
「言いたいことを言葉にする」のは容易ではありません。多くのリーダーが以下のような課題を抱えています。
・指示があいまい:わかりづらいから人が思ったように動かない
・考えがまとまらない:要領を得ないから相手に伝わらない
・話の内容がフワっとしている:説得力がないから相手に刺さらない
このような課題を解決するために、数々のビジネスリーダーを育成してきたグロービスが「言いたいことを、瞬時に伝わる言葉に変換する25のトレーニング」を紹介します。本稿は「新しい言葉をつくる」レッスンです。
※本稿は、グロービス,嶋田毅著『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです

新しい言葉をつくるというのはまさに創造性が求められる行為です。
我々が普段使っている言葉も、実は比較的最近に誰かがつくった新語/造語ということは多いのです。
たとえば、「インスタ映え」という言葉は2016年から2017年につくられたとされる、比較的歴史の浅い言葉です。「SNS映え」や「インスタルック」でも本来は良かったはずなのですが、今となってはやはり「インスタ映え」以外の言葉はしっくりきません。
インスタグラム(運営はメタ)にとっては、日本でこの言葉が定着したことのメリットは非常に大きかったといえるでしょう。
ビジネスにおいて、新しい言葉をつくるシーンとして最も多いのは、やはり新製品を発売する時でしょう。新製品そのもののネーミングや広告クリエイティブも考えなくてはなりませんし、場合によっては製品カテゴリーやビジネストレンドなどの名前を新たに考案することもあります。
たとえば、ファイザーは「バイアグラ」という製品を売るにあたって、「ED」という新しい言葉をつくりました。それまでは「インポテンス」や「(性的)不能」という用語が用いられていましたが、多少差別的なニュアンスがあったのです。ファイザーは「ED」という柔らかい言葉にすることで、ED改善薬に対する心理的障壁を下げることに成功しました。
今や普通の言葉となった「生活習慣病」もかつては「成人病」と呼ばれていました。ただ、成人病という表現では「自分は無関係」などと思ってしまう人も多いでしょう。そこで当時の厚生省が「自らの努力で防いだり、改善できる」という意味も込めて生活習慣病と改名したのです。筆者は非常に良い言葉だと思っています。
それに対して、WHOが定義したメタボリック・シンドローム(俗称メタボ)をそのまま日本に持ち込んだのは成功事例とはいえなさそうです。「改善しなくては」と多くの人に想起させる何らかの新語をつくるべきだったように思います。
言葉の持つ語感やわかりやすさなどによって、人々の意識や行動までも大きく左右されることがあるのです。
なお、提起はされても浸透しないケースもあります。
たとえば一時期ネットでは「暴走族」という言葉を「珍走団」に変えるべきという主張がなされました。そうしたカッコ悪いネーミングにすれば、暴走族は減るだろうという発想です。
個人的には面白いアイデアだと思いましたが、そこまでせずともすでに暴走族は減っていましたし、警察の対策などが奏功し、暴走族はほぼ消えてしまいました。
ただ、もし暴走族の問題がもっと深刻だった1980年代頃に警察がこの名前を提案していたら、一定の効果は上がったかもしれません。
さて、新語が定着するにはいくつかの条件があるとされます。
1つはわかりやすさ、覚えやすさです。いまや普通の言葉となった「アラフォー」は、元はドラマから生まれた言葉ですが、その覚えやすさや露出の多さから一気に定着しました。
共感されるか否かも大切です。たとえば「卒婚」という新語もすでに定着しました。これは夫婦関係にあまり縛られることなく自分自身の生活を謳歌したいという人が増えた世相に合ったからともいえます。
多少判断は難しくなりますが、カッコいいという点も大切です。特に流行に敏感な若者は、そうした新語に拒否感を示すことが少なくありません。
意図をもって新しい言葉をつくるのであれば、こうした点への配慮が必要です。
■設定
あなたはあるメーカーの製造責任者。最近不良品率が増したり、納期遅れが発生していることに危機感を抱いています。社長と相談のうえ、製造部門だけではなく、部署間横断でこうした問題を解決する社内イニシアチブを立ち上げたいと考えています。社員に身近に感じてもらうためにも、「QCD改善プロジェクト」(QCDはQuality〈品質〉、Cost〈コスト〉、Delivery〈納期・数量〉のこと)のような直接的な名前とするのではなく、ネーミングに少し拘りたいと考えています。どのような候補が考えられるでしょうか。
■回答例・解説
まずはありきたりな例です。
