2025年04月17日 公開
仕事の進捗や職場の人間関係など、ビジネスパーソンは多くの悩みを抱えているもの。自分の時間であるはずの休日にもこれらの悩みが頭をもたげ、気が休まらないまま平日を迎えてしまう......という人も多いのではないか。休むことへの罪悪感を解消する方法について、心理カウンセラーのるろうに氏に話を聞いた。(取材・構成:高橋京子)
※本稿は、『THE21』2025年3月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
休日になっても仕事のことが頭から離れない......。そんなあなたはきっと真面目で仕事熱心、そして会社や周囲への貢献意識が強いのでしょう。その姿勢は素晴らしく、同僚や部下、上司など、多くの人があなたの存在に感謝しているはずです。
しかし、しっかりと休息を取らずに働き続けると、心身のバランスを崩し、結果的に仕事のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。きちんと休むことは、長期的に見て、より良い仕事をするための土台となる重要な要素です。
ところが、特に近年は、リモートワークの普及により、いつでもどこでも仕事が「できてしまう」環境が一般化しました。仕事と物理的に距離を置きにくい現代では、仕事を意識せず休日を過ごすための工夫が求められます。
まず重要なのは、「休む」と自分で明確に決めることです。家に帰ったら仕事のことを考えないと「決める」のです。そのためには、自分なりの切り替えルールを作るのがお勧めです。例えば、私は仕事から帰宅して、玄関の鍵を閉めた瞬間から仕事を忘れ、家でのプライベートな時間を楽しむようにしています。
同様に、休日も仕事をしないと決めるのが重要です。そもそも、休日に仕事をしてしまう人の多くは、頭のどこかで「いざとなれば、 休日にどうにかすれば間に合う」という前提で、 平日の仕事を進めている傾向があるのではないでしょうか。
「絶対に平日で終わらせる」と決めれば、自然と仕事の優先順位を見直すようになります。「これは本当に必要な仕事か?」と精査したり、無駄な作業を省いたりする工夫が生まれます。こうした取り組みを習慣化することで、休日を純粋に休息の時間として過ごせるようになるのです。
休日や帰宅後に仕事をしないと決めたら、その意志を周りに宣言することも大切です。休日にもメールが多く送られてくるのは、あなたがこれまで休日に届いたメールに返事をしていたため、周囲の人たちに「あの人は休日も対応してくれる人だ」と認識されているせいかもしれません。
このサイクルを断ち切るためにも、自分の方針をはっきりと伝えることが必要です。例えば、「休日は家族との時間を大切にしたいので、仕事のメールを読まないようにしています。週明けまでに確認・返信が必要なことがあれば、金曜日の午前中までに教えてください」と伝えるのも、1つの方法です。
どうすれば仕事のことを引きずらず、休日を心穏やかに過ごすことができるのでしょうか? まず、日本のビジネスパーソンが休息を満喫できない理由として、「休むことへの罪悪感」や「仕事をしていないことへの焦燥感」が挙げられます。
例えば、職場全体に休日も対応することが当然とされる雰囲気があると、「休日出勤を断るのが難しい」と感じるかもしれません。あるいは、仕事を断ったあとに罪悪感を抱いたり、「断ったことで評価が下がったのではないか」と不安になったりすることもあるでしょう。
こうした不安を放置すると、せっかく休んでも心までリフレッシュできません。これらの感情を解消するためには、どのような行動やマインドセットが必要なのでしょうか?
ポイントは、「アサーティブなコミュニケーションを心がける」ことです。これは、お互いを尊重しながら意見を交わし、自分の意見や要望を伝える方法です。
例えば、休日での対応を頼まれたときに、「現在こういう状況で、休日にすべて引き受けるのは難しいですが、この部分であれば金曜までに対応できます」といったかたちで伝えます。ただ単に「できません」と断るよりも、具体的に理由を説明したり、代替案を提示したりすることで相手も納得しやすくなりますし、自分自身も「できる限りの対応をした」と感じられるため、罪悪感が減るはずです。
もちろん、どれだけ丁寧にアサーティブな伝え方をしても、不満を持つ人が出てくる可能性はゼロではありません。しかし、私たちができるのは、相手の尊厳を傷つけないように誠実に断るところまでです。その後、相手がどう受け取るかは相手側の問題であり、自分がコントロールできる範囲ではありません。
同僚が当然のように休日も働いているような職場なら、仕事を断らなくても、休むことそれ自体に罪悪感が生じてしまうかもしれません。
ですが、よく考えてみてください。そもそも、どれだけ仕事をしたら疲れるかは人によって異なります。体力は人それぞれであり、他人と自分を比べることにどれほどの意味があるのでしょうか。自分が今の仕事で「ヘトヘトに疲れている」と感じるなら、それは紛れもない事実です。その現実から目を背けず、受け入れて休むことが重要です。
他の人が疲れていないように見えるからといって、自分も休まないという選択をする必要はありません。自分の疲れを認識し、それに応じて適切に休むこと。そのほうが仕事のパフォーマンスも上がります。
自分が休むことで、周囲から反感を買うのでは、と心配になってしまう人も多いでしょう。
そんなときは、「誰からも悪口や陰口を言われない人はいない」と受け入れるようにしましょう。周りの目を気にしすぎてしまう人にこそ、お伝えしたい考え方です。全員に好かれることは不可能であり、むしろその考えに囚われることが自分自身を苦しめてしまいます。無理して他人の期待に応えようとすると、心を疲弊させてしまうことにもつながります。
「2:6:2の法則」をご存じでしょうか? これは、周囲に10人の人がいるとき、2人は自分のことが好きで6人は好きでも嫌いでもない、残りの2人からは嫌われる......という人間関係の傾向です。誰かから嫌われてしまうことは仕方ないと割り切って、自分を好きでいてくれる人に感謝する。そういった考え方でいたほうが、心が楽になると思います。
「個人が幸せになるために集団がある」と考えてみることも重要です。会社と自分の関係をどう捉えるかは人それぞれですが、私は「集団のために個人がいる」という考え方は共感できません。それよりも、「個人が幸せになるために集団がある」と考えるほうが健全だと思います。
会社のために個人を犠牲にしたり、「みんなが頑張っているから自分だけ休むのは申し訳ない」と罪悪感を抱くことは、他人軸に囚われた考え方ではないでしょうか。
大切なのは、会社のために自分が存在しているのではなく、自分の人生のために会社で働いているという視点を持つことです。手段である「仕事」と目的である「自分の人生」を混同せず、冷静に切り分けて考えたほうがいいと思います。
そもそも、あなたは何のために仕事をしているのでしょうか? 日々忙しさに追われ、その問いを振り返る余裕すらないというのが、多くのビジネスパーソンの現状かもしれません。誰かの役に立ちたい、何かを実現したいなど、目的は様々でしょう。しかし、突き詰めて考えれば、「幸せになるために仕事をしている」という点は共通しているのではないでしょうか。
私は、多くの人のカウンセリングをする中で、その目的を見失ってしまっている人が多いと感じています。家族と笑い合いながら生きていくために働いているはずなのに、実際には残業に追われ、プライベートの時間を削り、休日も仕事漬けになっている。これは、手段と目的がすり替わってしまっている状態です。
更新:04月20日 00:05