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売上を指標にせずに「業績を上げ続けている企業」の共通点

2024年12月04日 公開
2024年12月16日 更新

小阪裕司(オラクルひと・しくみ研究所代表)

顧客数を上げる重要性

「来月の売上は目標に届くだろうか......」。いつも「明日の売上」の心配で頭がいっぱい。かといって、不安解消のために、やみくもに労働時間を増やしても心身ともに疲弊するだけ。一方、世の中には、コロナ禍だろうが物価高だろうが関係なく、高い成果を出し続けている企業が数多く実在する。ここでは、そうした会社の共通点を、マーケティングのカリスマが解き明かす。

※本稿は、『THE21』2024年12月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「苦しんでこそ仕事」は本当なのか?

「来月の売上は、いや、明日の売上はどうなるだろう?」
「お客さんは明日も来てくれるのだろうか」
「あの商品は本当に売れるのか」
「まだ1件も注文が入っていないけど、大丈夫なのか」

あなたがマネジャーや店長だとしても、あるいは一社員だとしても、はたまた経営者であったとしても、多くの人が日々、こんな悩みで頭がいっぱいなのではないでしょうか。昭和世代の人なら「苦しんでこそ仕事」などとうそぶくかもしれませんが、それはなかなかしんどい道。少なくとも私は遠慮したいですし、読者の皆さんも、本心ではそう感じているのではないでしょうか。

そして、少しでも売上を上げねばと、深夜まで残業をする。あるいは、店舗の営業時間を延ばし、挙句の果てには24時間営業にする。確かに少しは売上が上がるかもしれませんが、自分も周りのメンバーもどんどん疲弊していってしまいます。

私がお伝えしたいのは、そうではない「別の道」があるということです。それは、「日々の売上の心配をすることなく、愉しく仕事をする」という道です。

私は全国の1000社以上の企業が参加する会を主宰していますが、そこには「明日の売上の心配をすることなく」「毎日、愉しそうに仕事をしながら」「圧倒的な業績を上げ続けている」会社が多くあります。

もちろん、何の悩みも不安もない、といったらウソになるでしょう。でも、少なくとも「明日の売上はどうなるのか」という不安に常に囚われている人は、ほとんどいません。

 

人は、選択肢が多いほど動けなくなってしまう

いわゆる「仕事の成果を測るモノサシ」として最もよく使われているのは、「売上」でしょう。

でも、私の周りに「売上」を指標としている人はほとんどいません。結果的に「売上が上がってしまった」という会社はあっても、最初から「売上UPを目指す!」というお題目を掲げてはいないということです。

一方、「利益」こそ目標にすべきだと言う人も多いでしょう。それは間違ってはいませんが、問題は、利益を上げる方法はいくらでもあることです。売上を上げるのはもちろん、原価を下げる、人を減らす、広告宣伝費を使わない、などなど。

そして、悩ましいのは、売上と利益は常に反比例しがちだということです。例えば、いくら売上が上がっても、原価や人件費がそれ以上に上がったら、利益は減ってしまいます。かといって、原価や人件費を下げると、質が落ちて売上も減ってしまう。まさに二律背反です。

つまり「利益を目指そう」という目標だけでは、選択肢が多すぎて、逆に何をしたらいいのかが明確にならない。結果的にチームの足並みがバラバラになってしまうのです。

売上でも利益でもなく、「顧客の数を増やす」ことだけを指標にする。すると、売上も利益も確実に上がります。その詳しい理由は改めてお話ししますが、大事なのは「目指すべきものを一つにすると、人は、悩まなくなる」という事実です。

行動経済学では、「人は、選択肢が多いほど悩む」とされています。プリンストン大学のエルダー・シャフィール博士が提唱した、「決定回避の法則(選択回避の法則)」と呼ばれるもので、選択肢が多すぎると人はより良いものを選びたいと悩み、結果、何も選択しないという行動を取るというのです。

逆に言えば、目指すべき指標をたった一つに絞れば、迷いは消え、行動は力強くなるのです。

 

「リピーターを増やす」では経営が安定しないワケ

お客をリピーターに、リピーターを顧客にしていこう

まず、大前提として「顧客とは誰か?」を定義します。

一度でも自社の商品を買ってくれた人、サービスを受けてくれた人。これは、私の定義では「お客」となります。その後、二度三度と買ってくれた人は「リピーター」になります。ここで言う「顧客」とは、その先の概念です。それは、以下の3つの心の在りようを持つ人のことです。

1. 愛着を持っている
2. 信頼を寄せている
3. 共感を抱いている

ひと言で表すと「絆」ということになるでしょう。自分あるいは自社との間に「絆」がある人こそが、顧客です。

例えば、あるドラッグストアに初めてお客さんが来てくれた。これは「お客」です。そのお客さんが毎日のように来るようになってくれた。これは「リピーター」です。でも、近くに新しいドラッグストアができたら、途端に来なくなってしまった。そういう人はリピーターではあっても「顧客」ではありません。

