2012年10月29日 公開
2022年10月13日 更新
それでは、どんな状況でも冷静に物事に対応するにはどうすればいいのだろうか。ここがいちばん聞きたい部分でもある。これに対して猪瀬氏は、「パニックに陥らないように、つねに自分の状況をコントロールしておくことが大事」だという。
「冷静さを失う大きな要因は、焦りです。焦ればパニックに陥るし、そうなったら最後、冷静さを取り戻すことは非常に難しくなります。
若いころ、原稿の締め切りに遅れそうになり、あせって集中力を欠くという悪循環に陥ったことがありました。一度締め切りに遅れてしまうと、それが次の原稿の締め切りにも悪影響を及ぼし、まるで雪崩のように段取りが崩れてパニックに陥るのです。
2度とこんな経験はしたくないと思って、それ以降は、前倒しで仕事に取りかかるようにしています。前倒しで進めることで、心に余裕をもって仕事に取り組むことができる。だから、週刊誌の連載の原稿は1度も遅れたことがありませんでした。
大事なことは、誰かに文句をいわれるからやるとか、締め切りに追われているからやるのではなく、自分が主導権を握り、自分で決めて物事に取り組むことです。
そのようにして、やるべきことや決めるべきことの1つひとつに決着をつけて、自分の状況をコントロールしておくことが、心を冷静に保つための秘訣でしょうね」
そして、もう1つ大事なのが、目標やゴールに向かう集中力だという。
「集中力を研ぎ澄ますことで、不安や迷いといった雑念をふり払い、目の前の事態に向き合いやすくなります。たとえば震災時に想定外の事態に直面すると、既存のルールでは対応できないことばかりなので、何を基準に行動すべきか迷いが生じます。
そこで私が心したのは、危機対応でもっとも大事である人命と、人びとの安全を見極め、そこに意識を集中させること。そうすることで1つひとつの物事に優先順位をつけ、走りながら決断し、対応していったのです。
普段の仕事においても、納期までに仕事を終わらせたり、期日までに物事を決めたりするには集中力が必要です。徹夜してでも、『今晩中にやっておかないとマズイ』という状況もあるでしょう。何事も結果がすべて。それに向けて集中すれば、おのずと心の乱れは消えていく気がします」
未曾有の自然災害を経験したいま、日本は戦後社会から「災後社会」という新たな時代に入ったと猪瀬氏は指摘する。つまり、これまでの「想定外」が許された社会から、起こり得るリスクを「想定」する社会への転換を意味する。
それは同時に、国民1人ひとりが共に助け合いながら、自分でできることをやっていかなければならない「自己責任の時代」でもあるという。これからの災後社会を生きる読者世代に、猪瀬氏は何を思うのだろうか。
「自分たちは何者なのか、いま一度ふり返ってみるとよいと思います。自分が何者かを知ることこそ、己のよりどころとなるからです。それには歴史の知識が役立ちます。
過去から現在まで続く時代の流れのなかで、自分たちはどこに位置しているのか、歴史軸にピン留めすることで自分たちのことをより理解することができるからです。
しかし、昨今の教育では歴史をあまり教えてこなかったこともあり、若い世代は歴史知識に乏しい傾向にあります。いまのように尖閣諸島の問題などが起きていても、歴史的背景を知らなければ、それに対する意見ももち得ないでしょう。これからの世の中を強く生きるには、自国の歴史を知り、己のよりどころとすることも必要なことだと思います」
〔1〕集中力を研ぎ澄ます
何事にもまずは集中することで、不安や迷いといった雑念をふり払い、自分のやるべきことに向き合いやすくなる。これまでに経験したことのない事態に直面すると、既存のルールでは対応できないことも出てくるが、何を基準に行動すべきか集中して基準を定めよう。
〔2〕自分の能力を知り、目標管理をする
論理的に、目標を達成するまでにやるべきことと、かかる期間を計算し、それを実践する。これは緊急時においても同じで、考えるスパンが短くなるだけだという。つまり、日ごろから冷静に目標管理ができているか否かで、緊急時の対応にも差が出る。
〔3〕歴史を知り、よりどころとする
歴史のなかのどのような時代に生きているのかを知ることは、自分のよりどころとなる。それを知らないのは、立ち位置を見極められないということ。
「近年の日本人のメンタルが弱くなったとすれば、歴史をあまり教えなくなったせいではないか」(猪瀬氏)
更新:11月27日 00:05