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FXはギャンブルと同じ...お金持ちになるための「シンプルな方程式」とは?

2024年07月02日 公開

橘玲(作家)

老後資産の築き方

FXや宝くじは魅力的だが、「ゼロサムゲーム」のため誰かが損をする仕組み。うまくいけば富裕層になれるかもしれないが、資産を失うことにもなりえる。堅実に資産を増やすには? 『THE21』2024年7月号では、長年「お金と人間」というテーマに向き合ってきた作家の橘玲氏に、今必要なお金に対する考え方を聞いた。(取材・構成:石澤寧)

※本稿は、『THE21』2024年7月号特集「40代・50代は新NISAをどう使えばいいのか」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

※本稿は2024年6月時点の情報に基づき、投資に対する著者の考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入の可否を含む投資の判断はご自身の責任で行なうようお願いいたします。

 

一攫千金を狙う人が知っておくべきこと

覚えておきたいゼロサムとプラスサムの違い

株式インデックスファンドへの積立投資は、経済学的に最も正しい投資法ですが、欠点があるとすれば、そのパフォーマンスが市場平均と同じで、夢がないことでしょうか。確かに、半年で株価が倍になるようなことはなく、効果を実感するまでには10年単位の時間がかかります。より短期で儲かりそうな投資に目がいく気持ちは、わからないでもありません。

ただ、ここで理解してほしいのは、ゲームには「ゼロサムとプラスサム」があることです。前者は「差し引きするとゼロ」で、誰かが得をすればその分誰かが損をします。それに対してプラスサムのゲームでは、取引をすればするほど自分も相手も儲かります。

山で食べきれないほどたくさん採れたキノコを、海で食べきれないほどたくさん採れた魚と交換する取引を考えてみましょう。そのままでは腐らせるしかなかった商品が、交易によって価値を持つようになり、それによって両者の富は大きく増えます。

グローバル市場がとてつもない富を生み出すのは、国境を越えたプラスサムのゲーム(市場取引)を大規模に行なっているからです。

市場経済から富裕層が生まれるのは、金持ちが貧乏人から略奪しているからではありません。 株式市場への投資は市場経済の未来に賭けることなので、全体としてはプラスサムの取引になります。

ただし、個々の企業は成長することもあれば、破綻することもあるので、株を買えばなんでも儲かるわけではありません。また市場が成長するには時間がかかるので、短期的な売買は、投資対象が株式インデックスであっても、自分が得をすれば相手が損をするゼロサムゲームになります。

自分のお金を増やそうというときに、時間とともに参加者全員の富が増えていくプラスサムのゲームと、奪い・奪われる弱肉強食のゼロサムゲームの、どちらを選ぶべきかは明らかではないでしょうか。

FX(外国為替証拠金取引)は円とドルのように異なる通貨の交換比率を予測し、それに高いレバレッジをかける典型的なゼロサムゲームです。FXに人気があるのは、投資というよりもギャンブルに近いからでしょう。

とはいえ、私はギャンブルそのものを否定しているわけではありません。FXの手数料率は、FX会社同士の競争によって、いまや0.1%程度まで下がっています。それに対して宝くじの期待値(還元率)は50%で、経済学者から「愚か者に課せられた税金」と呼ばれています。競馬などの公営ギャンブルの期待値も75%で、手数料率は25%です。

それに比べてFXは、カジノのどんなゲームよりも期待値が高く、そのうえ最大25倍までのレバレッジがかけられるのですから、そのコストパフォーマンスは圧倒的です。

ただし、コスパがいいからといって必ず儲かるわけではありません。株式市場も為替市場も、素人とプロが同じ条件でプレイしているのですから、簡単にひと財産稼げるような甘い話はありません。

 

「お金持ちの法則」は実はシンプルなこと

投資以外でも資産をつくれる人的資本の活用法

お金持ちになる方法は、シンプルな方程式で表すことができます。 総資産=(収入―支出)+(資産×運用利回り) この方程式から、お金持ちになるには、①収入を増やす、②支出を減らす、③運用利回りを上げる、という3つの方法しかないことがわかります。

このうち①の「収入を増やす」には、「金融資本を金融市場に投資する」ことと、「人的資本を労働市場に投資する」という2つがあります。これまで説明した資産運用は前者に当たるわけですが、ほとんどの人はそれだけではお金持ちになることはできないでしょう。

日本では大卒の生涯収入は3億~4億円で、日本や欧米などの先進国の国民は、金融資本よりもはるかに大きな人的資本を持って生まれてきます。 人的資本を活用して収入を増やすには、(A)もっと稼げる自分になる、(B)より長く働く、(C)世帯内の働き手の数を増やすという3つの方法が考えられます。

(A)はいわゆる自己啓発やスキルアップのことですが、必ずうまくいくとは限りません。それに対して(B)の「長く働く」と、(C)の「共働き」は、誰でもできて確実に効果があります。

「安心して老後を過ごすには、年金とマイホームに加えて5000万円の金融資産が必要」などと言われ、不安を感じている人もいるでしょう。ですが、老後問題というのは「老後が長すぎる」という問題ですから、生涯現役なら問題そのものがなくなってしまいます。

定年後に月10万円、年100万円程度の仕事をしたとしても、10年で1000万円、20年で2000万円です。共働きなら4000万円ですから、これにNISAの運用を加えれば、老後の経済的不安はなくなるでしょう。

もちろん状況は人それぞれでしょうが、これからは定年を機に人的資本の運用を止めてしまった人と、生涯現役を目指して働き続けた人との間で、大きな経済格差が生じることは意識しておいたほうが良いでしょう。

 

「お金持ちへの障害」は 自分の中にある

ここまでお伝えしてきたお金に対する考え方は、誰が考えてもそうなる他ないという意味で、「1+1=2」のような話です。ただ日本の社会には、こういう合理的な話を嫌がる人がたくさんいます。 そういう人たちは、「1+1=3」になるウマい方法があるに違いない、と信じているのでしょう。

これでは、ウマい話を装って近づいてきた詐欺師に簡単にひっかかってしまいます。不合理な行動が常に失敗するわけではありません。

宝くじを買うのは経済学的には正当化できませんが、それでも10億円を当てる人は必ずいます。 そういうたまたま運が良かった人が、「宝くじを買って私はこんなに幸福になった」と大声で自慢すると、「そうだそうだ」という人たちが集まってきて、集団の熱狂が起きます。

資産を堅実に増やしていこうと思うなら、こういう「大衆の狂気」から距離を置く必要があります。世の中は合理的にはできていませんが、逆に言えば、だからこそ合理的な選択をする人が有利になります。

ゲームのルールを知らないプレイヤーの中で、あなただけが攻略法を知っているようなもの。お金に対する考え方や行動を見直すことを通じて、自分の中の不合理さに向き合うことが、幸せな人生を実現するスタートになると思います。

 

著者紹介

橘玲(たちばな・あきら)

作家

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。同年刊行の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。17年、『言ってはいけない』(新潮新書)で新書大賞2017を受賞。近著に『人生は攻略できる』(ポプラ新書)などがある。

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発売日:2024年06月06日
価格(税込):780円

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