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アルファプロジェクト
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アルファは英語ではAですから、それなりの意味は確かにありますが、もう一工夫してみたいところです。以下に語感や覚えやすさ、共感を意識して、候補を4つ挙げてみました。
OK例
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・納豆プロジェクト:「粘り強く」という意味合いと、互いにつながりながら、という意味合いを込めている。また、健康的な食材であり、好ましい効果をもたらす意味も込めている
・プロジェクト「か・い・ぜ・ん」:改善を目指しつつも、「改善」ではインパクトが弱いため、日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」を参考に、あえて「か・い・ぜ・ん」とした。「改全」や「改前」、「快全」といった意味合いも含むと説明する
・プロジェクトZ:かつてのNHKの人気番組「プロジェクトX」をオマージュ。ZにはZenith(頂点)、Zest(熱意)、Zodiac(星座、転じて運命)、そしてアルファベットの最後の文字、すなわち最終地点などの意味があると説明する
・TOP計画:語呂合わせの手法を用い、Transformation(変革)、Operational excellence(卓越したオペレーション)、Performance(パフォーマンス)の頭文字が「トップ」となるようにした。TとOとPのそれぞれの文字には、他にもTeamworkやTrust、OpenやOrganized、ProfessionalやProfitableの意味もあると説明する。もちろん、業界でトップになるという意味合いも込めている
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これらも十分に議論のたたき台にはなるでしょう。社内運動のネーミングですから、従業員の記憶に残す工夫が大切です。
■設定
あなたはある新興メディア企業の社員。新しいテクノロジー時代を生き抜いていける人材を表すような新語をつくり、流行らせたいと考えています。どのような案があるでしょうか。まずは5つほど候補を考えたいと思います。
■回答例・解説
以下に候補を5つ挙げてみました。カッコいい、使ってみたくなるという点を意識しています。
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・テックスマート:テクノロジーと、ITでよく用いられるスマート(賢いという意味もある)を組み合わせた
・テック・サーファー:テクノロジー時代をサーファーのように乗り越えていくイメージを強調
・テクオニア:テクノロジーとパイオニアを組み合わせた
・デジタレント:デジタルとタレント(才能・人材)を組み合わせた
・TIK(ティック:Techno-Innovation Kids):テクノロジー時代にイノベーションを起こす創造的若手人材のイメージ。あえてローマ字表記とその読み方を提示。有名なSNSであるTikTokの印象も借用している
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これらが最善とはいえない部分もありますが、議論のきっかけにはなるでしょう。
ちなみに、まったく新しい新語をつくるのは通常は難しいので、すでにある言葉を組み合わせることはやはり有効です。先述の「インスタグラム」は「インスタント」と「テレグラム(電報)」を組み合わせたものですし、「ガラケー」は「ガラパゴス」と「ケータイ」を組み合わせたものです。
■コツ・注意点
新語はやはり実態と近いものであることが望ましいといえます。演習問題1で「TOP 計画」という案を示しましたが、この会社のレベルが低すぎて業界トップになるのが非現実的な場合、この言葉は単なる語呂合わせにとどまり、従業員に「やらなくてはならない」という意識を十分に醸成できないかもしれません。
また、新語/造語を過度に用いすぎると顧客や従業員の混乱を招くことがあります。どのようなタイミングやシチュエーションで新語/造語を使うと効果的かを、まずは意識することも大切です。そのうえで必要性に応じ、その言葉が定着するような働きかけを行うことが求められます。
【グロービス】
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更新:08月16日 00:05