2022年09月08日 公開
2023年02月21日 更新
胃がんは大腸がん・肺がんに次いで日本人の多くが罹るがんと言われている。一方で、早期に発見できれば治療により治すことも可能だという。
そこで、胃がんを早期診断できる唯一の検査である胃内視鏡検査とAIを組み合わせることで、診断する医師の熟練度に関わらず、早期発見の確率を高めるAIの開発に成功した医師がいる。
「日本の内視鏡医の英知を集めたAIで、世界の患者を救いたい」と語るのは、東大医学部卒の現役医師で、自ら創業したAIメディカルサービスの代表取締役CEOを務める多田智裕氏。同社の取り組みと、AIが内視鏡検査にもたらす可能性を教えてくれた。
早期胃がんの発見は難しく、カメラを直接胃の中に入れて観察する内視鏡検査でも、検査する医師の熟練度によっては発見率に差が出るとされています。実際に、胃炎に紛れて専門医でも発見困難な早期胃がんの内視鏡検査中の見逃しは、4.6〜25.8%との報告もあります。(※1)
市町村が行う対策型胃がん検診における胃内視鏡による検査では、1回の検査で40枚ほどの画像を撮影し、胃の中をくまなく観察するとともに、検査後に、再度胃がん見逃し防止のために撮影画像を内視鏡専門医がダブルチェックします。
具体的には、私が経営するただともひろ胃腸科肛⾨科クリニックのあるさいたま市では、浦和医師会に所属する80人ほどの内視鏡専門医が、通常勤務とは別に外来業務を午後7時に終えた後などに、医師会館に集まり、1回あたり約1時間で約70人分の内視鏡画像(3000枚弱)を読影しています。
浦和医師会担当分だけで、読影枚数は年間数百万枚にもなり、この時間外の医師会所属医師たちの貢献によって市町村検診における検査の質を担保しているのです。
このように医師たちは早期胃がんの発見のために多大な労力を払っていますが、前述したとおり早期胃がんの発見は難しく、見逃しがどうしても避けられないのが現状です。
そのため、少しずつでも「内視鏡医療現場の課題を解決したい」という思いを常に持ち、鼻から行う経鼻胃内視鏡検査や、光の波長を変えてがんを観察するNBI内視鏡システムをいち早く導入しました。また、苦痛なく安全に大腸内視鏡検査を行うための教科書を執筆するなど、内視鏡医療の水準向上に力を注いできました。
(※1)「Hosokawa et al. Hepatogastroenterology. 2007 ;54(74):442-4.」
そうしたなか、2016年10月に聴講した人工知能研究の第一人者、東大の松尾豊教授の講演で、AI(なかでもディープラーニングを用いた人工知能)の画像認識能力が、人間をすでに上回っていることを知りました。
このAIの画像認識能力を内視鏡画像に応用すれば、内視鏡画像のダブルチェックで専門医の負荷を軽減できるのではないかと考えました。
当時、ディープラーニングを用いた内視鏡AIを研究開発している事例は、私が調べた限りでは世界でも見当たりませんでした。
そこで2017年から、クリニックの非常勤医師としてサポートいただいていたがん研有明病院の平澤俊明先生や、大阪国際がんセンターの七條智聖先生をはじめとする内視鏡専門医達とAIエンジニアでチームを組み、胃がんの主要リスク要因であるピロリ菌の有無を鑑別するAIと、胃がん検出のAIなどの内視鏡AIの研究開発を開始しました。
AIの研究開発で最も重要なのは、教師データ(AIに教えるデータ)の質と量で、これによってAIの性能が決まります。日本は内視鏡機器発祥の地であり、内視鏡医療では世界をリードしています。そのおかげで、私どもは研究協力施設病院から質・量ともに世界最高水準のデータを集めることができ、世界初の研究成果を多数発表することができました。
同年10月には、胃がんのリスク因子であるピロリ菌胃炎を鑑別するAIの開発に世界で初めて成功しました。このAIは診断能力で23名の内視鏡医師の平均を上回っていました。
また、2018年1月には世界初の胃がん検出AIの開発に成功。このAIは静止画において病変が6mm以上であれば98%の早期胃がんを検出するという高精度なものでした。
さらに2019年3月には、動画リアルタイムでの胃がん検出AIの開発にも世界初で成功しました。
AIと人間では、どちらが優れているのかよく話題になります。しかし、医療現場においては、AIはあくまで医師の診断を支援するサポート役として使われ、AIが医師の代わりに診断することはありません。
これらの成果をもとに開発された内視鏡AIが内視鏡医師のチームメイトとして協業して検査を行うことで、内視鏡検査の質の向上が達成されると私は考えています。
更新:10月14日 00:05