2025年02月12日 公開
近年、よく話題に挙がるリスキリング。ライターの杉山直隆氏は、リスキリングにあたって地方副業・プロボノが有効だと主張する。その理由やメリットとは?杉山氏の著書『地方副業リスキリング』より紹介する。
※本稿は、杉山直隆著『地方副業リスキリング』より内容を一部抜粋・編集したものです
一般的に、副業をしたときに得られる報酬といえば、金銭的な報酬でしょう。地方副業も金銭的な報酬は得られますが(プロボノは無償ですが)、他の副業に比べると、効率よくお金を稼ぐのには向いていません。むしろ、地方副業・プロボノの最大の魅力は、金銭以外の「非金銭的な報酬」です。
「意味的報酬」と言われることもあります。この意味的報酬こそがリスキリング・学び直しに効いてくるのです。では、非金銭的な報酬、意味的報酬とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
改めて、地方副業・プロボノの大きな魅力のひとつは「本業ではできない仕事の経験が積めること」です。繰り返しになりますが、地方副業やプロボノの受け入れ先は、地域に横たわる何らかの課題に取り組んでいます。その課題とは、すでに答えがわかっていることではなく、最適解が見えていないことばかりです。
たとえば「地域工芸品の伝統を守り続ける」といった課題がある場合、考えられる策は山ほどあります。さらに、単に自社が儲かれば良いわけではなく、地域経済の活性化や雇用の創出、少子高齢化や荒れ果てた農地・山林の対応などの課題を同時に解決する必要があります。
個別最適ではなく、全体最適を考えなければならないわけです。そうした仕事に取り組む経験はなかなかできません。とくに大手企業に勤めていて、「歯車」的な仕事をしていると感じている人にとっては魅力的に感じることでしょう。
こうして本業ではできない仕事の経験を積むことは、直接的にも間接的にもリスキリングにつながります。具体的には次の7つの効果が期待できます。
1.課題解決の引き出しが増える
新たな職場で仕事をすると、自分は考えつかなかったような仕事のやり方や課題解決のアプローチに触れることができます。そうした大小さまざまな経験をしていくと、課題解決の引き出しが増えていきます。なかには本業にすぐ応用できることもあるでしょう。
たとえば戸田さんという方の事例では、新商品開発の経験を通して、「答えのない仕事をするときに、頭でっかちに考えているだけでは何も前に進まない。とにかく手を動かすことが大切」と学んでいました。
とくに中小企業は、計画や戦略をつくり込まずにできることからやってみる、アジャイル開発のような仕事の進め方をすることがよくあります。もちろん、その方法が常に良いというわけではありませんが、その方法を経験すれば選択肢が増えることは間違いなく本業にもプラスに働きます。
2.未知の仕事の知見が得られる
「未知の仕事の知見が得られること」も、地方副業・プロボノの効果のひとつです。
20代ならともかく、30歳を過ぎると、新しい仕事にチャレンジすることが難しくなってきます。転職市場ではこれまでの経験が求められますし、転職できたとしても、本人がまったく違う仕事をすることに抵抗を感じるかもしれません。
しかし、数か月限定の副業なら、新しい仕事に挑戦させてもらえることがあります。仕事によっては、「常識にとらわれない人の考えがほしい」という受け入れ先のニーズがあるからです。ある受け入れ企業では、商品開発をするにあたって、あえて商品開発の経験がない副業人材を集めたといいます。
戸田さんは、そうした企業のニーズにうまく合致し、新しい仕事にチャレンジできました。酒造会社で新商品の開発を担当し、デザイナーの選定やデザイン案の指示、ネーミングのアイデア出し、メディアへのアピール、クラウドファンディングの活用などをおこないましたが、これらはすべて初めて経験する仕事でした。
一度でも仕事をしてみると、その仕事では何が大切なのか勘所が見えてきます。今後同じようなノウハウが必要な仕事をするときに、生きてくることでしょう。
3.学んだ知識を、生きたスキルに昇華できる
ビジネススクールに通っている人や資格を取得した人、独学で専門知識を学んだ人に共通する悩みは「学んだ知識を実践する場がないこと」です。
お金も時間もかけて苦労して学んだとしても、その知識を実践の場で活かせなければ、宝の持ち腐れです。現実のビジネスの場でフル活用してこそ、学んだ知識が生きた知識となり、実践的なスキルへと変わります。
