2025年03月03日 公開
2025年03月10日 更新

お笑い芸人・寺田寛明さんによる「大喜利入門講座」。今回は、「引き戻す」「盛る」 「省略する」という3つの大喜利テクニックについて解説します。
※本稿は、『THE21』2024年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
大喜利の回答をつくるうえで、画期的な発想は必ずしも必要ではありません。
大切なのは、ベタな発想でも、そこから手を加えて面白いと思わせる回答に仕上げていくことです。私はこの工程を「ボケを拾う」と呼んでいます。
ボケを拾うためにはパターンや技法を多く知っている必要があります。裏を返せば、パターンを身につけておけば、方程式を用いて数式を解くように、どんなお題にもある程度応用できます。
第一回目では「逆にする」「極端にする」などを紹介しましたが、今回は応用編として、ほかのパターンも紹介していきたいと思います。

ファンタジーや歴史など、日常とかけ離れた要素がお題として用いられている場合に有効な手法です。日常とかけ離れているからこそ、そこに現実的な要素をうまく組み合わせてあげれば、それだけでギャップを演出することができます。
例えば「ペガサスに乗ってみてガッカリした理由」というお題があったとします。(これはIPPONグランプリでも近いお題が出てましたね)
例えば
【回答】白いズボン履いてったらすごい汚れた
【回答】一回に飲む水の量がすごい
といった感じで、単に馬として扱うようなことを言ったりすると、ペガサスのファンタジー感が薄れる感じがします。これが初級です。
初級が「ペガサス→馬」という単純な連想だったので、中級ではもう少し飛躍させてみましょう。
お題に「ペガサスに乗って」とあるので、移動手段という点に注目してみましょう。
【回答】モニターがついててレバテックのCMが流れてた
【回答】わざと遠回りされた
お気づきかと思いますが、これらはどちらもタクシーのあるあるです。ペガサスに乗っているのにタクシーのあるあるが起こったら、それだけで一気にファンタジー感が薄れてガッカリしますね。
このように、お題と少しかけ離れた要素からあるあるを探し、回答として成立するかたちにできれば中級といえるでしょう。

