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日本人はなぜ“逃げる”のが下手な“社畜”が多いのか?

2012年07月27日 公開
2022年05月24日 更新

香山リカ(精神科医)

日常生活のなかで 匿名の時間を失った

この状態に拍車をかけているのがITの発達です。昔の営業マンは、少しくらい喫茶店でサボっても許されていました。上司に聞かれても「客先で話し込んでしまって」で済みましたからね。

仕事のあと、まっすぐ帰らずに赤ちょうちんでストレス発散しても、「残業が」のひと言で片づいた。会社員でも、夫や妻でもない"匿名の時間"が、私たちの逃げ場になっていたわけです。

ところがいまはスマートフォンをもたされて、いつでも連絡が取れる状態を強いられます。それどころか、ツイッターで「○○なう」と自ら居場所や行動を社会に向けて発信している人もいます。

こうして日常のなかの逃げ場を失っていった結果、途中で小さく逃げることを忘れ、限界まで頑張ってしまう人が増えてきたのが現在の状況です。

もちろん、なかには逃げる人もいます。ただ、途中の息抜きがないので、逃げ方が極端です。産業医として診察している企業でも、ある日突然、会社にこなくなって失踪するというケースが何例かありました。

ぎりぎりまで逃げようとせず、いざ逃げるとなると破滅的なかたちでしか逃げられない。逃げることに対して、バランスが悪いのです。辛いと感じたら、極端な逃げ方をする前に、しばらく休んでみることが大切です。

 

【PROFILE】香山リカ 精神科医、立教大学現代心理学部教授

1960年、北海道生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を活かして現代人の心の問題を鋭くとらえるだけでなく、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで発信を続ける。専門は精神病理学。2012年4月よりNHKラジオ「香山リカのココロの美容液」でパーソナリティーをつとめる。著書に『気にしない技術』『「私はうつ」と言いたがる人たち』(以上、PHP新書)、『悲しむのは、悪いことじゃない』(筑摩書房)『「だまし」に負けない心理学』(技術評論社)など多数ある。

 

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