2024年09月06日 公開
技術の進化や価値観の多様化など変化の激しい時代、変えるべきものは働く時間や場所だけでなく、ビジネスモデルそのものにも及ぶ。本連載では、時代の変化をとらえ、様々な「新しい働き方」にチャレンジしている人や企業の取り組みを紹介する。本稿では、女性活躍を軸にダイバーシティの推進に取り組むサワイグループホールディングス(株)に話を聞いた。
※本稿は、『THE21』2024年10月号に掲載されたものです。
――サワイグループホールディングス(株)では、ID&E(インクルージョン・ダイバーシティ&エクイティ※)推進室を設置し、多様な人材が活躍できる環境の整備に力を入れているとうかがっています。取り組みを始めたきっかけは?
【二出川】当社の社員は、およそ35%が女性です(2024年7月現在)。ところが、2021年度の女性管理職の割合は8%未満でした。育休の取得や時短勤務といった点での「女性の働きやすさ」はあったと思いますが、管理職になる女性は少なかったんです。
その原因については推測になってしまいますが、やはり出産という女性特有のライフイベントの影響や、育児中の女性社員に対して配慮というか遠慮しすぎてしまい、昇進を積極的に進めてこなかった、ということがあるのではないかと思います。
そこで、もっと女性社員に活躍してもらえるように、グループ全社からメンバーが集められ、インクルージョンとダイバーシティ、エクイティの推進施策を検討するプロジェクト「S‒Wing」が、2022年7月に立ち上がりました。
――プロジェクトでは、どんなことに取り組まれたのですか?
【二出川】プロジェクトメンバー同士のキャリアの考え方やなりたい姿を共有したり、全社員にキャリアについての考え方を問うアンケート調査をしたりしながら、「そもそも、女性が活躍している組織とはどんなものなのか」について考えていきました。
ところが、全社員に対するアンケート調査の結果からは、男女問わず、若い社員が将来のキャリアを描けていない、という課題が見えてきました。つまり、問題の本質はジェンダーの差ではなく、ほかのところにあるんじゃないか、と。
【野村】また、女性活躍を含め、ダイバーシティ推進に取り組んでいる他社のヒアリングなども行なっていきました。
――他社の取り組みで、印象的だったものはありましたか?
【野村】私が印象に残っているのは、ある会社の男性の育児休業取得率を上げるための施策です。パートナーが妊娠したら、出産予定日を必ず申請することになっているんです。その時点で会社からのサポートがスタートして、子どもが生まれたら半ば強制的に(笑)、育休を取らされるという。やはり、男女問わず全社員が活躍できる環境を整えるためには、女性だけを対象に施策を考えるのではなく、男性の仕事と家庭の両立をサポートすることも必要ですよね。
【二出川】色んな会社のお話を聞いて、やっぱり皆さん悩まれているんだな、ということも感じましたし、スタートは女性活躍推進でしたが、性別や国籍、年齢を問わない「ダイバーシティ」が大事だ、私たちの考えは間違っていないな、ということも確認できました。
そうして半年間のプロジェクトを経て、検討課題をまとめたアクションプランを経営陣に提言しました。
※サワイグループでは、ダイバーシティ(多様性)推進の基盤として、インクルージョン(包括性)が必要であり、そのうえでエクイティ(公平性)の考え方も必要だと考え、「ID&E」としている。
――アクションプランはどんな内容だったのですか?
【野村】「ジェンダーの区別なく、組織運営の要であるマネジメント適性のある人財の育成を行なうこと」「適性のある人財がマネジメント職を志望できる環境を整備し、グループの持続的な成長に寄与すること」「ジェンダーに対する固定観念を払拭し、個人の能力発揮に応じた『公平・公正な評価』『仕事のアサイン』を行なうこと」「ジェンダーに関係なく『働きがい』が感じられる社員のキャリア形成を支援すること」といったものです。
ただ、そうした環境の実現を妨げるものって、実は制度ではなくカルチャーやアンコンシャスバイアスだったりするんですよね。そこで、まずは経営層を含む社員の意識改革に向けた研修の実施も提言しました。
【二出川】また、女性活躍に始まるダイバーシティ推進の取り組みを半年間のプロジェクトだけで終わらせないために、これらの施策をさらに加速させる専任部署として、「ID&E推進室」を2023年10月に設置し、今年は経営層を対象とした「女性活躍推進研修」を実施しました。2027年3月末までに、女性管理職比率を15%以上にする、という目標を掲げて、様々な取り組みを進めています。
実はS‒Wingのアクションプランを発表したときは、「女性活躍推進なんて不要だ」という声も社内にはあったんです。本当に優秀で意欲のある女性は、すでに活躍しているから、というんですね。
でも、一時的なプロジェクトではなく専任の部署を立ち上げ、外部有識者の方を招いて「多様性が高まることで、組織は強くなる」といった講演を行なってもらうなど、「女性だけじゃなくて全社員活躍なんです」というメッセージを伝え続けてきたことで、そうした方々の意識も変わってきていることを感じています。
【野村】また、こうした取り組みにはトップからの継続的なメッセージの発信が大切だと考えますが、同時に「トップだけでいいのか」という思いもあります。
そこで、社長の次は役員や本部長の方々にも、研修のあとに「私は女性活躍に対してこういうことをやっていきます」という宣言をしていただき、動画で全社に配信することを行ないました。そうすることで、役員クラス全員の当事者意識も高まり、社員の皆さんにも本気度が伝わっていると思います。
――お二人は「ID&E推進室」のメンバーですが、【二出川】さんは事業子会社である沢井製薬㈱メディカルコミュニケーション部の部長と、ID&E推進室の室長を兼任されています。大変ではないですか?
【二出川】私たちには、S‒Wingプロジェクトが立ち上がったときから大切にしているグラウンドルールがあります。それは、時代の変化に対応する価値観やありたい姿を話し合うというこの活動において、現状の正しい把握と建設的かつ否定のないディスカッションを大切にする、ということ。
そのために、「楽しくやる!」「どうしたら楽しくなるか考える!」「できない理由ではなく、できる方法を考える!」「プロジェクトの運営に不満・不安がある場合、通常業務とのコンフリクトがある場合は、遠慮なく伝える」といったルールを設けています。この考え方がいまも生きていることもあって、あまり大変だと思うことはないですね。メディカルコミュニケーション部の仕事では医療関係者や患者様の、ID&E推進室では社員の皆さんのお困りごとを解決してお役に立てることに、やりがいと楽しさを感じています。
また、ID&E推進室は人事部の一部署になるのですが、兼任のかたちで人事部に入ってみて、人事部は社員のために本当に色んなことを考えているということを知りました。「兼任」ということは、外の目も持ち続けているということ。私はいま、人事部の中の目と外の目を両方持っているお得な状態なので、そのメリットを活かして、これからもやれることをやっていきたいな、と思っています。
更新:10月14日 00:05