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スピーチトレーナーが教える「聞き手の感情を動かすスピーチ」の作り方

2025年04月02日 公開

小倉琳([株]カエカ スピーチトレーナー)

スピーチのコツ

伝えたいメッセージは同じでも、その言葉選びで大きな差が出る。チームを束ねるリーダーは、部下の行動を力強く後押しするためにも、様々なスピーチの技法を身につけておきたいものだ。これまでに5000人以上に話し方トレーニングを提供してきたカエカのスピーチトレーナー・小倉氏に、今すぐ実行でき、効果抜群のスピーチ術を伝授してもらった。(取材・構成:坂田博史)

※本稿は、『THE21』2025年4月号特集[できるリーダーは必ずやっている「言語化」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「聞き手ありき」でコアメッセージを決める

こんなスピーチしてませんか?

「チームメンバーの心に火をつけるスピーチがしたい」

こう考えるリーダーは多いと思います。そのために大切なことを、これからお伝えしたいと思います。

まず、スピーチは大きく「内容」と「話し方」の2つに分けられます。内容とは、コアメッセージや話の構成、要素、言葉などで、話し方は、声やスピード、ジェスチャーなどです。共に重要ですが、自分はどちらに苦手意識があるのか、あるいは改善したいのか、先に自分の課題を考えてみてください。その自己認識があるほうが、これからの解説で発見するものが多くなるからです。

スピーチの内容について考える際、大前提になるのが、「聞き手ありき」ということ。自分の好き嫌いや得意・不得意で話の内容を考える人が多いのですが、聞き手がどういう人たちなのか、何を聞きたいと思っているのか、「対象者分析」がまずは大事です。

私たちプロのスピーチトレーナーが、話し手のためにスピーチ原稿を作成する際には、話を聞く人たちにどのような感情になってもらいたいか、どういった行動を起こしてもらいたいか、話し手の目的をじっくり聞きます。

そのうえで、聞き手が現在はどういう感情なのか、どういう行動をしているのかを聞き、どういう場面を見てそう判断したのかも確認します。

「聞き手の感情がよくわからない」ということであれば、聞き手になる人たちにもヒアリングを行ない、できるだけ具体的に聞き手の現在の状況を理解します。ここまで徹底して行なうのは、聞き手の感情を知らなければ、感情を動かすスピーチを考えることはできないからです。

リーダーの熱い想いや伝えたい考えなどはとても大事なものですが、独りよがりになってしまっては、せっかくの想いや考えも伝わりません。メンバーにとってわかりやすい言葉やエピソードなどを選ぶためにも、聞き手の現在の感情や行動などを理解しておくことが不可欠なのです。

それらを理解したうえでコアメッセージを決めます。このスピーチを聞いた人たちに必ず持ち帰ってほしいメッセージ。それがコアメッセージです。コアメッセージは一文で、できるだけ文字数が少ないほうが聞き手の心に残ります。

 

印象を強める「ストーリー」信頼を高める「ファクト」

コアメッセージが決まったら、それを強く印象づけるための要素を考えます。要素には、「ストーリー」と「ファクト」の2つがあります。

ストーリーは、自身の経験や体験、感情などで、ファクトは統計データや調査結果などです。ストーリーがあることで話がわかりやすくなり、聞き手はイメージしやすくなります。ただし、個人的なストーリーだけでは信頼性という点では弱い。

逆に、ファクトは話の信頼性を高めてくれますが、そればかりだと数字の羅列になってしまい、目的や想いなどが伝わりません。聞き手の状態や伝えたいコアメッセージによって、ストーリーとファクトを上手く組み合わせることが大事です。

例えば、半年に一度しか接点がない人たちへのスピーチは、つい当たり障りのない抽象的な内容になりがちです。そこを、自分が日頃何を大切にしているのか、どういう体験から今日伝えたいことを話すのかなど、話し手ならではのストーリーを盛り込むと印象的なスピーチになります。

ストーリーの中でも、聞き手の感情を動かすのに有効なのが、「自己開示」です。自分の弱みや失敗談など、あまり話したくないことをあえて話してみるのです。近年のリーダー研究では、メンバーの共感や信頼を得るために、時には弱さを見せることがリーダーには必要だとされています。

