2012年06月05日 公開
2023年05月16日 更新
――企業年金が運用されているものである以上、市況によって、また、ヘッジファンドであっても運用者のスキルによって、損失が出る可能性はつねにある。
しかし、ある面では、公的年金(国民年金・厚生年金)よりも企業年金のほうが安定していると、喜多氏は話す。
【喜多】公的年金は、現役世代が払う掛け金を退職者に給付する賦課方式のため、少子化が進むなかで、現役世代の負担が大きくなってしまう。一方、企業年金は、自分が払った掛け金をプールし、自分が受け取る事前積立方式です。
実勢金利に合わせて予定利率や給付利率を変えるなど制度維持のための改善は必要ですが、公的年金ほど少子化の影響を受けないので、制度改正の必要性は小さい。掛け金抑制のための過大な予定利率の見積もりなど、不適切な運営をしないかぎり、過大にリスクをとった運用をする必要はありません
――企業年金にはいくつかの種類がある。退職者の受給額が決まっている確定給付型のものでは、その受給額から掛け金を逆算している。その際、予定利率を設定して連用による収益も考慮して計算するので、実際の運用利回りが予定利率を下回ると積立不足が生じる。
積立不足は企業年金の母体である企業が補填することになっており、経営上の負担になる。これが、いま多くの企業が抱えている問題だ。
【大海】企業年金は母体となる企業の会計に大きな影響を与えます。企業は、企業年金も1つの事業部として考える必要があるでしょう
――積立不足を解消するためには掛け金を高くしなければならず、やはり企業の負担が増えることになる。給付額を減額するという方法も考えられるが、確定給付型の場合、給付減額が認められるための法的なハードルは高い。
そこで、企業年金の一部を確定拠出型(日本版401k)にしている企業も多い。確定拠出型は、掛け金が決まっており、給付額は運用成績によって変動するというものだ。
積立不足が生じ、企業経営を圧迫している現状で、会社員個人としては、企業年金とどう向き合えばよいのだろうか。ファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子氏にお聞きした。
【竹川】退職給付制度のうち、一時金で受け取るものが退職一時金、年金払いの選択肢があるものが企業年金です。企業年金制度には厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型の確定拠出年金があります。
複数の制度を組み合わせている企業が多いので、まずは勤務先がどのような制度を導入しているのかを調べることが先決です。
このうち確定拠出年金は、3年以上勤務すれば100%受給権が確保され、自己都合で退職した場合でも、会社都合で事後的に給付をカットすることはできません。会社が倒産した場合も個人資産として保全されます。
一方、ほかの制度は、会社の存続、雇用の維持が困難な場合、労使合意に基づき、減額の改訂が行なわれるリスクがあります。過去の例ではJALが現役5割、OB3割の給付カットを行なっています。5割は厳しい例ですが、破綻や赤字転落などで数割の給付引き下げの例もあります。
個人としては、現状の制度を把握するとともに、給付減額の可能性を考慮して、自分で準備する“自分年金”を多めに考えることが必要でしょう
更新:11月21日 00:05