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専門知識があるほど陥りがち...「地方副業に向かない人」の一つの特徴

2025年02月21日 公開

杉山直隆

地方副業は、相手のためにやる

地方の慢性的な人手不足や副業の解禁などから、希望者が増えつつある「地方副業」。ライターの杉山直隆氏は、地方副業は社会人のリスキリングにも一役買うと説明する。しかし、時には自分自身の有意義な経験にしようとするあまり、悪い意味での摩擦が生じてしまうこともある。杉山氏の著書『地方副業リスキリング』より紹介する。

※本稿は、杉山直隆著『地方副業リスキリング』より内容を一部抜粋・編集したものです

 

「相手のため」と考えると、「自分のため」になる

地方副業・プロボノで有意義な経験をしている人に共通するマインドがあります。それは、主語が「自分」ではなく、「他人」「受け入れ企業」「地域」「社会」であることです。

地方副業・プロボノをする人は、始めは「自分のため」という目的で参加していることが多いものです。とくにリスキリングを目的に来ている人は、いかに自分が何かを持って帰れるかが第一にあると思います。それは悪いことではありません。

しかし、「自分のため」が強すぎると、受け入れ企業や地域が抱えている課題がどこか他人事になってしまうのでしょう。だから、課題に対してどこか本気で取り組めなくなることが起こりがちです。

それに対し「相手のため」「受け入れ企業のため」「地域のため」と考えている人は、「自分がこれをやりたい」「自分が成長したい」ではなく、「経営者の○○さんが困っていることを解決したい」「この地域課題に貢献したい」というように、地域の課題にフォーカスしています。だから、課題に取り組む本気度が違うのです。

こうして「相手のため」と考えて地方副業・プロボノに本気で取り組むと、良いサイクルに入っていきます。課題の背景を深く知ろうとするので、課題に対する解像度が高まっていきますし、課題を解決するためにさまざまなやり方を考えるときも、自分がやりたいことではなく、地域のためになる現実的なことを考えるようになります。

そうした変化は受け入れ企業の経営者やスタッフにも自然と伝わりますから、信頼関係が高まり、連携がスムーズになります。そうして受け入れ企業のメンバーと一緒に仕事に取り組んでいると、受け入れ企業のことを「うちの会社」と言うようになる人も出てきます。受け入れ企業に対する思い入れが強くなるのでしょう。

地域課題は簡単でありません。一生懸命やっても課題は解決できずに終わるかもしれません。しかし、本気で取り組んだ分、多くのものを得られます。気がつけば、リスキリングにもつながる――。「相手のため」と考えたほうが、「自分のため」になるという構造があるのです。

 

破壊的な摩擦を減らし、創造的な摩擦を増やす

地方副業・プロボノで成果を出すチームの特徴はいろいろありますが、共通しているのは「破壊的な摩擦が少なく、創造的な摩擦が多いこと」です。

摩擦とは、コミュニケーションにおける意見のぶつかり合いや対立などのこと。地方副業・プロボノの現場において、こうした摩擦が起こることは決して悪いことではありません。価値観やバックグラウンドの異なる人たちが集まって本気で議論すれば、意見のぶつかり合いや対立が起こるのは当たり前です。

そうしないと、何も創造できませんし、課題の解決などできません。むしろ空気を読み合って、言いたいことも言わず、ぬるい雰囲気で最後まで摩擦が起きないほうが問題かもしれません。

個人のリスキリングという意味でも、そうした摩擦があるからこそ、さまざまな学びが生まれるし、価値観や考え方にゆらぎが生じます。それでこそアウェイに来た甲斐があるというものです。

それは受け入れ企業にとっても同じ。ときには反論や反対があることで自分たちの考えていたことの甘さや間違いに気づき、軌道修正の必要性に気づきます。副業人材だけでなく参加した社員たちもさまざまな学びを得ることでしょう。こうして創造的な摩擦を上手く活かしていくチームが、成果を生み出していくし、人も成長するというわけです。

