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日本の社員は「世界最低クラス」...松下幸之助が大切にした熱意が消えた理由

2022年09月16日 公開
2023年01月18日 更新

川上恒雄(PHP理念経営研究センター首席研究員)

 

チームを動かした熱意ある姿勢

塙さんの話を聞きながら、「利口な人はいらない」と発言した意味がよくわかった。「利口な人」であれば、「良質な消費データを集めるのが難しいので、出店するにはリスクが大きい」などという"合理的"な判断を下していたかもしれない。それではいつになっても中国進出はできない。

松下幸之助がこのような姿勢を「インテリの弱さ」と述べて、批判していたことを思い出した。まずは頭で可能性をあれこれ考えるより、何としてでもやり遂げるのだという情熱と使命感が必要なのだ。「才能がハシゴをつくるのではない。やはり熱意である」と松下は言っている。

では、熱意とは、そもそもどうしたら持てるものなのか。教育研修などから学んで身につくものでもない。

2017年に企業を対象にアメリカのギャラップ社が行なった従業員エンゲージメント国際比較調査によれば、日本は「熱意あふれる社員」の比率が6パーセントにとどまり、139カ国中132位の世界最低クラスだった。

国際比較調査において日本人は相対的にネガティブな回答をする傾向があることを考慮しても、低い値であることには違いない。

日本人が仕事への熱意に欠ける主たる要因の一つは、やりたい仕事と現状の仕事のミスマッチである。よほどの専門職でもない限り、配属先で好きな仕事ができる人は限られているだろう。「どんな仕事にも意義があるのだ」と上司から言われたところで、なかなか納得できないものだ。

しかしそれでも、松下幸之助は与えられた職務に打ち込むことが大切だと説く。なぜなら、その熱意ある姿勢が周囲の共感を呼ぶからだと言う。なるほど、頑張る人を応援したくなるのは人間の自然な感情である。

塙さんが呼びかけただけで、中国への片道切符になるかもしれないのに、50人を超える人が手を挙げたのは、塙さんの熱量のすごさがあったからだろう。

「熱意」とは個人の心の中に湧き上がってくるものだが、その根底には人同士の心の通い合いがあることを、松下は強調していた。"大バカ者"たちのように愚直に頑張っていれば、共感したり応援してくれたりする人が増えてくる。そうすれば、さらに大きな困難に立ち向かえる。

もっとも、「そんなことを言われても、なかなか気持ちが熱くなれるものでもない」という向きもあるだろう。でもとりあえず、小さなことから頑張ってみればよい。

時間はちょっとかかるかもしれないが、きっとその姿を誰かが見ているはずだ。共感してくれる人が1人でもできれば、やる気も高まる。熱意はそんなきっかけから醸成されてくるものでもあるのだ。

 

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