自己開示で自分の弱みや失敗談を話すときの注意点は、その話でスピーチを終わらせないこと。暗い雰囲気のまま話が終わってしまうと、印象には残ったとしても、聞き手の次の行動につながりません。自己開示を使うときには、必ずポジティブな話で終わるような構成にしましょう。具体的には次のようになります。

「今日、皆さんにお伝えしたいことは○○です(コアメッセージ)。今でこそ、話をする立場になっていますが、仕事を始めた当初は失敗の連続で、△△という大失敗をしたときなどは本当に落ち込みました」

このように自分の心情を話すことで聞き手の気持ちが動きます。「非常に悔しい思いをしました」「自分はいったい何をやっているんだと自暴自棄になりかけました」など、体験したことだけでなく、感情や心情を入れることで、聞き手は「ああ、同じように思ったことがある」というように共感しやすくなります。

そして、そこからどのように意識や行動を変えたのかを話し、最後にまとめ直してポジティブな語りかけで話を締めくくります。

「ですから、○○が大事なのです。皆さんも○○を強く意識して、これからは行動してみてください」

 

話す内容は「足し算」ではなく「引き算」で考える

効果的な冒頭のつかみ

スピーチの内容を考えるときに、あれもこれも入れ込みたくなることがあります。話したいこと、伝えたいことがたくさんあることは決して悪いことではありません。

ただ、あれもこれもと話しても、残念ながら聞き手のメンバーに全部伝わることはありません。5つ話をしたとしても、伝わるのは1つか、2つでしょう。

ですからスピーチの内容は、あれもこれもと「足し算」で考えるのではなく、どちらのほうが大事か、優先順位が高い話はどれか、「引き算」で考えるようにします。たくさんある話したいこと、伝えたいことの中から、今、最も優先順位が高いこと、絶対に伝えたいことだけを引き算で残すのです。

どうしても5つのことを話さなければならないときには、その中で最も大事なこと1つをコアメッセージとして伝え、残りの4つは話の粒を小さくして伝えます。

聞き手にも優先順位がわかるスピーチにしないと、5つのうち、あるメンバーはAの話が大事だと理解し、別のメンバーはBの話が一番大切なことだと理解するといった齟齬が生じます。

この齟齬が原因で、チーム内の意思疎通が取れなくなる、認識が一致しなくなるなどの弊害が起きてしまうこともあります。それを避けるためにも、いくつかの話をするスピーチであっても、コアメッセージは1つに絞り、聞き手による理解の齟齬が生まれないようにしましょう。

スピーチにおいて、「冒頭のつかみ」と「最後の締め」が大切であることは言うまでもありません。

例えば、冒頭にコアメッセージを伝えたあと、聞き手に向かって問いかけや呼びかけなどをすると、聞き手がそのことについて考えるので、話に引き込まれやすくなります。

あるいは、「今年の1月、私はこのように思っていました」などと唐突に自分の経験談から始めると、「いったい何の話が始まったのか」と思い、話を集中して聞いてくれます。

一方的な情報提供にならないように、相手の反応を引き出す、考えさせる工夫を冒頭に入れるのはお勧めです。10分を超えるスピーチでは中だるみしがちなので、中盤にこうした工夫を入れてもよいでしょう。

スピーチの最後は、コアメッセージを念押しすると共に、ポジティブな言葉、行動への呼びかけなどで締めます。

スピーチの幅を広げるためにも、時には、やったことのない話の仕掛けづくりに挑戦してみてはいかがでしょうか。

相手を行動に促す締めの言葉の例

 

著者紹介

小倉琳(おぐら・りん)

(株)カエカ スピーチトレーナー

2020年、(株)カエカ入社。スティーブ・ジョブズに魅せられたことをきっかけに、人を熱狂させるプレゼンテーションのメカニズムに関心を持つ。これまでにTED Talksを含むプレゼンテーション動画を延べ1,000件以上視聴・分析し、聴衆を巻き込む言葉を日々模索。プレゼンテーション、スピーチの豊富な知見を活かして、政治家、経営者、学生など幅広く話し方トレーニングを提供。株式会社カエカ(https://kaeka.jp/?utm_source=php&utm_medium=referral&utm_campaign=leaderspeech)

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