのは、心理的安全性を高めるためです。ポジティブ心理学の第一人者であるショーン・エイカーは、著作の中で「うまくいっている夫婦のコミュニケーションは、ポジティブな言葉とネガティブな言葉の比率が5:1である」と述べています(上図)。

逆にダメ出しや批判などネガティブな言葉が多いと、相手は心を閉ざしてしまいます。よって夫婦ミーティングでは、相手の話をなるべく肯定するように心がけます。「それはこうすべきだ」といきなりアドバイスをしたり、解決策を提示するのも控えましょう。言いたいことがあれば、「提案してもいいかな?」と許可をもらってから自分の考えを伝えるといいでしょう。

 

家庭に上下関係を持ち込んではいけない

家庭マネジメントという言葉を使いましたが、「家庭の運営」と「会社の組織運営」には大きな違いが2つあります。

1つめは、会社では上下関係や指揮系統がはっきりしているのに対し、家族関係は本来平等で、お互いを尊重し合うのが望ましいことです。特に夫婦関係に上下関係を持ち込むと反発を招くので注意しましょう。

2つめは、会社の組織運営は目的と成果がわかりやすいこと。目的は業績向上や顧客への価値提供などで、成果も売上・利益や顧客満足度などの数字で可視化できます。

しかし家庭の場合、目的や成果を語る共通言語はありません。だからこそ相手の気持ちや価値観を理解しようとする姿勢が重要であり、自分の考えを一方的に押しつけないように気をつける必要があります。

相手への理解を深めるために、パートナーが担っているタスクを代わりにやってみるのもお勧めです。夫が家事を妻に任せきりにしているなら、掃除や洗濯、食事の支度などを自分で全部引き受けてみてください。家事がどれだけ大変かを実感できるので、「たまには夫婦で外食でもしようか」と相手を気遣えるようになります。

 

家庭が円満になると、会社の組織運営も円滑に

結婚年数が長いミドル世代の場合、すでに夫婦間のすれ違いが大きくなっていることも多く、不満がある中で話し合っても口論になる可能性があります。

その場合は感情を落ち着かせるため、カウンセラーやコーチといった第三者にパートナーの不満や愚痴を聞いてもらうのも一つの方法です。負の感情を吐き出してから夫婦で対話すれば、相手の話を冷静に聞くことができますし、夫婦ミーティングが実りある時間になります。

家庭の運営が円滑になると、会社のチーム運営にも良い影響が現れます。家庭を犠牲にして働いてきた上司は、部下にも同じ働き方を強要しがちです。今の時代にそんなことをすれば、若い世代や女性の心は離れ、マネジメントに苦労します。

一方、家庭が円満な上司は部下の気持ちを理解し、育児や介護などの事情で勤務時間に制限がある人でも働きやすい環境を作り、チームの力を最大限に発揮させることができます。

皆さんもぜひ家庭マネジメントのスキルを高めて、幸せな人生を手に入れてください。

 

【藏本雄一(くらもと・ゆういち)】
一般社団法人HARMONIES代表理事。兵庫県生まれ。関西学院大学卒。会社員を経て起業するも、当初は借金生活。妻や家族の力で人生に変化が起き、婚活コーチングやコーチ養成講座で累計2億円以上の売上を実現。最近は、結婚後の夫婦のサポートも数多く手がける。著書に『戦略としての家庭マネジメント』(ぱる出版)がある。YouTube登録者数1.6万人。

 

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