2012年12月03日 公開
2022年08月24日 更新
このように自分の仕事なら、自分自身の工夫で先延ばしを防ぐことが可能だ。しかし、より問題なのは部下の先延ばしをどう防ぐか。
部下の仕事のスケジュールをコントロールするのはマネジメントの基本だが、それが徹底できているかと問われれば、うつむいてしまう上司も少なくないのではないか。
「部下が仕事を先延ばしする最大の理由は、その仕事に取り組むことに納得ができていないからです。先ほど、意味を見出せない仕事を先延ばしにしてしまいがちだった私自身の経験をお話ししましたが、それは部下にしても同じです。
上司から指示があってもそれが『腹落ち』しなければ、『こんなレポートはいらないのでは?』と思ってやる気を失い、期限まで放置する場合も出てきます。
叱って強制的にやらせることも場合によっては必要でしょうが、それを繰り返すばかりでは、どんな仕事でも部下が自分なりの意義を見出せるようにはなりません。
ですから、部下が自分なりの意義を見出せるようになるために、その仕事が発生した理由や背景を説明してあげてください。なぜこの仕事が自分たちのチームにきたのか。上層部はどのように考えているのか。
その仕事を成功させることでどのような影響があるのかなど、やり方よりも『納得』をつくることに注力するのです。それによって部下がその仕事の意味をきちんと理解できれば、自ずと先延ばしも減っていくでしょう。
また、部下が納得して仕事を進められるようにするには、仕事を指示する場合だけでなくふだんから積極的に情報を開示することが有効です。
たとえば、管理職だけが出席する会議で出た情報でも、『このあいだの会議でこんな話が出たから、今度うちのチームの営業目標が上方修正されるかもしれない』などと、差し障りのない範囲で伝えておきます。
こうして積極的に情報を共有しておけば、目標の上方修正が現実のものとなり、部下に仕事を指示した場合にも『なぜ突然、こんな仕事をしなきゃいけないんだ?』という反応がなくなります。
『あ、あのときの話のことだな。たいへんだけれど、聞いていた状況ではやむを得ないな』と部下が納得して動いてくれれば、アウトプットの質も高まるのです」
とはいえ、部下が納得して取りかかった仕事でもうまくいくとはかぎらない。
不都合が生じているのに、それを上司に報告や相談するのを先延ばしにしてしまい、上司が気づいたときにはたいへんな状況になっていた、というケースも聞かない話ではない。そうした事態を未然に防ぐためにも、田島氏が心がけていたことがあるという。
上司自身は忘れてしまいがちなのですが、部下の立場からすると、上司に話しかけるのはなかなか勇気の要ることなのです。とくに悪い報告をしなくてはならない場合はなおさらでしょう。
ですから上司は、できるかぎり部下が話しかけやすい態勢でいなくてはなりません。『俺はいま忙しいから、話しかけるな』というオーラを出すことは絶対にやってはいけません。
いくら忙しいからといって、上司が部下とのコミュニケーションを拒絶するような雰囲気を醸し出していたら、部下は『いまは忙しそうだし機嫌が悪そうだから、報告は明日にしておこう』と、重要な報告であっても先延ばしにしてしまいます。
あるいは、相談事があったのにそれを省いて、独断でやってしまうかもしれません。これでは、その部下にとっても上司にとってもマイナスです。余計な仕事があとで増える結果にならないともかぎりません。
上司にとって、部下が話しかけやすい雰囲気をつくることも、重要な仕事の1つだと心得るべきです。それには自分のほうから、『あの件、どうかな?』と積極的に声をかけることが大切です。
そんな何気ない声かけから『じつはちょっと困ったことが……』と相談につながることも決して珍しくありません。これが大きなトラブルの芽を事前に摘むことにつながるのです。
しかし、目の前の仕事に集中しなくてはならず、部下が相談にきてもその場では応じられないこともあると思います。
そんな場合は、『ごめん、いまは手が離せないけれど、1時間後でいいかな?』と改めて相談の時間を設定しましょう。こうして部下とのコミュニケーションに対する意識を高めることが、部下の仕事の先延ばしを防ぎ、ひいてはチームや会社全体の仕事をスムーズにしていくことにつながると思います」
【田島弓子(たじま・ゆみこ/ブラマンテ〔株〕代表取締役】
1967年生まれ。成蹊大学卒業後、IT業界専門の展示会主催会社を経て、1999年、マイクロソフト日本法人に転職。Windowsの営業およびマーケティングに従事し、営業部長に就任。在職中、プレジデントアワードを2回受賞。2007年、ブラマンテ〔株〕を設立し、キャリアとコミュニケーションの支援事業を展開している。
著書に、『ワークライフ“アンバランス”の仕事力』(デイスカヴァー・トゥ工ンティワン)、『プレイングマネジャーの教科書』『女子社員マネジメントの教科書』(ともに、ダイヤモンド社)などがある。
更新:11月25日 00:05