「顧客」とは、「その店に愛着と信頼と共感を持っている」から、もし近くに別の店ができても、あえてその店で買おうとするし、口コミで広めてくれたりもする人のこと。言い換えると「ファン」となるでしょう。

よく、「リピーターを大事にすべき」と言われますが、それだけでは安定的な売上にはつながりません。つまり、「明日の売上の心配からは逃れられない」ということです。

 

顧客が顧客を呼ぶ! 理想的な好循環

顧客数を上げることだけを指標にすると売上も利益も確実に上がる

では、顧客数を増やすと、なぜ、明日の売上の心配をしなくてよくなるのでしょうか。

ある商品や店に愛着や信頼や共感を持った顧客は、その商品や店を繰り返し利用するようになります。そこに、いわゆる「単純接触効果」が働きます。これは、ある対象に繰り返し接触することで、好感度や親近感が増すとされるものです。

つまり、接触回数が増えるほどいっそうロイヤリティが高まり、利用が増える。するとまた好感度や親近感が増し、利用が増えるという好循環が生まれるということです。

さらに、そこに「貢献実感」が加わります。あなたにも経験があると思いますが、自分の好きな商品や店は、人に勧めたくなります。貢献実感とは、ある商品や店に愛着や信頼、共感を抱くと、それに対して貢献したくなることを指すのですが、それゆえに、積極的に人に勧めます。すると、顧客が顧客を呼ぶという好循環が生まれるのです。

ある化粧品販売店では、このような口コミ効果もあり、顧客数が20年で倍増、販売単価も1万円以上増えました。廃業を決めた同業他社すら「今後はあそこで買うといいですよ」と勧めてくれるというのですから、驚くような話です。

これはあくまで一例ですが、「顧客数を増やすことだけを考えれば、売上も利益も上がる」というのは、こういうメカニズムが働くゆえのことなのです。

 

プライベートを明かしたら顧客が増えた⁉

顧客数が増える要素は幾つかありますが、重要なものの一つに「共鳴価値」があります。

あるジビエ料理店では、それぞれの料理のストーリーを語ることを重視しています。単なる「猪肉」「熊肉」ではなく、「みかんを食べてほんのりオレンジ色になった猪肉」「伝説の猟師が撃った熊肉」など。この店では、こうしたストーリーが顧客の共鳴を呼び、顧客数がどんどん増えています。また、自分たちの価値に共鳴してくれた取引先は、価格を気にしなくなるため、客単価は2倍以上になりました。

また、「自己開示」も重要なものの一つです。

ある紙問屋では、初めての取引先に、自己紹介レターやミッションレターを送っています。また、その後も3カ月に1回、自分たちの近況を報告するニューズレターを送る、なども行なっています。

そこに書かれているのは、自分たちが日々考えていることや、プライベートな話題ばかり。商品説明はほとんどありません。でも、その内容が愛着や信頼、共感を生み、顧客がどんどん増えています。

特筆すべきは、同社の業界では他社も同じ商品を扱えることから、以前は頻繁にあった「値引き」を求められることがほとんどなくなったこと。ドライと言われるBtoBの世界でも、こういうことが現実に起こっているのです。

これでおわかりいただけたでしょうか。顧客を増やせば購買頻度も購買単価も上がる。ゆえに、売上が上がる。値引きの必要もなくなるし、口コミが口コミを生み広告宣伝費も減るので、利益も上がる。

もちろん、顧客とのコミュニケーションなどにある程度のコストがかかるとしても、十二分にペイできるのです。

顧客数が上がると、単価も購入頻度も上がる3つのメカニズム

 

あなたのお客さんの顔を思い出してみよう

ここで、自分の取引先やお客さんの顔を思い浮かべてみてください。その中で、あなたにとって「顧客」と言える人は、どのくらいいますか?

もし、一人の顔も思い浮かばないとしたら、残念ながらあなたの顧客数はゼロ。ビジネスとしては極めて脆弱だと言わざるを得ないでしょう。

でも、心配することはありません。「顧客数経営」は、今、始めれば、それだけ早く不安から解放されます。1年もあれば十分、中には、「1カ月で明らかに変わった」という会社も数多く存在します。

メーカーなど、直接、最終顧客と接する機会がなかなかない業種もあると思います。それでも、少しでも顧客とつながり、自社・自店の「顧客数」が増える取り組みをしてほしいと思います。なぜなら「顧客」は、何があってもあなたを裏切らない安定的な売上をもたらしてくれるからです。

ぜひ、ご一緒に「不安のないビジネス」を実現させましょう。

 

【小阪裕司(こさか・ゆうじ)】
オラクルひと・しくみ研究所代表。1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。「感性と行動の科学」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会であるワクワク系(感性科学)マーケティング実践会を主宰。現在全都道府県および海外から千数百社が参加。提唱する理論の実践は、企業の生産性向上に資することが立証されており、2017年にはこれを活用する企業を全国に広げる事業が、経済産業省の認定を受ける。 新刊『顧客の数だけ、見ればいい』(PHP研究所)が好評発売中!

 

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発売日:2024年12月06日
価格(税込):780円

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