
「言いたいことを言葉にする」のは容易ではありません。多くのリーダーが以下のような課題を抱えています。
・指示があいまい:わかりづらいから人が思ったように動かない
・考えがまとまらない:要領を得ないから相手に伝わらない
・話の内容がフワっとしている:説得力がないから相手に刺さらない
このような課題を解決するために、数々のビジネスリーダーを育成してきたグロービスが「言いたいことを、瞬時に伝わる言葉に変換する25のトレーニング」を紹介します。本稿は「言葉で気遣いを示し、共感する」レッスンです。
※本稿は、グロービス,嶋田毅著『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです

よほど特殊な職業を除き、仕事は一人で行うものではありません。普通のビジネスパーソンであれば、普段から同僚と一緒に仕事をしたり、顧客とコミュニケーションする機会も多いでしょう。
そうした時に必要となるのが、ちょっとした気遣いや配慮です。気遣いや配慮を示すことによって、彼らとの良好な関係を築き、信頼を維持することが可能となります。
気遣いや配慮を示すことは、チームワークを強化し、職場の効率性と生産性を高めることにもつながります。
「最近どう?」といった声掛けや、「頑張ったじゃない」といったちょっとした褒め言葉も非常に効果的です。お互いを配慮しあえる環境において、人々はより積極的に組織に貢献しようと考えるようになります。
また、心理的な安全性が高まることなどから、創造的なアイデアの考案などにもつながります。
気遣いを示す典型的なプロセスは図3─1に示したようになります。
最初の「相手の立場を理解する」では立場や感情を理解するために丁寧にコミュニケーションをします。その段階で「なるほどそうだよね」といった共感を示しておくと、最後のコミュニケーションもより効果的になります。
2つ目のプロセスの「自分のできることを考える」は、相手の立場に立って、「こんなふうに言われたり、何かをされたら嬉しいのではないか」ということを考えます。独りよがりになるのではなく、先のプロセスを通じて知った相手の立場や感情をベースに考えます。
ポイントは3つ目の工夫でしょう。これにはさまざまな方法があります。具体的には前段のプロセスを踏まえたうえで、以下のようなやり方をとると効果的です。
・ポジティブな言葉を選ぶ
・自分の経験を語ったり、人となりを際立たせる
・感謝の気持ちを伝える
・励ましの言葉を選ぶ
・安心感を与える
本レッスンでは、ものの見方を変え、ポジティブな言葉とする例を紹介します。
ありきたりな表現ではなく、少し違うものの見方を提示することで、相手に対する気遣いや配慮を際立たせるのです。
■設定
あなたはある企業に勤める課長。後輩のAさんが取り組んでいた新規事業がなかなか軌道に乗らず、2年で撤退となってしまいました。
ただ、それはAさんのやり方が悪かったというわけではなく、市場環境による部分が大でした。彼女を励ます言葉を掛けたいと考えています。
ただし、Aさんはエネルギーをつぎ込んで取り組んだプロジェクトだっただけに、精神的にはかなりダメージを受けています。
■回答例・解説
以下は極めて普通の声掛けです。
[NG例]
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外部環境が悪かったんだから、Aさんが悪かったわけではないよ。ドンマイ、ドンマイ。これからも頑張ろう!
