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デジタルアートの可能性...「NFT購入者3000人によるコミュニティ」が活発な理由

2022年07月07日 公開

高尾俊介(甲南女子大学文学部メディア表現学科講師/クリエイティブコーダー)

メタバース NFT デジタルアート

近年、メタバースと共に注目されているNFT(Non-Fungible Token)。デジタルコンテンツを「唯一無二」のものにすることができるNFTは、デジタルアートの在り方を大きく変えていく。

今回は、自身もNFTアートの作成・販売を行い、NFTアートの土台を整えるべく財団を設立した、高尾俊介氏を取材した。(取材・構成:横山瑠美)

※本稿は、『THE21』2022年5月号第2特集「先駆者たちに聞く! メタバース・NFTは世界をどう変えるのか」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

NFTが変えるデジタルアートの在り方

私は、大学教員として働くかたわら、プログラミングを「表現の道具」として使い、アート作品を制作し続けています。

2019年には、毎日コードを書くことでプログラミングと日常生活を結びつける「デイリーコーディング」を提唱しました。自ら実践し、できあがった作品をSNSに投稿するのが日課です。

2020年の終わり頃から、世界ではデジタルアートをNFT化した「NFTアート」が高値で取引されるようになり、関連市場が一気に盛り上がりをみせました。

高値で取引される作品の中には、確かに投機的意味合いで価格が高騰している作品もあります。しかし同時に、作家の経歴や、作品の背景まで含めた適正な価値づけがなされた作品もすでに数多く存在しているんです。

例えば昨年、デジタルアート作家、ビープルの作品が約75億円で落札されました。常識外れの高額に思えますが、ビープルは5000日以上にわたり、毎日欠かさず作品を公開し続けた業界の有名人。

しかも、それまでの全作品をまとめて一つの作品として出品したのです。評価されるのも道理でしょう。

さすがに「いつかは自分も」などとは思いませんでしたが、続けていけば新たな可能性が開けるかもしれない、と思ったことは覚えています。価値をつけにくかったデジタルアートに適切な評価を与えられる土壌が、ようやく形成されつつあるのです。

NFTアートは、欲しい人と手放したくない人の「綱引き」によって作品の価格が決まります。投機的な人々の激しい動きが永遠に続くはずはありません。

数年後には、NFTアートも現実の絵画と同様に評価され、優れたものが安定した価値を持つことができるようになりそうです。

 

1点3.5万円×1万点がわずか2時間半で完売!驚異のNFTアート市場

私がNFTアートの販売に挑戦したのは2021年8月。アーティストのNFT発行を支援する会社の代表の方から、誘っていただいたのがきっかけです。

ただ、私は職業作家ではありませんし、作品だけでなくコード内容も公開しています。時には、私のほうが他人のコードに刺激を受けることもある。それなのに一人で収益を得る、という行為には、かなり違和感がありました。

そこで、自身の収益分を全額寄付する、という形のプロジェクトにしたのです。

それが、NFTアートプロジェクト「Generativemasks」です。用意したのは、リロードのたびにカラーやパターンが変化する「仮面」のデータ、合計1万点。NFTアート専門のマーケットプレイスで、1点0.1ETH(ETHは仮想通貨の単位。0.1ETHは当時のレートで約3.5万円)で発売しました。

するとなんと、それらがありがたいことにわずか2時間半で完売したのです。一人で複数点購入する人もいて、購入者は数千人にのぼりました。

NFT作品は、最初の購入者の手元にずっとあるとは限りません。1万点も販売すれば、二次売買も続発します。そのたびに、作品の評価も価格も変動するのです。完売直後は、日々の価格変動に常々プレッシャーを感じていました。

しかし、購入者の方々も、私にプレッシャーを感じてほしくてこの作品を買ったわけではないはずです。私が重圧に負けてリタイアすれば、作品の価値も落ちてしまいます。そのことに思い至ってからは、価格のことはあまり気にせず、制作を楽しむことを心がけるようになりました。

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