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クリエイターの仕事を奪うのか? “生成AI”開発企業がいま目を向けるビジネス

2023年07月03日 公開
2023年07月04日 更新

山本康正(京都大学経営管理大学院客員教授),ジェリー・チー(Stability AI日本代表)

 

生成AIの競争で勝ち残るためには?

――今、生成AIの業界はフィーバー状態だということですが、今後、競争に勝ち残っていくのは、どんな企業だと思いますか?

【ジェリー】AIは他の業界よりも技術の進化のスピードが速いので、そのスピードへの適応能力が重要です。既存事業で収益を上げられるからと、最新の技術についていくのを怠ったりしていたら、そのうち負けてしまいます。

大企業には動きが遅いというデメリットがあります。優秀な人材も資金もたくさん持っていても、大企業が有利というわけではありません。実際、生成AIを使ったチャットボットのリリースで、グーグルはOpenAIに後れを取りました。

スピードが速いのはスタートアップで、例えば、Stable Diffusionを発表してからわずか2日間で、Stable Diffusionを搭載したサービスを開発した日本のスタートアップもあります(AIdeaLabのAIピカソ)。

早く動いて、早くユーザーを獲得すれば、先行者利益を得られて、一気に広がります。

【山本】ジェリーさんがおっしゃる通り、機動力がものすごく大事だと思います。

大企業でなければできない案件はどんどん減っていて、能力があって、学習ができる人であれば、どこにいても仕事ができるようになっています。

実際、生成AIが一気に飛躍したのは2017年にグーグルとトロント大学の研究者が発表した"Attention Is All You Need"という論文が発端なのですが、それに関わったあと、グーグルを辞めて他社に移った人も多くいます。

特にグーグルは、大きくなりすぎて米国議会からも目をつけられていますから、下手なことはできません。スタートアップであれば、失敗したところで失うものがありませんから、新しい技術を実装するスピードを上げられます。

資金についても、技術を持っているスタートアップはどんどん投資を受けられます。

逆に、お金を持っていれば何とかなるわけではありません。大企業が出資したくても、スタートアップには断る権利がありますから。

【ジェリー】2~3年前までは、大企業がたくさんの資金を投じてデータを学習させないとAIの開発はできないと思われていたのですが、今は基盤モデルというものがオープンソースでリリースされて、常識が大きく変わりました。Stable Diffusionも基盤モデルの一つですし、BLOOMという言語モデルなどもそうです。

基盤モデルを調整したりすることで、予算の少ないスタートアップも低コストでAIを作れるようになりました。スタートアップにとって追い風の状況です。

 

少しだけでも学べばアドバンテージになる

――生成AIについてこれから学ぼうと思ったら、日本でも学べる?

【ジェリー】英語が話せて、資金があるなら、海外に行くのがいいと思います。

ただ、オンラインで、自宅で学習することもできます。その場合も英語のコンテンツが多いのですが、最近は日本語でも学べるコースもあります。それらで学びながら、実際にStable Diffusionの微調整などをしてみたりすれば、費用をあまりかけずに学習できます。

【山本】言語の壁も、自動翻訳の精度が上がってきていますから、それほど問題ないかもしれません。

むしろ、数学がちゃんと理解できるかどうかが問題ですが、ベクトルや微分、行列などがわかっていれば基礎は大丈夫です。世代によりますが、高校で学んだ人が多いでしょう。

【ジェリー】そうした理系の部分がわからなくても、ディープラーニングのモデルの活かし方や、どういう状況で何ができて何ができないのか、どういうデータが必要なのか、といったことが理解できれば、AIを使ったビジネスで活躍できると思います。

【山本】おっしゃる通りですね。AIを作る人と、AIを使ったビジネスを作る人は、一致しなくていいわけですから。

例えば、AIのことがまったくわからない会社に、わかりやすくAIの使い方を伝えるだけでも、十分な価値があります。そこからビジネスが生まれれば、その人に付加価値が生まれます。

わからないことがあれば、「わからないから関係ないや」ではなくて、「他の人もわかっていないだろうからチャンスだ」と思って、少しだけでも学べばいいんです。すると、それが大きなアドバンテージになります。

 

【山本康正】
京都大学経営管理大学院客員教授
1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、三菱UFJ銀行米州本部にて勤務。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得後、グーグルに入社し、フィンテックやAIなどで日本企業のデジタル活用を推進。京都大学大学院総合生存学館特任准教授も兼務。主な著書に『2025年を制覇する破壊的企業』(SB新書)、『2030年に勝ち残る日本企業』『入門 Web3とブロックチェーン』(共にPHPビジネス新書)などがある。

【ジェリー・チー】
Stability AI日本代表
1984年、米国生まれ。日中韓英の各言語が流暢な台湾系アメリカ人。2006年にスタンフォード大学工学部を、2012年にペンシルベニア大学ウォートン校を卒業。グーグル、Supercell、スマートニュース、Indeedでのアナリティクスや機械学習関連の役職を経て、23年1月にStability AI日本法人を設立し、その代表に就任。山本康正氏との共著に『お金の未来』(講談社現代新書)がある。

 

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