そんな「実践できる現実のビジネスの場」といえるのが、地方副業・プロボノの現場です。たとえば西本さんという方はデジタルマーケティングのツールについてセミナーや書籍などで学びましたが、なかなか本業で使う機会がありませんでした。
しかし副業先でデジタルマーケティングの支援をしたことで、現実のビジネスでツールを使うことができ、生きたスキルを身につけることができました。短期間のうちにトライ&エラーを繰り返せたのは、できることからどんどんやっていく中小企業ならではといえるでしょう。
4.新たなスキルを身につける必要性に気づく
本業ではできない仕事をすることで、自分に足りないスキルが見えてくることもあります。たとえば新商品の販促の仕事をしたときに、SNSマーケティングに関する知識の不足に気づくといった具合です。
資格にしてもセミナーにしても、「はっきりした目的はないけれど、なんとなく役立ちそうだから」と目的意識があいまいだと、勉強に身が入りにくいものです。しかし、地方副業やプロボノで「それを学べば確実に役立つ」ということがわかれば、学ぶモチベーションが上がりますし、吸収もしやすくなります。
5.アンラーニングのきっかけになる
アンラーニングとは、時代の変化によって陳腐化したスキルや知識を捨てて、新しいスキルや知識を身につけることです。たとえば営業やマーケティングのスキルは日々進化しています。陳腐化しているかどうかは自分では気づきにくいことですが、地方副業やプロボノによって他業界の仕事の方法に触れることで、「実は自分は遅れているのではないか」と気づくことができます。
6.自分の意外な強みに気づける
新たなスキルの必要性に気づく一方で、自分では思っていなかった自分の強みに気づくこともあります。
強みというと、専門スキルを思い浮かべるかもしれませんが、それだけではありません。気づきにくいのは、どこの業界にでも持ち運べるポータブルスキル。たとえば、課題設定力、計画立案力、リスク管理能力といった仕事の進め方のスキルや、ファシリテーション能力、根回し・調整能力といったコミュニケーションに関するスキルです。
先ほどの戸田さんは、酒造会社で新商品の開発を手がけたとき、皆が諦めかけた不具合に対して、「原因を憶測で決めてはいけない」という本業の技術職で叩き込まれた考え方のもと、原因究明を根気よくおこない、原因を突き止めたそうです。
このような原因究明能力は、どんな会社でも役に立てるスキルでしょう。また、大手企業で働いているとさまざまなことが仕組み化されていますが、地方の中小企業では仕組み化されていないことが多くあります。たとえば、運用ルールを決めることや運用マニュアルをつくることです。こうしたことを地方企業でおこなうと、重宝されます。
ある受け入れ企業の社長は、数人の副業人材と仕事をしたとき、オンライン会議の進行がスムーズで驚いたといいます。司会進行、タイムキーパー、書記などの役割分担が上手かったそうですが、日頃から会議の進行をしている人なら、普段通りにすればできることでしょう。
「今までやってきた仕事は大したことがない。人に言えるスキルなんてない」と思っていても、小さな会社で働いてみると、これまで培ってきたスキルや経験が重宝されることは少なくありません。自分では強みと思っているけれども、本当に強みかどうか自信が持てないことを確かめることもできます。
どんなに実績を上げている人でも、ひとつの会社だけしか勤めたことがないと、自分が他社で通用するのか、不安になるものです。地方副業・プロボノをすることで、自分が通用するかどうかを確認できるでしょう。
7. 異なるバックグラウンドを持つ人と協業するノウハウが得られる
普段、同じ会社で働いている人とは、たとえ部署が違っていても話が通じ合えるところがあります。これは、前提知識や使っている用語などを共有しているからです。また同じ会社で働いていると、自然と価値観が似てくる面もあります。
ところが地方副業やプロボノでは、受け入れ先の社長やスタッフ、あるいは一緒に働く副業者やプロボノとはバックグラウンドが異なりますから、価値観や前提知識、使っている用語がバラバラです。
同じ業界の人なら少しはわかりあえることもありますが、業界が異なると考え方がまったく違います。そういう人たちと協業するのは難しいことに気づくでしょう。
もっともバックグラウンドの異なる人と試行錯誤しながら仕事をすると、協業するときに大切なことがわかってきます。たとえば「共通言語で話すこと」はそのひとつです。ダイバーシティの重要性が叫ばれるなか、これからは必須のスキルといえるでしょう。
更新:02月22日 00:05