お題を見て少し考えて、あまり良いボケが思い浮かばないときに有効な手法です。重ねるとは、「ボケを重ねる、言葉を重ねる」という意味です。
通常、大喜利というのは一つの回答の中にボケは一つなのですが、この手法は一つの回答に小さいボケをいくつか重ねて強い回答として成立させる、小エビのかき揚げみたいなやり口です。
「こんな寿司屋は二度と行かない」というお題があったとします。
「こんな○○は嫌だ」系のお題は、大喜利に慣れてくると、もうお題としてやり尽くされていて新しいボケを出すのが難しくなってきます。
【回答】大将が手を洗っていない
これだと弱すぎる(なんなら起こりうる)。でもこれ以上は思いつかない。そういう場合は、もう一つ付け足しましょう。
【回答】大将が手を洗っていないし、弟子も真似している
こうすると光景に少し広がりが出て、グッと大喜利っぽくなると思います。この二つ重ねる手法は、ほとんどのお題で使えます。
使い方としてはこんなのもありです。
【回答】カウンターの上に殺虫剤とUNOと化粧水と洗濯物が置いてある
物をとにかくたくさん置いてみるというやつです。「カウンターの上に殺虫剤が置いてある」だけでも嫌は嫌なのですが、数を増やしてみるだけでちょっと違った味わいが出せると思います。
パターンとしては他にも
【回答】接客が良く、価格帯も手ごろで、店の雰囲気も素敵で、常連にも一見にも分け隔てなくサービスしてくれて、子ども向けのメニューもあって家族で美味しいお寿司を楽しめるが、なんか伝票で頭を叩かれた
といった感じでボケじゃない部分を重ねるパターンもあります。
これはお笑い用語で言うところの「フリオチ」の応用です。通常は「オチ」の強さこそが笑いに直結しますし、「フリ」で与えた期待感を下回ることは避けるべきです。ですが、これでもかとフリを強く強く見せることで、あえてオチの弱さを強調して笑いを取る手法です。
どうしても文章としては長くなってしまうので、できれば最後はもっと短い言葉で落とせると、切れ味が良くなります。
ただ、これはあくまでもお題が難しかったりして回答が思いつかないときの対処法。20点の回答をどうやったら60、70点くらいに底上げできるか、という話ですが、テクニックの一つとして持っておくと便利な場面があるかもしれません。
このように、パターンを多く知っておくと、どんなお題が来てもある程度対応できるという自信になります。また、人の回答を聞くうえでも、その回答に至るまでのロジックが理解できれば、より楽しむことができます。
ここからはいよいよ、上級者向けともいえるテクニックを紹介していきます。
前提として、大喜利の回答は端的であるほうが良いです(直前のお寿司屋さんの回答は非常に長いですが、フリを長くすることでオチの端的さを相対的に強調しているので、原理は同じです)。
そのため、「文章の省略」は、回答をつくるうえでもっとも重要な点といえるでしょう。不要だと感じる言葉があったら、たとえ一文字でもどんどん削りましょう。
それをとことん突き詰めると、「必要な説明すら省略する」という段階に到達します。少し不足しているくらいの不親切な文章のほうが、伝わったときの面白さが増すものです。
例えば「生き別れた弟と感動の再会。第一声でそんなこと言うな。何を言った?」というお題に対する回答の例です。
【回答】充電器ある?
感動的なシーンなのにスマホの充電の残りを最優先で気にしている兄のデリカシーのなさが、わずか6文字で表現されています。
これ、意図だけで言ったら「充電器貸してくれない?」とか「あのさ、携帯の充電器もってない?」とか言ってもいいわけです。
でも、この回答は短い文でバシッと出したいのです。
「貸して」とか「持ってない?」を「ある?」で表現したり、「あのさ」という気遣いが出る言葉をすべて削り、必要最低限の言葉にすることで、この人物のデリカシーのなさ、やる気のなさが表現されるのです。
普通の文章だったら、丁寧な言葉を足していくのが正解です。しかし大喜利は逆の作業とも言えます。デリカシーのない人間は「あのさ」とかも使いません。
「携帯の」と頭に付ければ親切ですが、「充電器」とだけ言えば伝わるので、ここも省略します。一般的にはよくないとされる文章をつくるために、俳句のような文字の削り方をしていく必要があるのです。
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もう一つご紹介します。
お題は、「植物状態の恋人が20年ぶりに目を覚ましました。何か声をかけてあげてください」
【回答】俺もいま起きたとこ
こちらは、アマチュア大喜利プレイヤーの風呂つんくさんという方の回答です。
回答の発想法としては、「待った?」「ううんいま来たとこ」というデートあるあるに、寝起き的な要素を足したものなのですが、こちらも省略することで受け手が想像する余地を作り出しています。
本来ならば、この発言は第一声ではないはずです。「待った?」にあたる、起きた恋人の発言が必要なはずなのです。しかしそれらのやりとりは省略されています。
もしかしたらこの2人は、植物状態になる以前は「待った?」「ううんいま来たとこ」といったやりとりをよくしていたのかもしれません。
それらの細部を一切描かず、このわずか9文字のセリフだけが切り取られた結果、もはや感動的ですらある回答が生まれたのです。
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最後に、省略の極致ともいえる回答を紹介します。
お題は、「線香花火が落ちた瞬間に起きたこと」。まずお題が、なんでもありっちゃなんでもありで相当難しいです。
この難しいお題に対して、こちらもアマチュア大喜利プレイヤーの、虎猫さんという方の回答はこちらです。
【回答】先生と生徒に戻った
初めて見たときにすごく笑った記憶があるんですけど、今はもうなんで笑ってたのか思い出せなくて、ただただすごいとしか思えません。大喜利とは別ジャンルのような気もします。もはや文学の領域です。すごすぎると笑うしかないのかもしれません。
線香花火というお題の言葉をしっかり拾ったうえで、そこから連想し、夏休みの間だけの秘密の関係、禁断の恋、その切ない終わりをわずか9文字で表現しています。
この回答の素晴らしいところは、回答意図の中心である「恋愛」に関する言葉をまったく使っていないという点です。
同じ内容にするとしても、例えばどちらかのセリフを回答にして、そこで恋愛要素を匂わせてもいいはずなんです。それをあえて細部を描かないことで想像が無限に膨らませられる、余韻のある回答です。

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いかがでしたでしょうか。こういった「説明の省略」を使いこなせるようになれば、立派な大喜利上級者です。
しかし、そう言われてもすぐに実践できるものではないと思います。実際に回答を見ただけでも、すぐにピンと来なかった、という方もいると思います。
こういった回答の意図に気づいたり、扱ったりできるようになるには、「ボケを拾う」能力を鍛えていく必要があります。
まずは序盤でお伝えしたテクニックを用いてみてください。経験を重ね、いずれ上級者向けのテクニックが扱えるようになれば、大喜利をするのも見るのも、ぐっと楽しくなるはずです。
【寺田寛明(てらだ・ひろあき)】
お笑い芸人。1990年、埼玉県生まれ。マセキ芸能社所属のピン芸人。2021年より、4年連続「R-1グランプリ」決勝進出。10年以上に渡り、大喜利ライブ『大喜利千景』を主催している。芸人のほか、現役の塾講師としての顔も併せ持つ。
更新:03月23日 00:05