一方で、実際の地方副業・プロボノの現場では、破壊的な摩擦が起こるケースもよくあります。当初は、受け入れ企業も副業・プロボノ人材も相思相愛で始まったはずが、1か月ほど経ったら、険悪な雰囲気になっているのです。数か月という契約期間の大半を、けんかと認識のすり合わせで浪費したというケースもありますし、関係が悪化して途中で契約を解除するというケースもあります。

なぜそういうことが起こるのでしょうか。理由は、お互いの期待値のすり合わせができていないから。あるいは、共創するチームとしての約束事を共有できていないからです。

相思相愛の関係であるほど、「まあ、そこまできっちり決めなくてもいいんじゃない」「お互いマジメにコミットしているし」と何もかもゆるいままプロジェクトが始まりやすいのですが、それが落とし穴の元になります。

プロジェクトのゴールや進め方、役割分担などの約束事を最初にすり合わせておかないと、その認識の違いで、受け入れ企業と副業人材の間で小さなズレが生じていきます。それが積み重なっていくにつれ、信頼関係どころか不信感ばかりが増幅し、険悪なムードになるわけです。そういう状態になっては、課題解決はもちろん、リスキリングどころではなくなります。

 

誰もが陥る「プロフェッショナル風の人」

プロジェクトが本格的に始まり、議論をするようになると、摩擦も起こるようになります。先ほど述べたように創造的な摩擦は歓迎すべきことですが、破壊的な摩擦は避けたいところです。

しかし、自分ではそんな気は一切ないのに、破壊的な摩擦を起こしてしまう人がいます。それは、「プロフェッショナル風の人」です。

プロフェッショナル風の人とは、プロフェッショナルのような発言をするけれども、プロジェクトに貢献できていない人のことです。これは専門知識の有無という話ではありません。むしろ専門知識がある人のほうが陥ってしまう傾向があります。

その一例は、受け入れ企業の問題点を厳しく指摘する人です。

「そんなことより営業に力を入れたほうがいいのでは」「取引先や商品を増やす努力をしないと、店も盛り上がらない」「最近はクラウドファンディングという手もあるのだから、そういうものも検討しないと」と受け入れ企業の問題点を厳しく指摘するのです。

さらには、「従業員がルーズすぎる」「メールの返信が遅い」「業務システムが整っていない」と仕事の進め方や環境にも厳しく指摘する人もいます。厳しいことを言う人は、受け入れ企業が本当に良くなってほしい、と本気で思って言っているものです。発言の内容も、正論かもしれません。

しかし、地方企業やNPOで働く人たちは、限られたリソースのなかで精一杯やっています。また、企業のカルチャーやペースは長年つくられてきたものであり、ひと目ではわからない良さもあります。そうした背景を十分に考慮することなく、厳しい指摘をすれば、相手も良い気持ちはしません。

それでも、厳しい指摘をするだけでなく現実的な改善案を伝えれば、受け入れ企業の人たちも聞き入れようという気になりますが、「プロフェッショナル風の人」は批判をするだけという人もいます。成果がほとんど上がらず、受け入れ企業の人たちが期間満了まで耐えて、「もう二度と副業人材は雇わない」となってしまう例は少なからずあります。

ここまで聞いて、ほとんどの人は「自分はこんな人にはならない」と思ったことでしょう。しかし地方副業・プロボノの場では大なり小なり、プロフェッショナル風になる人が少なくありません。首都圏の大企業で働いていると、小さな地方企業やNPOのことを自分でも気づかぬうちに上から目線で見てしまうところもあるのでしょう。その結果、悪気がなくても、無意識・無自覚に相手の神経を逆なでする発言をしてしまうのです。

しかし、これでは成果も出ませんし、リスキリングにもなりません。お互い徒労に終わってしまいます。「プロフェッショナル風の人」には、誰でも陥る可能性があります。

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