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中高年専門のアドバイザーが解説する「定年後の独立」に向けた具体的準備

2025年02月08日 公開

木村勝(中高年専門ライフデザインアドバイザー)

半個人事業主

「サラリーマン以外の働き方がしたい」とは思っても、会社員しか経験していない人にとってはなかなかハードルが高いもの。中高年専門ライフデザインアドバイザーの木村勝氏は、定年を迎えたら"半"個人事業主になることをおすすめしている。リスクを抑えながら、会社員の経験が活かせて、さらには長く活躍もできる働き方とは?(取材・構成:石澤寧)

※本稿は、『THE21』2024年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

独立への扉を開くカギは目の前の仕事の中にある

"半"個人事業主を目指すにはどうしたらいいのか。時間的には5年ほどあれば十分でしょう。55歳の人が60歳の定年時に"半"個人事業主になるイメージです。まずは意識の面から変える必要があります。

「一人事業主宣言」と私は呼んでいますが、「これまでの経験、スキル、知識を徹底的に活用し、個人で付加価値を創造できる存在になる」と自らに宣言することです。人に言う必要はありません。自分が持っているものを、暗黙知も含めて見える化し、自分の商品・武器として磨き上げるのです。

より具体的には、「現場、現物、現実&原則、原理、原点」の「6ゲン主義」を大切にして、目の前にある仕事の問題を自分の力量を磨く機会と捉えてより真剣に向き合うことです。「いまの職場に自分はコンサルタントとして契約して入ってきた」とイメージしてもいいでしょう。

そのうえで、例えば、いまの仕事を10分の1以下の時間で終わらせることを真剣に考えてみる。10%や20%の改善では現状を打ち破るアイデアは出てきませんから、ドラスティックな改革案を考えてみるのです。慣れ親しんだ仕事であっても、こうして自分のスタンスを変えることで、独立にふさわしいマインドに近づいていきます。

あわせて取り組みたいのが「キャリアの棚卸し」です。自分のスキルや経験、知識などの「自己資産」を振り返り、確認する作業を行ないます。その際に有効なのが「ブレインダンプ」です。学習指導者の谷澤潤さんが紹介している方法で、頭にあるものを片っ端から紙に書いて吐き出すことで、脳を空っぽにし、必要なアイデアや行動イメージを引き出すことができます。これにより、自分の現状や強みが再確認でき、取るべき行動が見えてきます。

そして、準備としてもう一つ大切なのが「人脈」です。実は、独立に役立つのは、サラリーマン時代の人脈です。独立後に人脈を作ろうとすると、相手はなんとなく「売り込まれ感」を感じてしまいますが、会社員同士の間ではそれがありません。ですから、会社員の立場にあるうちに人脈形成を意識すべきです。

特に効果的なのは、自分と同職種の他社の人とつながること。例えば人事部門の人なら、別の会社の人事部門の人と、社外の勉強会などを利用して親しくなる。懇親会などにも積極的に顔を出し、名刺交換だけで終わらないように、SNSなどでつながっておくとよいでしょう。そうして個人的な親交のある人のネットワークを広げていくことが、独立する際の貴重な財産になります。

 

今の会社との交渉・契約で注意すべきポイントは?

"半"個人事業主となるには、こうした準備を進めつつ、会社に業務委託契約を受け入れてもらう必要があります。それには、自分自身が個人事業主の特徴を十分理解し、双方にメリットがあることを会社にきちんと説明し、理解してもらうことが重要になります。

会社の人事部は雇用契約には慣れていても、個人事業主との業務委託契約は経験がない場合もありますから、自ら知識や情報を収集・提供し、契約に必要な書類等も準備するなど、主体的に動く必要があります。

契約を提案するタイミングも重要です。時系列で言えば、①役職定年、②定年退職、③定年後再雇用の毎年の契約更新、④65歳での再雇用契約満了時の4つの大きなチャンスがありますが、実現のしやすさから言えば、④→③→②→①の順に可能性が高いと言えます。

ただ、業務委託契約が成立するかどうかは、本人の能力はもちろん、会社の状況にも左右されますから固執しないことも大切です。「業務委託契約ができなければ辞めます」というニュアンスで会社に伝わってしまうと元も子もありません。②や③でNGの場合には、通常通り再雇用での勤務を希望することをきちんと伝えておきましょう。こうした柔軟な姿勢は、報酬の設定についても同様です。

"半"個人事業主の報酬のベースとなるのは、「そのまま雇用契約で働いていたら会社はいくら負担するか」という"実質"給与です。社会保険など様々な費用があるため、会社は給与の約1.4倍の金額を実質的に負担していると言われます。

これをベースに個別条件を加味して交渉する形になりますが、支払う金額が同じなら会社に経済的なメリットはありません。「手間が増えるだけ」と思われては契約が難しくなりますから、会社側にメリットがあると思わせる条件設定をすることも、"半"個人事業主として必要な駆け引きになります。

個人事業主の報酬は、「出した成果」が市場原理によって評価され、決定されるのが原則です。しかし特に最初の契約に関しては、市場相場で決めることは難しいのが実情です。私も最初は会社員時代からはずいぶん減額になりました。まずは定期的な収入源を確保し、"半"個人事業主としてスタートを切ることを優先したほうがいいでしょう。

業務の効率化や高付加価値化に努め、その実績を元に新しいクライアントを開拓していけば、個人事業主として本格的に独り立ちできるようになり、会社員時代を超える収入を得ることも可能になります。

東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎氏は、「自立とは依存先を増やすことである」と言っています。私も自分の経験から同じように感じます。独立とはたった一人で立つことではありません。今いる会社という大事な"取引先"の役に立ちながら、自分の力で貢献できる先を少しずつ増やしていく。それこそが、ビジネスパーソンとしての自立につながっていくと思います。

 

【木村勝(きむら・まさる)】

1961年生まれ。日産自動車(株)で長年人事畑を歩む。2006年、人事専門の関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリア支援業務に従事。14年、人事を専門とする独立業務請負人として独立。中高年サラリーマンのキャリアの悩みに対し、個別面談やセミナーを通じて支援を行なっている。著書に『老後のお金に困りたくなければ今いる会社で「"半"個人事業主」になりなさい』(日本実業出版社)など。

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