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声掛けすることは悪くないのですが、ややお茶を濁してしまっている感があります。もちろん外部環境のことに触れることも悪くはありませんが、ここでは今回の失敗を糧に、さらに奮起を促すような声掛けを考えてみましょう。もちろん、相手も落ち込んでいるので、そこに対する配慮は必要です。
[OK例]
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Aさん、今回のプロジェクトは残念だったね。Aさんにはコントロールできない競合なんかの要因もあったからあまり落ち込みすぎることはないよ。
重要なのは、今回の失敗から何を学ぶかだと思うよ。失敗は、必ずしも悪いことではない。何か難しいことにチャレンジしたからこそ、失敗したということだからね。
私は、何もチャレンジせずに失敗しない人よりも、努力したけど運に恵まれなかった失敗をした人のほうが、価値があると思うよ。
エジソンだって、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」と言っているよね。大事なのはポジティブ・シンキング。そこから何を学んで次に活かすかをしっかり考えよう。
あと、こういう時こそ精神的な強さが伸びると思うよ。それは、将来的にさらに難しいことに挑戦した時に必要なタフネスにもつながるはずだ。
Aさんくらいの実力があれば、これからもいろんなチャンスが与えられるはずだ。それに向けての勉強と割り切って、前向きにやっていこう。これからも応援するよ。
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ここでは失敗をネガティブなものと捉えるのではなく、成長のバネと捉えて配慮を示しています。エジソンの有名な言葉などを引用して説得力を持たせている点にも工夫があります。
何より、最後にAさんには実力があることを明確に伝えている点も好ましいといえるでしょう。失敗した際に人間は後ろ向きになりがちです。Aさんに前向きになってもらうための、励ましや安心感を意識した声掛けです。
■設定
あなたは50歳のビジネスパーソン。最近、甥の太郎君が本命の大学受験に失敗し、浪人することになりました。あなた自身も浪人の経験があることから、姉から「太郎に励ましの言葉をかけてほしい」と請われました。太郎君は、とにかく落ち込んでいます。同級生が大学生になったのに、自分は浪人したことに焦っているそうです。
■回答例・解説
以下の声掛けはどうでしょうか。
[NG例]
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クヨクヨするなよ。叔父さんだって浪人したことがあるから太郎君の悔しさはわかるつもりだ。ただ、1年の浪人なんて、叔父さんくらいの年齢になれば大した差じゃないよ。あせらず、くさらずやっていれば、必ず神様は見てくれているものさ。
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決して悪い訳ではないですが、ここではさらに親身にアドバイスしてみましょう。ポジティブに考えることに加え、先の注意点に示した、「自分の経験を語ったり、人となりを際立たせる」をより意識してみましょう。浪人経験のある叔父にしかできないアドバイスというものはあるものです。
[OK例]
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太郎君、今年は残念だったな。太郎君が頑張っていることは姉さんからも聞いていたから、本当についていなかったな。叔父さんも昔受験に失敗して浪人したから、太郎君の悔しさもわかっているつもりだ。
ただ、こればかりは運もあることだから、くよくよしすぎるなよな。
浪人生活に不安もあるかもしれないけれど、悪いことばかりじゃないぞ。浪人すると友達が増えるということもある。ストレートで進学するよりも、1学年下の人間とも友達になれるのは実は貴重なことなんだ。
叔父さんの若い頃には「友達1人の価値は100万円」といわれたものだ。友達が増える機会と考えれば、浪人も悪くないぞ。
あと、叔父さんの経験からすると、人生、回り道も悪くないものだ。50歳になってしまえば、若い頃の1年なんて大した差じゃない。
むしろ、他の人間ができなかった経験を積むことで、いろいろなものの見方ができる。その価値のほうが大きいということもあるんだ。
今は気を落としているかもしれないけれど、しっかり前向きに取り組めば、将来、「あの苦労があったからこそ今の自分がある」と思える日が来るものさ。
何か悩んだら遠慮せずに叔父さんに相談してくれ。応援しているからな。
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演習問題1と重なる部分もありますが、この事例では、大学受験の失敗という、通常はネガティブなことを、実は人生にとって意味があることだと、ものの見方を変えることで甥を励ましています。
本人に受験失敗、浪人の経験があることも、説得力を増しているといえるでしょう。
■コツ・注意点
物事の見方を変えるやり方の中でも、視点を変えてネガティブなものをポジティブに捉える方法は、相手に対する気遣いを示す際以外にも使える効果的な方法です。
これを行うには、日ごろからネガティブな事柄をポジティブに捉えられないか考える習慣を持っておくといいでしょう。
たとえば、職を失うことはつらいことですが、見方を変えると、新たなキャリアを追求する機会が生まれたとみなすこともできます。
また、自分の本当にやりたいことを見つけるきっかけにもなります。ネガティブな思考に陥りそうな時に、こうした日頃の習慣が活きてくるのです。
【グロービス】
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更新:06月20日 00:05